第87話 悪い報告と良い報告。

 久しぶりにいつもの『個人情報表示』画面をぼやっと見てたら、何やらここにあるはずがないスキルが表示されてた。『自然回復力増加』ってやつだけど、MMOゲームにもあったからどんなものかは知ってたけどさ。説明みたら『自然回復を促す』だって、そのまんまじゃないか?


 『ディスペル解呪』で解除してないから、『パルス脈動式補助呪文』で『リザレクト蘇生呪文』は回りっぱなし。それでも、魔素量がかなーり増えちゃってたから、10秒ごとにちょっと減ってはじわっと戻ってる。


 ちょっと前から不思議に思ってたんだよね。マナ茶と『マナ・リカバー魔素回復呪文』をしてから治療を開始してるんだけど、回復量が多くなってたんだ。ギルドに向かってる今はなにもしてない状態なのに、じわりじわりと減った分が戻ってるんだよ。


 これが原因だったのか、と感心してて、いまここという感じ。さてさて、ギルドに到着っと。


 あ、ロザリエールさんは、掃除洗濯、お買い物に黒森人族うちのひとたちの様子を見に行くって言ってたよ。あと、セントレナとアレシヲンのブラッシングもしてくれるってさ。働き者だよね、助かってますわ。


 ギルドの出入り口、いつもならクメイさんがドアを開けてくれるところなんだけど、おかしい。開かない。何かあった? それとも忙しいのかな? と思って開けたら、お出迎えはこの人でした。


「タツマくん、アレシヲンに何かしなかったかい?」


 俺の義理の母親になった、総支配人のプライヴィアさん。そういや彼女も獣人だった。匂いでわかるんだっけ? ……あー、バレてた? やっぱり。そりゃそうか。


「はい。悪素毒に侵されてましたから、その治療と、古傷がありそうなので、ついで治しておきました」

「驚いたよ。一度も地面に降りずに、ここまでたどり着いてしまったものだからね」


 アレシヲン、絶好調だったんだな。よかったよかった。


「羽ばたき続けるのが苦手なのは、変わらないみたいですけどね。そんなに高いところへ上昇するのはセントレナも無理でしたから。走竜もそうですが、一度馬さんたちも確認したほうがいいですね。人間と同じで悪素の被害は必ずあるはずです」

「そうだね。タツマくん。君にばかり負担をかけてしまうのは申し訳ないと思うが……」「あと、報告が2~3あるので、部屋、いいですか?」

「報告、ね。うん、わかったよ」


 総支配人室へ通じるドアを抜けて、その途中で右を向いたプライヴィアさん。


「クメイくん。お茶はいらないからね?」


 お茶はいらない。人払いをしなさいってことだろうね。


「は、はいっ。かしこまりました。ソウトメ様、お帰りなさいませ」

「クメイさん。おはよう。あとで、よろしくー」


 総支配人室に入って、プライヴィアさんはソファにどっかりと座る。俺も向かいに座らせてもらう。インベントリに入ってる、マナ茶じゃない普通の、かなーり美味しいお茶を出して、彼女と俺の前に置いた。


「いただくね」

「はい。3つほど、報告があります」

「すべて悪いものなのかい?」

「んー、ひとつは悪い報告。ひとつは、良い報告でしょうか? 最後のは、どう受け取るかによるかと思います」

「そうなんだね、聞こうじゃないか?」

「まずは、ダイオラーデンです。勇者のひとりなんですけど、協力者となってくれまして」

「ほほぅ、それはよかった」

「はい。彼女の話を聞いた限りでは、国王の首のすげ替えは避けられないと思っています。来週早々には動くことになりそうです」

「……やはりそうなってしまったんだ。民をないがしろにしてしまっては、駄目だからねぇ。まぁ、リズレイリアならいい王になると思うよ」

「俺もそう思います」

「それで、援軍はいらないのかい?」

「はい。俺とロザリエールさんで十分かと」

「困ったら相談するんだよ? 義理とはいえ、これでもタツマくんの母親になったんだから」

「わかりました。甘えるところは甘えさせていただきます」

「ありがとう、それでもうひとつはどんなことかな?」

「はい。月額の使用料が金貨20000枚の魔道具、覚えていますか?」

「あぁ、もちろんだとも」

「某所からいただいてまいりました。もちろん、俺とロザリエールさんへの迷惑料としてこっそり」

「……はい?」


 珍しく、力の抜けた返事をするプライヴィアさん。


「あれだけのことをやらかしたダイオラーデンからは、銅貨1枚もいただいてませんから、これくらいはいいかな? と思ったんです」

「まぁ、今だったら宣戦布告になってしまうからねぇ」

「それでですね、俺の空間属性魔法で格納したところ、新たな事実が発覚しまして」

「ほほぅ」


 ものすごく楽しそうな表情に変わっちゃったよ。俺が申し訳なさそうな顔をしてないからだと思うんだけど。


「『魔石中和法魔道具』と思われていたものがですね、『連続解毒効能魔道具』と表示されたんです」

「なんだいそれ?」

「おそらくその名の通り、解毒の魔道具だったんでしょう」

「どういうことなんだろう?」

「これからは、3つめの報告に関わってくるんですが、早速、魔道具を分解をしてみたんですね。作業を担当したのは俺じゃなく、黒森人族の技術者です」

「それは興味深い」


 身を乗り出すようにしてくるプライヴィアさん。元々、黒森人族かれらの移住は大歓迎だと言ってくれたからかな?


「簡単な絵で申し訳ないんですけど、こんな感じになってました」


 俺はあのあと、紙に書き写したんだよね。適当だから、四角と三角、丸でしか書いてないんだけど。


「こう、箱がありまして、それを開けると、真ん中に魔法陣が1つ、それを囲むように3つの魔法陣がありました」

「ふむ」

「真ん中が解毒の魔法陣。回り3つが吸引の魔法陣だそうです。上の穴から吸い上げて、下の隙間から排出する感じだったのかもしれません」

「ほぉ」

「この真ん中に、これくらいの大きさの魔石が5つ固定されていました。もちろん、力を失って透明になったものが残されていたんです。湖から細い水路で水を引き、集水升を作ってその中に、この魔道具を2つ沈めていたんです。集水升の底から、水を吸い込むような穴があったそうです」

「なるほど、うんうん」

黒森人族うちの技術者が調べた限り、この状態で20日程度しか稼働しないでしょうとのこと。これが2つですから、20日でこの大きさの魔石が10個。ワッターヒルズこちらダイオラーデンあちらでの、魔石価格を比較し、年間の費用を算出したところ、財政が圧迫してもおかしくない金額が出ました」

「そうだろうね。年々魔石の価値は上がっているだろうから」

「先ほど話に出ました3人の勇者と俺は、いわゆる『勇者召喚』でこちらの世界へ来たわけですがその際、召喚された理由を『悪素被害の原因を探り、共に解決する』というものだと聞いたんです。けれど、結局は自分たち王族および貴族のためだけに、その魔道具の代わりにするため召喚したんだろうという結果に行きついたわけです」

「うーん……」


 ありゃ? プライヴィアさん、珍しく頭を抱えちゃった。


「どうしました?」

「いやね、それがもし事実だとしたら」

「はい」

「私たちはダイオラーデンを滅さなければいけないんだよ」


 え? そこまで重たい罪になるの?


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