第84話 目に見える悪素毒の採取。
俺は自分で掘った穴に入ると、インベントリから瓶を1本出す。きりきり回して、金属製の蓋を外す。一度は綺麗に洗ってあるんだな。埃も入ってないわ。
木の根っこを斜めに削って、瓶の口に入れる。すると、少しずつだけどどろっとした漆黒の表面がテカっているかのような、不気味さを持った悪素が流れ落ちてくる。ゆっくり待って、瓶に半分くらい溜まったら根っこを抜いて、蓋を閉める。
もう一本、同じように根から流れる悪素を溜めていく。瓶の透明度は低いけど、不気味な黒さ。怖いとは思わないけど、なかなかに厄介な代物だとは思うよ。
2本目が終わって、次は3本目。ややあって3本目も終わる。4本目は削ってない細めの根を瓶に入れて、ぎゅっと押し込んだあたりで切る。そのまま蓋を閉める。最後の1本は、ここの土を入れて7分目くらいなったら蓋を閉めた。
俺は穴から出ると、鍬以外インベントリに格納した。土の埋め戻しは思ったよりも楽な作業。一気に落としてぺたぺたと叩いて成らすと、軽く踏み固めて作業は終了。鍬もインベントリに入れてロザリエールさんたちのところへ戻っていく。
「用事済んだので戻りますか」
「お帰りなさいませ」
『くぁ』
ロザリエールさんがセントレナへ先に乗って俺が乗る。セントレナはゆっくり走って軽く跳ねる。
「セントレナさん。さきほど通った集落へお願いできますか?」
『くぁ』
セントレナもアレシヲンも、しっかりと俺たちの言葉を理解してくれている。だからこちら側でね、彼女らの返事を察することができれば、ある程度会話が成り立つんだ。
ロザリエールさんが育った集落へ戻ってきた。
「セントレナさん。その広いところへ」
『くぁ』
すーっと高度を落とし、綺麗に着地。ここを離れてから、それなりに経ってるけど、荒らされてる感じはないね。おそらくは、穀物なんかの食べ物をすべて持ってきたからだと思うんだ。
「ご主人様、一緒にいいですか?」
「うん。セントレナ、ちょっと待っててね」
『くぁ』
ロザリエールさんの生家、族長屋敷に入っていく。迷うことなく、以前俺が泊めてもらった部屋のとなり。
「あの、これ、よろしいですか? 母の形見なんです」
古風な、姿見のついたドレッサーみたいな家具だった。
「うん。よっと」
目の前から家具が消えていく。
「ま、まだ大丈夫ですか?」
んーっと、画面上にインベントリを表示。あれ? ちょっと増えてる? おー、レベル2に上がってたのか。だからあの魔道具、離れてても格納できたとか? ま、それはとりあえず置いといて、と。空きはあと、40枠はありそうだね。
「うん。まだまだいけるよ」
「では――」
コーベックさんたちの家も回って、あれこれ格納して回ったんだ。重さが関係ないのは便利だね。お、それっぽいのは重ねられるんだ? 『整理棚』って重なってるよ。もちろん、『ドレッサー』も。おそらくは、作った人が同じだから? それとも何か条件があるのかもだね。
実際、串焼きなんか、肉は別だろうし。案外ざくっとしてて自由度が高いのかもしれないね。
さすがにベッドを格納できたのは驚いた。前は大物ができなかったんだけど、おそらく2に上がったからだとは思うよ。こりゃ商人になって重宝されるスキルだね。回復属性魔法が使えなければ、商人になってたかもしれないからさ。
「ご主人様、ありがとうございました。あの子たちも喜ぶと思います」
「よかったこれで今日の失敗は帳消し――」
「は? 何言ってんだ? そんなわけないだろう?」
「はいごめんなさい。調子乗りましたっ」
うぇえ。たまに怖いんだよ。
「うん。わかればいいんだ」
セントレナの背に、ロザリエールさんが乗る。しょぼーんとしながら、俺が続く。時間を見ると、そろそろ11時になろうとしてた。ワッターヒルズに戻るころには、お昼になるかな?
ほどなくワッターヒルズにある厩舎に到着。セントレナとロザリエールさんにはすぐに『
でもさ、俺の指見てもコンマ5ミリすら黒ずみがみられないんだよね。どうなってんだろう? 俺の身体って。
「昼食の準備ができました」
「はいはい」
俺は部屋から出てきた。昼食が終わったら、集落から持ってきた荷物をほどく予定になってるんだ。さて、お昼のご飯は、お、肉を焼いた匂いがする。へぇ、昼から肉料理か、めずらしい――
「え?」
テーブルに皿が一枚。グラスに水。皿の上に乗ってるのは、串焼きが5本だけ。
「これ?」
「はい。お昼ご飯でございますが、何か?」
ロザリエールさんのところには、スープと根野菜、葉野菜のサラダ。鶏肉をあぶり焼きしたやつが挟まった、パン。あれ? 違いすぎじゃ、ありませんか?
「先日申し上げましたよね?」
「はい?」
あー、あれか。
「この間怒られて、そのとき『こんどやったら串焼きだけにするぞ?』ってあれですか?」
「左様にございます。覚えておられたのですね。先ほど買ってきたばかり、焼きたてでございますから、冷めてしまいますよ?」
「まじですかー」
うん。わびしいご飯でした。串焼きはうまかったよ? 5本食べたら、俺でも腹一杯になるよ? でもさ、ロザリエールさんのご飯、おいしそうだったな……。反省。しょぼーん。
1階にあるロザリエールさんの部屋。集落の屋敷から持ってきた、荷物をほどく作業を始めてる。
この部屋初めて入ったけど、案外何もなかったんだな。使用人が住み込んでたって聞いたけどさ、それにしたって物がなさすぎ。あるのはベッド、テーブル、ちょっとした整理棚。それだけなんだよ。クローゼットの中は知らないよ。見るわけにいかないからね。
ここにあったベッドは、空き部屋に置いてきたよ。あっちの屋敷から、ベッドも持ってきたからね。二つはいらないんだって、そりゃそうだ。
「ご主人様、ここにお願いできますか?」
「はいよ」
ドレッサーを窓際の壁沿いに置く。
「ベッドは?」
「こちらにお願いします」
元ベッドがあった場所に、ちょっとだけ大きなベッド。ドレッサーもベッドも、彼女のお母さんが使ってたものらしいんだ。
ロザリエールさんのあっちの部屋からもあれこれ持ってきた。おかげでちょっとばかり殺風景だったこの部屋も、賑やかな感じになってる。へたすると、俺の部屋より立派かも。
何せ俺は、なんでもインベントリに入れちゃうから。へたすると、借りたばかりの宿屋の部屋状態。必要なくなったら格納しちゃうんだよね。
▼
時間は2時を回ったあたり。
ブリギッテさんは出てきたけど、コーベックさんはお籠もり状態。あの魔道具を調べてくれてるとのこと。ありがたい。あとでコーベックさんの好きな食べ物を差し入れてほしいと、ロザリエールさんにお願いしておいた。
あっちで採取した悪素は明日報告の予定だから、今日はあれこれやるつもりはないんだ。インベントリに入れておけば、状態は保存されるだろうからね。増えることも減ることもないと思いたい。
コーベックさんが来る予定の夜までやることがなくなったから、厩舎にいってセントレナとアレシヲンのブラッシングをしてた。これまで犬や猫のペットを飼ったことがないけど、こんな感じなんだろうか? まぁ、セントレナたちはペットというより、家族なんだけどね。
明日ギルドに行ったら、屋敷の敷地に厩舎作っていいかプライヴィアさんに聞いてみよ。ほんとなら空いてる部屋にって思うけど、それはさすがにまずいだろうから。翼広げたら、狭いだろうからね。ドアから入れなさそうだし。
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