第86話 証拠を集めてくれる?

『タツマおじさん聞いてよー、あ、ロザリエールさんもこんばんわ』


 いつも通り、麻夜ちゃんの愚痴から始まった。


 朝也くんと麻昼ちゃんの、度を超したイチャつきぶり。中庭で物陰に隠れるどころか、それはまるでベンチの上でイチャつく海外の映画のようだった。その存在はリア充、いや、リア獣だよ。日本人の慎み深さはどこにいったんだ?


 そういう免疫のないところは、日本のそれとこの世界は似ている。3人の護衛も監視もなくなったのはきっと、『中庭も王城の中、場所的に危険性がない』というより『見てしまうことに対する気まずさ』だったのでは? 真夜ちゃんの話から察するに、そんなところだと思うよ。俺もね。


「てことはあれかい? 用事があるときは、スマホで呼び出すしかない?」

『そりゃそうよー。麻昼ちゃんがいくら麻夜の実の姉だからって、ベロチューしてるところなんて見たくないもん』

「あー、そりゃそうだ」


 ロザリエールさんも頭抱えてる。返答に困ること言われても、何も言えないよね。やっぱり。


『でしょ?』

「だからあれだ。スマホ出してても、警戒されないわけ」

『そうそう。だからこうしてね、タツマおじさんと通話できてるから、それは助かってるんだけどねー』

「それは確かに」

『でもね、麻夜はほら、ゲーマーなわけでしょ?」

「うん。かなーりディープなね」


 大規模戦闘レイドでも活躍するくらい、優秀な魔道士だったからね。


『そっそ。それでね、タツマおじさんも知ってるでしょう?』

「何を?」

『レベルを上げたら、解除されるはずな、「無効化された表示ディセーブル」な魔法』


 麻夜ちゃんにも見えてるのか。でも彼女はレベル1からみたいなんだよね。やっぱり何か違うんだろうな。


「あー、うん。レベル上がったら有効化イネーブルになるよ」

『やっぱりー。目の前にニンジンがぶら下がってるのに、いつまで猫被っていたらいいのかもう、限界なわけ』

「そうだよね」


 本当なら、外で魔法打ちまくるんだろう。でもそれができないから、風くらいしか練習できないって言ってたから。


『でもね、麻昼ちゃんと朝也くんが心配だから、麻夜は逃げちゃうことができないの。何かあっても、抵抗できないかもしれないから。だってあの2人は』

「イチャコラするから見てられない?」

『をいをい、違うって。タツマおじさん、滑ってるよ』


 ツッコミいただきましたー。滑ったんか……。


「場を和ませようと思ってね」

『あのね、2人は麻夜たちと違ってゲーマーじゃないの。だからね、麻昼ちゃんは魔法とかにあまり興味がないの。朝也くんは多少あったみたいだけど、剣を振る鍛錬しかしてないから飽きちゃったみたいなの』

「そうなるかー」

『麻昼ちゃんは、朝也くんといられたらそれでいいって思ってるし、朝也くんも麻昼ちゃんといられるから毎日が幸せそうだし』

「うわぁ……」


 まじでリア充だよ。もう、ラブコメの世界だね。


『麻夜たちはね、ステのどこにも勇者の文字がないわけ。光属性と聖属性が勇者の証拠だっていうけど、ぜんぜん強くなった感じもないし。成長が早いわけでもなさそうなのよ。麻夜はがっつり暴れ回りたいの。でも、水しか触らせてもらえないし』

「あー」

『ね? わかるでしょ?』

「わかる。あ、ところでこんな話しちゃって大丈夫なの?」

『大丈夫。風の魔法が4になってね、「風の防壁エア・ウォール」が使えるようになったのよ』

「あー、MMOゲームにもあったなー」

『そっそ。これ、防音効果完璧なの。レベル3の「風の索敵エア・サーチ」もかけてるから、近くに誰か来たらすぐにわかるし』

「そんなのもあったなー。ほんとすごいな」

『麻夜からするとね、勇者よりも賢者って感じ?』

「勇者じゃないね、それじゃ」

『聖属性魔法もね、まだ1だけど』

「うん」

『レベル上がったら使えるの、もう見えてるのよねー』

「やっぱり」

『聖属性の勇者というより、巫女じゃん、って感じ』

「そうなんだ」

『だからね、そろそろ不安になってるの。このままじゃ駄目なんじゃない? って』

「そこは俺が考えてるから」

『ほんと?』

「だからさ、麻夜ちゃんには引き続き、『国王が国王として駄目な証拠』を集めてほしいんだよね」

『まじですかー、あれってやっぱりそういうことなのね?』

「言わなかったっけ?」

『聞いてないってばー』

「うん、言わなかったんだ。麻夜ちゃんたちが危ない目に遭うのが嫌だったから」

「本当は、あたくしが、潜入する予定だったんです」

『ロザリエールさんが、そうだったんだ』

「覚えてるでしょ? 俺が国王の前で啖呵切った、あの言葉」

『「エンズガルド王国」とかいう話?』

「そう。俺ね、かくかくしかじかで、そこの公爵閣下の養子になっちゃったんだ」

『まじですかー』


 ロザリエールさんが『ぷぷぷ』って笑いを堪えてる。俺と同じような調子で驚いてる麻夜ちゃんが可愛かったんだろうね。


「城下の人たちをないがしろにしてるのを知っちゃったし。ほんとならさ、もう『ひっくり返しちゃってもいいかな?』って思ってるんだけど、そうならそうで証拠は必要じゃない?」

『そうだよねー』

「うんうん」

『「おうおうおう、黙って聞いてりゃ~」ってのでしょ?』

「古いの知ってるね……」


 昔流行ったっていう、時代劇のワンシーンだよ。何歳なのさ、この子?


「だからね、打ち合わせもある程度終わってるんだ。あとは2つ証拠が必要なんだ」

『どんな?』

「ひとつは、『国王の指と王妃の指に黒ずみがあるのか?』。もうひとつは、『麻夜ちゃんたちが召喚された理由』だね」

『うん。「悪素被害の原因を探り、共に解決する」だなんて、何もやってないよ』

「そんな気がしてた。もしさ、国王たちが『自分たちの利益だけのために、麻夜ちゃんたちを召喚した』なら?」

『それ最悪。マジきもい』

「でしょ? それさえわかれば、秒読みに入ると思う」

『でもごめんなさい』

「どしたの?」

『麻夜ぜんぜん役にたたない。ぜんぜん強くないから』

「いいって。ゆっくり強くなって、みんなを守れるようになればいいだけ。ひっくり返すのは、俺とロザリエールさんがやるから」

「えぇ、あたくしとタツマ様がいたら、そう、難しいものではありませんからね」

『あ、そだ』

「ん?」

『あと3日くらいだったと思うけど、あまり興味がなかったから忘れてた』

「うん」

『王妃さん。誕生日らしいのよね。多分、謁見あると思うのよ』


 王妃様じゃなく、王妃さんか。


「そっかその日」

『うん。指、しっかり見てくる。手袋はしてないと思ったの』

「痛くないから、か」

『手袋の上から指輪できないでしょ?』

「あ、そっちか」

『わかったら電話するねー、明日もするけど』

「するんかい」

『あははは。あ、バッテリー』

「そだね。10%切ってる」

『ロザリエールさん、おやすみー。おじさんも』

「俺はついでかい」

「おやすみなさい。麻夜さん」


 どっちにしても、今週で方向性が決まる。来週、あっちに行ったら、行動開始になるのか? まぁどっちにしても、俺はやること変わらないけどね。治療優先。


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