第85話 魔道具ばらしてもらいました。
時間的には夕食の前。ロザリエールさんがテーブルを拭き始めたあたりのこと。
「こんばんは、コーベックでございます」
ロザリエールさんが玄関へ向かった。戻ってきたロザリエールさん、一緒にブリギッテさん。あとから、大事そうに大きな手提げ袋を抱えてきたコーベックさん。
ブリギッテさんは、テーブルの上に敷布を敷いてくれる。そのあとは、ロザリエールさんのところへ、お茶を手伝いにいったんだろうね。
コーベックさんは、手提げ袋から例の魔道具を出して、テーブルの上にのせた。おぉ、上蓋が浮いてる。外すことに成功したんだ。
「お館様。こちらをごらんください」
コーベックさんが蓋を外すと、真ん中に透明に近い石が5個固定されてる。大きさは親指の爪より大きいくらい。
そういや前に、『
「これがですね、力を失った魔石でございます」
「そっかー」
なるほど、電池が切れたみたいな状態になると、赤から透明になると。メモメモ。
「はい。次はこちらを」
コーベックさんが指さしたあたりには、魔石を中心として見覚えのあるものが彫り込まれていたんだよね。三角形に配置されていて、中心にひとつ大きな、外側に3つの小さな魔法陣か書かれてるように見えるんだ。
「これって、魔法陣? 四つあるよね?」
「はい。本来は紙などに専用の墨を使用して、書き入れるものですが」
「なるほどね、けどこれは彫刻、かな?」
「はい。この中心にあるものが解毒、外側の3つが吸引だと思われます」
「なるほどね、上から吸い込んで、対流させて解毒。それで下から排出か」
「おそらくそれで間違いはないと思います。ですが、これはあまりにも」
「効率が悪い、そうだよね?」
「はい、まったくもって、その通り。……でございます」
コーベックさんも解析、検証が好きなんだな。根っからの技術屋さんってところなんだろうね。
俺は紙とペンを取り出して、その場で簡単な絵を書いてみせたんだ。
「例えばさ、俺の生まれた場所にはね、こう上にタンクがあってさ、真ん中へ水の自重で落ちていって、ここに溜まる。で、ここを解放すると水が流れる。ここの水が足りなくなると、上のタンクからまた水が落ちて補充される。みたいな装置がよくあったんだよ」
俺が説明してるのは、いわゆるウォーターサーバの簡単なイメージなんだ。
「なるほどなるほど」
「これならさ、必要な分だけ解毒できればいいじゃない? 無駄に魔石を消費することもないと思うんだよ」
「なるほどなるほど」
「もしさ、この魔道具の原理で、水にある悪素を解毒できるならね、どれくらいの時間、解毒したらいいか? 地域によっても加減を変えていけば、無駄が少なくなると思うんだ」
あの集水升のところにこの魔道具二つ入れて、ただ動かし続けるなんて、無駄もいいところ。待機電源じゃなく常に稼働じゃもたないでしょ?
「なるほどなるほど」
「ダイオラーデンでさ、魔石が高価すぎて破綻したというなら、それはその垂れ流し状態だった稼働時間を計算に入れなかったのが、悪いだけじゃない?」
「さようでございますね」
「そのあたりをしっかりと考えて運用するなら、少なくとも水を安全に飲んでもらえると思うわけよ」
「なるほどなるほど」
「結局さ、こんなアホな魔道具でロザリエールさんが苦しむことになったんだ。それなら俺たちがさ、見返してやろうと思わない?」
「もちろんですよ」
「ところでさ、この魔石の大きさだと、ひとついくらになるわけ?」
「そうですね。
なるほどね。文飛鳥片道で米粒1つサイズだったから、それくらいするだろうな。
「こっちで100枚、もしだよ? このサイズの魔石がとれない。交易、いや、買い付けで入手するようなダイオラーデンとかだったら」
「おそらく2倍、いえ、3倍はかかるかと思います」
「んっと、魔道具ひとつ動かすのに5個で1500枚。魔道具が2つあったから3000枚か。稼働時間がどれくらいだったかはわからないけど」
「そうですね。いいところ20日、30日は動かないかと思います。外側の吸引だけでかなりの魔石を消費するようですから」
1日150枚。20日で金貨3000枚。30日で4500枚。ってことは、あっちの年間消費で考えたら、54000枚以上か。
串焼き1本200円、ちょい高めで換算するとしたらだよ? 5本で銅貨10枚、これで1000円。銀貨1枚は銅貨10枚って考えたら、単純計算1万円。酒場での支払いが銀貨2枚だったからそんなもんでしょ? 金貨1枚が銀貨10枚で10万円だとしたらだよ? 年間軽く50億超えるってかー。あくまでも予想とはいえ、あんな小国じゃ破綻するわ。
「えー、それって運用的に無駄じゃないのさ?」
「えぇ、そうでございます。お館様のおっしゃるとおり、解毒の部分だけでしたらここまで大きな魔石は必要ないかと思います」
そりゃそうか。『
「なるほどね、無駄のない方法で、解毒できそうな魔道具、作れそう?」
「お館様の案を採用してもよろしいのでしたら、作ってみようと思います」
「まずはさ、この中枢になる部分の浄水装置、いや、魔道具を先に作ってくれるかな?」
「はい、やってみます」
「うん。じゃ、予算は俺が持つからさ、いざとなればギルドから出させるようにするし」
「いえ、実際あまりお金はかからないと思うんですね。手間がかかるだけですから」
「まじですか-」
こうして、『黒森人式解毒浄水魔道具括弧仮名括弧閉じ』を作ることになったんだよね。てかさ、魔道具作れる家族がいるとか、燃えるよね、まじで。
▼
その夜、ロザリエールさん手製の晩ご飯を食べさせてもらって、涙が出たのは仕方ないよね? だってさ、もしかしたらまた、串焼き5本の可能性があったんだよ? まだロザリエールさんが怒ってる可能性があったんだよ?
夕食の時間だからと呼ばれて、部屋から出て1階に降りてきて、おっかなびっくり居間を覗いたら、料理があったんだよ、ちゃんと2人分ね。膝に力が入らなくてさ、へなへなと座り込んじゃったんだ。
晩ご飯の美味しかったこと。今後は絶対に、あんなことはしないと心に誓ったよ。うんうん。
明日からはこっちでまた治療の毎日。6日続けて、7日目でダイオラーデンに戻る予定。ただ、1日あたりに治療できる人数が増えたので、しばらく頑張れば余裕が出るはず。ダイオラーデンは2000人ほどって聞いたけど、
日課になってるスマホの取り出し。電源ON。バッテリー100%。これ、どれくらいで100%になるんだろう?
『ぺこん』
『電話してもいい?』
ロザリエールさんが、洗い物終わって俺の隣りにお茶もってきて座ったんだ。俺は『どう?』と目で確認。『かまいませんよ』と目を伏せて返事くれた。
麻夜ちゃんか、『おっけ』送信。
『ぽぽぽぽぽぽ』
通話開始、っと。
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