第97話 意外性ならこうでしょ?

「それじゃ、ロザリエールさん。とらわれの姫君を助けにいきますか?」

「えぇそうですね」

「あの、おじさん。大丈夫なんですか?」


 朝也くんが心配そうに尋ねてくる。


「ん? あぁそっか。朝也くんと麻昼ちゃんは知らないんだね」

「あ、もしかして、麻夜ちゃんが言ってた『ギルドの聖人様』と、『漆黒のロザリア』さんって」

「タツマくんとロザリアくんだよ。ちなみに聖人様の命名はリズレイリアなんだけど」

「え? まじですか? リズレイリアさん」

「いえ、その。はい。申し訳ありません……」

「ところで、なんで支配人さんが、おじさんに丁寧な言葉使いをするんですか?」


 麻昼ちゃん、ストレートな質問。


「それはそうです。私とソウトメ様では立場が違いますからね」

「え? だって支配人さんはここの女王様になるんですよね?」


 女王様とお呼びっ! ってか。うわ、ツボりそう。


「ソウトメ様はですね、ここよりも大国のエンズガルド王国、その公爵閣下、プライヴィアさんの義理のご子息なんです」

「「え?」」


 麻昼ちゃんと朝也くんが驚いてる。あ、麻夜ちゃんはそのへん話してなかったんだ。


「そうとも。タツマくんはね、我が最愛の息子なんだ。ゆくゆくは、我がゼダンゾーク家を継いでもらうつもりでいるよ」

「……そういえばプライヴィアさん」

「なんだい?」

「旦那さんには俺のこと話したんですか?」

「いや?」

「え? それって」

「私が決めたんだ。いなとは言わないよ」

「まじですかー」


 ロザリエールさんまた、くすくす笑ってる。


「いや、それにしたって、王家でしょ? 公爵家って。それなら国王様だって」

「今の女王は、私の妹だけど何か?」

「まじですかー」


 うわ、ロザリエールさんだけじゃなく、リズレイリアさん、麻昼ちゃんと朝也くんも笑ってる。俺、ダシに使われたの? もしかして。まぁいいけどさ。


「このやり場のない切なさを、あっちの国王にぶつけてきますか」

「お供いたします。ご主人様」

「きゃーっ、朝也くん朝也くん、ご主人様だって」

「凄いね。おじさんって、やるときはやる人だったんだ」

「ちょっとちょっと勘違いしちゃ困るよ。リア充の君たちが、非リアな俺に何を言ってるのかな?」

「ご主人様、麻夜さんが待っているのではありませんか?」

「あ、そうだった。帰ったら説明してもらいますからね? プライヴィアさん」

「はいはい。気をつけて行ってくるんだよ? まぁ、タツマくんをどうこうできる者は、ダイオラーデンここにいないと思うけどね」

「ひっでぇ……」


 俺は背中を丸めてとぼとぼと支配人室を出て行く。ロザリエールさんは背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。


 ギルドの建物を出て、戸締まりをしっかりしてもらって。途中、雑貨屋で捕縛用のロープを数十本購入。そのまま厩舎へ向かった。


「あら? 厩舎へ向かわれるのですか?」

「うん。奇襲といえば意外性でしょう? それならセントレナがいたほうがよくない?」

「確かにそれは言えてますね」


 厩舎へ行くと、ぐったりしたアレシヲンがいた。あぁ、無理させすぎだったのか? セントレナは回復しながらこっちへ来たからね。


「アレシヲン、お疲れさん」

『ぐぅ……』


 『リカバー回復呪文』かけてあげたら元気になった。


「それじゃアレシヲン、大人しくね。俺はちょっと仕事してくるから」

『ぐぁ』

「セントレナ、いこっか」

『くぅっ』


 セントレナの背中に乗って、ちょうど正反対の位置にある王城へ向かう。軽く羽ばたくと、すーっと滑空するセントレナ。


 見覚えのある湖のそば。見覚えのある堀と跳ね橋。あ、跳ね橋が上がってる。もう遅いってば、2人とも保護しちゃったんだよね。


「セントレナ、あそこの端に降りてくれる?」

『くぅ』


 堀を越えて、跳ね橋も越えて。あっという間に王城の敷地内なう、ってところだな。


「ここからさ、ぐるっといくと王城なんだよ。だからこの辺で準備をしないとね」

「と、いいますと?」

『くぁ?』


 まずはマナ茶を2本出して、1本はロザリエールさんに。1本は俺が。セントレナにはパンを出して、串焼き肉を挟んで食べさせてっと。


『くぅっ』

「おかわり? あとは終わってからね?」

『くぅ?』

「嘘じゃないって、わかったってば。約束するから、ね?」

『くぅ……』

「ぷぷぷ……」


 最近、ロザリエールさんの笑いの沸点ふってん、低くなってない? 


「こ、これ、マナ茶っていってさ」

「あの高価なお茶ですか?」

「あ、知ってるのね」

「はい、魔素の回復効果もそうですが、とても美味しいと聞いています」

「そうそう。あ、大丈夫だよ。これはギルドの支給品だから」

「そうだったんですね」


 俺は一気飲み。ロザリエールさんは3回に分けて飲み干した。


「あとはロザリエールさんに『マナ・リカバー魔素回復呪文』、俺にも『マナ・リカバー魔素回復呪文』、っと。短期決戦になるけど、魔法は使い放題にしたいからね」

「ありがとうございます。正直、助かります」


 スマホを取り出して、確認。メッセージは来てない。


「『まもなく突入の予定。何階に捕まってるかわかるかな?』、送信っと」

『ぺこん』

『起きたらここにいたのでわかんないです。先に制圧しちゃってください。ここの鉄格子、本当に鉄なんですよねー』

「『了解、国王たちの部屋は何階かな?』、送信」

『ぺこん』

『確か、3階。趣味の悪い赤いカーペットみたいな布が敷かれてるから、わかると思うよー』

「なんとまぁ。『了解、助けられそうなら先に行くけど、難しそうなら待っててくれる? なるはやで終わらせるから、待っててね』、送信」

『ぺこん』

『ありがとー、ロザリエールさんにもよろしくね』

「『一緒に来てるよ。あと、可愛い子が一緒、多分麻夜ちゃんも気に入ると思う』、送信」

『ぺこん』

『そりは楽しみ。待ってるねー』


 スマホ格納。とりあえず、まだ先は長いから、ロザリエールさんにセントレナの背に乗ってもらって、俺も乗せてもらう。


「ここから歩くと、案外あるんだよね」

『くぅ?』

「この王城をね、ぐるっと回るくらいあるんだよ……」

「それはまるで、嫌がらせのようですね」

『くぅ』


 足取り軽く、跳ねるように走って行けるセントレナは羨ましい。俺の歩く速度だと、いつ到着するか。前は結構かかったからなぁ。


 さすがセントレナの足。あっという間に到着。『個人情報表示』謎システムでの現在時刻は8時を回ったところ。夕食だって食べるだろうし、食べたら少し眠くなる時間帯。飯時とか直後とか、セールスとかが来ると、一番嫌われる時間帯でもあったんだよね。


『よし、目指すは3階、赤い床の奥。そこで国王、王妃を確保。王女がいたら適当に確保。そこまでは手加減いらない、最悪死んじゃってもいい。手足縛ったあとに俺が蘇生するから。でも建物は壊さないで、壊したらギルドで直すことになっちゃうから』

『わかりました』

『セントレナは、俺たちの後ろから誰か来たら、とにかくやっちゃって』


 プライヴィアさんに聞いた話。セントレナとアレシヲンは、魔獣を蹴飛ばしておもちゃにするくらい強いらしい。さすがは竜種。だから人くらいなら心配ないだろうし、威圧感もそれなりにあるから、黒いし。


『くぅっ』


 では、いきましょか。


「一度は通った、勝手知ったる王城の裏口。勝手口ともいうけどね」

「ぷぷっ」


 ほんと、ロザリエールさんよく笑うようになったよね。


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