第181話 新しい俺の執務室。

 驚いた。大事なことだから二度驚いた。セントレナとアレシヲンにもある意味レベルアップというか、進化という概念があったらしい。明らかにおかしい結果が出てるんだよ。


「うーわ。半日で着いちゃったよ。気流の関係とかなかったよねん?」

『ぐぅっ』

「ワッターヒルズからエンズガルドに向かったときに飛びにくかったとか、こっちの場合は逆だったりしないんだよね?」

『くぅっ』

「あ、兄さん。そっかー、兄さんには見えないんだよね」

「どした?」

「アレシヲンたんね、『走竜』からね『飛竜』に種族の欄が変わってるのよん」

「え?」


 俺には確かにわからない。おそらくは、麻夜ちゃんの鑑定のスキルでしか見えない部分なんだろうから。


「セントレナも?」

「そっそ」

「まじですかー」


 見た目は相変わらず、遠くからみたら黒いにわとり。アレシヲンも白いにわとり。顔だけが凜々しい龍っぽい感じだけど。くちばしはないからね。


「あ、あの屋根でいいんだよね?」

「そそ。あれがギルドの屋根だから」

「アレシヲンたん、お願いね-」

『ぐぅ』

「セントレナも、お疲れ様」

『くぅ』


 俺たちを下ろすと、セントレナもアレシヲンも飛び立っていく。アレシヲンには専用の厩舎が、セントレナはうちの屋敷があるから、そっちに行ったんだろうね。セントレナもごはんは厩舎で食べることがあるみたいだから、そっちかもだね。


 俺は屋上にあるドアを開けた。そこには懐かしさを感じる通路があって、階段を降りると立派なドアが見えてくる。開けるとうん、俺でもわかるプライヴィア母さんの匂い。母さんが好んで使ってる香油みたいなやつね。淡い香りなんだけど、こう、落ち着くんだよね。


「さささ、総支配人殿、座ってみてはいかがかな?」


 麻夜ちゃんがわざとらしく勧めてくれるし。


「あいあい」


 俺は母さんの机にある椅子に座った。うん。大きすぎる。


「あははは。子供が親の椅子に座ってるみたい」

「わかってるってば。悪いけどさ、コーベックさん呼んできてくれるかな?」

「あいあい。いってまいりまふ」


 敬礼して出て行く麻夜ちゃん。入れ違いにノック音。


「入ってくるといいよ。だっけ?」

『はい、失礼します。ふふふ』


 入ってくるのは、ここの受付。ロザリエールさんの従妹にあたるニアヴァルマさん。やっぱりそっくりだね。


「総支配人にご就任されたとのことで、お祝いの言葉とお茶をお持ちいたしました」

「代理、だって」

「またご謙遜を。総支配人、お館様、タツマ様。どういたしましょう?」

「んー、ここでは最初のでいいよ。あとはお任せで」

「では、タツマ総支配人で」

「はい」


 良い香りのお茶を入れてくれた。


 ニアヴァルマさん、手袋しないんだ。あ、そうだ。


「ちょっと手を見せてもらえる?」

「はい。どうぞ」


 両手を揃えて俺の前に出してくれる。……んー、ほとんど見当たらない。けれどよーくみると、それっぽいものがあるか? ウォーターサーバ式魔道具の効果が出てるということなんだろうな。


「一応ね。『ディズ・リカバー』、っと。野菜か肉か、穀物かという感じかな?」

「お手数かけます、……それでですね、明日より治療を始められますか?」

「そうだね。明日の朝からでいいかな?」

「かしこまりました。では、失礼致します」


 なるほど、クメイリアーナさんの後任としては立派過ぎるくらいだと思う。


「あ、そうだ。あのさ」

「はい」


 くるりと回れ右をするニアヴァルマさん。


「あのさ、板みたいな」

「はい。属性表示補助魔道具ですね?」

「すげ、予想できちゃうんだ」

「これくらいできないと、受付業務は成り立ちませんので。お持ちしますか?」


 すでにクメイリアーナさんレベルになったんじゃね? もしかして。比べようはないけどさ。


「複数あるならふたつ借りておきたいんだけど、いいかな?」

「いいもなにも、ギルドの備品を総支配人が使うなら問題はありませんよ」

「それじゃお願いね」

「すぐにお持ち致します」


 出て10秒ほどで戻ってくるニアヴァルマさん、超優秀。


「これと、あとこれだ」


 机の上に並べた、属性表示補助魔道具ふたつと使っていない対の飛文鳥。眺めていたらノックがあった。


『コーベックにございます』

「入ってもらっていいよ」

「失礼致します」

「ただいまー」


 コーベックさんと麻夜ちゃんが入ってくる。俺は魔道具を持って、ソファーへ移動。


「まずは、総支配人室就任、おめでとうございます」

「だから、代理だってばさ」

「ご謙遜を」

「ニアヴァルマさんみたいなことを言うんだよね」

「あははは、仕方ないって兄さん」

「麻夜ちゃん」

「ん?」

「経験値」

「あー、コーベックさん、手、貸して」

「あ、申し訳ございません」

「んっと、『ホーリー・ピュリフィケイション聖浄化呪文』。うまうま」


 相変わらず長い呪文名だこと。


「申し訳ございません」

「そういえば兄さん、これどしたの?」

「あぁ、これはギルドの備品で『属性表示補助魔道具』。覚えあるでしょ?」

「うん。こっちきたときに使わされた、苦い思い出」

「そだね。あとはこれ、母さんから預かったやつ」


 文鳥サイズの魔道具。麻夜ちゃんは初めて見るかもしれないね。


「これは飛文鳥って言って」

「あ、これがそうなのねん」

「うん。話には聞いてたでしょ?」

「それでお館さ、いえ、タツマ総支配人」

「うん。俺が何を求めてるかわかるでしょ?」

「あ、麻夜はわかっちゃった」

「属性情報を吸い出して表示させる魔道具と、互いに引き合うという伝説の魔道具ですね。もしや、伺っていた『スマホ』なる魔道具のような」

「凄いな、そこまで予想できるんだ」

「はい。もしや、でございますが。これで何らかのやりとりを文字でさせようと?」

「凄いね。麻夜は使ってるからわかったけど、知らないでわかっちゃうのかー」

「いえ、お褒めにあずかり光栄です」

「あのさ、この一対という引き合う魔方陣を解析してさ、この石版同士だけで、文字のやりとりができないかな? って」

「これまた、楽しそうな注文ですね。早速、今夜から解析に入ってもよろしいでしょうか?」

「うん。あまり無理しないようにね」

「眠るのがもったいないほど、魅力的な魔道具開発でございますよ?」

「わかってるってば」

「ほんと、マッドサイエンティストな思考だよねん」

「あははは」

「言葉の意味はわかりかねますが、お褒めにあずかり光栄です」

「あははは」

「それで麻夜ちゃん、例の魔道具はどれだけもらった?」

「んっと、100?」

「まじですかー」

「はい。置き場所に困っていたので助かりました」

「なんてこったい」


 こうして俺は、『個人情報表示謎システム』で動いてると思われる、属性表示補助魔道具をなんとかして、通信端末にできないかの解析をお願いすることになったんだ。


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