第99話 怖い方のロザリエールさん。

 プロレスでよく見る、逆水平チョップに似た腕の動作で魔法を放った麻夜ちゃん。


「ほほぉ、リアルPVP対人戦闘でこれを使うとやっぱりこうなるわけね。なるほどなるほど……」


 目の前の惨劇を予想していたかのような麻夜ちゃんのお言葉。腕組みをして何やら考えてるし。


「麻夜ちゃん、なんつことすんのよ?」

「高レベル極めたらどうなっちゃうのかしらん、……ん? おじさんどしたの? 風属性魔法の低レベルスペルだよ、これ?」


 風属性の低レベル。攻撃魔法ってこんなに凄いのかよ。


 だからってあぁあああ……、こっちから見て最前列にいた騎士? 衛士? 兵士? 知らんけど。男性2人がちょ、皮一枚で真っ二つじゃないのさ? 赤い絨毯みたいなのが、どす黒い赤で染まってる、いや、はみ出してるよ。えっぐいわー。


「それにしたって麻夜ちゃん、やりすぎでしょ?」

「だっておじさん、手加減いらないって言ったジャマイカ?」


 そんな、てへぺろって。あぁあああ大騒ぎになっちゃってる。麻夜ちゃん、あそこまでして、罪悪感感じないのかな? だとしたら、ある意味ぶっ壊れてるかも。俺も同じだけどさ。


「とーにーかーく、相手は例え死んでもどうにかなるけど、建物は魔法で直せないんだからね? 反省っ」

「はぁい……、ごめんなさい」

「ご主人様、それくらいにしてあげていただけますか? あたくしからも後ほど、しっかりと言い聞かせておきますので」

「――ひっ!」


 ジロリと睨んだロザリエールさんを見て、麻夜ちゃんは短い悲鳴を上げてる。うんうん、まじで怖いロザリエールさんの目だわ。なむなむ……。


「うん、あとはロザリエールさんに任せるよ。セントレナ、後ろ来たらお願い」

『くぅっ』


 彼女は後ろを向いて、俺たちをガードしようとしてくれてる。


「セントレナちゃんって、言葉理解してたりするの?」

「うんばっちり100%ひゃくぱーね」

「すっごぉい」


 うわ、目の前死体が転がってるから、ドン引きになってるよ。見た感じ平和そうだったから、今までどれくらいの間、この王城に攻め込まれなかったのかわかんない。こんな状況、想定された訓練もしてないんだろうからなぁ。


「い、いけっ。国王陛下を、お守りするのだっ」


 周りよりもちょっとばかり立派な服装してる、ちょっと年配の男。あれが指揮官か? でもいいのか? 両側にいる人たち、虫の息だぞ?


 俺はつかつかとゆっくり歩いて行く。1人の騎士が斬りかかってきた。大ぶりな両手持ちの剣。俺は両腕をクロスさせるようにして、両腕の骨を盾代わりに使ってみる。


「ぐぁっはあっ! いだだだだだ。『フル・リカバー完全回復』。よっし、復活。ほれほれ、おまいらのような剣技じゃ、俺の両手を断つ事なんてできやしないんだよ」


 『個人情報表示』にあったステータスじゃ、身体能力関連も人間超えてる数値だったからな。こんなことができるのは、わかってたんだよね。ほら俺、あっちではインドア派だったから。ロープ使って建物の壁よじ登るなんて体力なかったわけだし。


 腕を斬らせて、にやりと笑ってる俺。まぁ演出なんだけど、痛かったよ、かなーりね。そんな俺の背中から、ロザリエールさんが気配をかんじさせないまま、近寄ってきて、左右にいたヤツの首をあっさりと落とした。


「麻夜ちゃん、後ろからの警戒をセントレナと一緒にお願い。あとでちゃんと出番あげるから」

「りょうかいっ」

『くぅっ』


 俺は腕でバッテンを作って、そのままの勢いで進んでいく。俺が盾になって、ロザリエールさんがアタッカーになる。MMOでもこんな戦略使ったことあったなー。あのときは、俺、シールドハンマー持っていたんだけどね。


 それなりに痛いけど、結構楽しいかも。ロザリエールさんも、俺の意図するところがわかってくれてるみたいだから。食い止めた剣の持ち主を、俺の背中からほふっていく。


 ありゃま。気づけば廊下は10人はいたはずなのに、死屍累々。適当に足の裏で蹴飛ばしてひっくり返して、一番手前の部屋を開けると、誰もいない。そこに死体を放り込む。縛って、猿ぐつわして、目隠しして放り込む。それを10回繰り返すだけ。


「ロザリエールさん、麻夜ちゃん、セントレナ。ちょっと蘇生してくるね」

「そんなトイレ行ってくるね、みたいなノリで」

「そんなもんだって、めんどくせーって思ってる」


 俺は死体を放り込んだ部屋に入って、触れる度に『リザレクト』をかけていく。あー、真夜ちゃんが真っ二つにしたのまで、戻っていく。うん、きもいわ。


「よし。準備おっけー」

「ご主人様」

「ん?」

「麻夜さんの魔法。鍛えたら範囲殲滅が楽になるかと思います」

「そりゃそうだけど、いつまでもドンパチやるわけじゃないでしょ? まぁせめて、魔獣討伐魔石回収が楽にできるくらいになってくれたらって思うだけかな?」

「それは確かに言えてますね。あたくしもいずれ一緒に出られる日を楽しみにしています」


 そんな、『一狩り行こうぜ』じゃないんだから。ま、ロザリエールさんは実際やってたんだけどね。


 ドアは二枚。さて、どっちにいるのかな? 結構な騒ぎになってたから、俺たちがいることもわかってるんだろうし。


「そうですね。右側には5人。左側は3人、いるような気配はするのですが。……おそらく、左側が正解だと思うのです」

「そっか。なら右側からね。セントレナは隣の部屋を見張っててね?」

『くぅっ』

「よし、扉開けるから真夜ちゃんはさっきの連発でいけそう?」

「うん。まだまだ余裕でいけそうだよー」

「よし、3・2・1・どっこいしょ」

「エア・カッターっ。あ、エア・カッター、エア・カッターっ」


 3発ですかー。そっと中を覗くと、阿鼻叫喚。壁まで届いてないけど、中にいた騎士みたいな人たちはなますになってる。うん。あまりいいもんじゃないな。


「麻夜ちゃんオーバーキルだって、や・り・す・ぎ」

「てへっ」


 中に入って、うぇっ。エグい……。腹ばいにして、手足縛って、切れちゃってるところはしかたないけど。あれこれ準備をしてっと。最後に『リザレクト』かける人数分で終了。

うん。魔素の減り方はまったく心配ないね。


「さてと。これでここがハズレだったら、家捜ししなきゃだよね」

「うん。でもここにトラップがあったらあったで、面白いんだけどねー」

「え? トラップって人間爆弾的な?」

「いやそうじゃなくておじさん。そんなエグいのは、駄目でしょ?」

「そっかー」

「本当にお二人は、ご兄妹ではないのですよね?」

「うん」

「うん」


 あ、セントレナが何かを踏み潰してる。


「セントレナ何を踏んでるの?」

『くぅ?』

「あー……、ちーん」

「ありゃー」


 騒ぎを聞きつけて、下から来たのかな? 三人ほど、踏み潰されていましたっと。おそらく、セントレナにみつかって、蹴飛ばされて、踏みつけられて絶命。という感じだったんだろう。


「うあー、これはめんどくさい。とりあえず、部屋に引きずっていって、……うぇ」

「こ、こりはきっつい」

「セントレナさんに、不用意に近づいたのが悪いのかと思います」

「そりゃそうなんだけどさ」


 手らしいところを縛って、足らしいところを縛って。融合しないように、一体ずつ引きずってきて、また縛ってを繰り返して。


「『リザレクト』、駄目だったら成仏してねっ」

「おじさんそんな投げやりなー」

「いけた?」

「一応?」

「よかったー。キメラができたらどうしようかと思ったよ」

「それはそれで楽しくない?」

「楽しくないってば」

「そっかなー?」


 残りの2体もなんとか蘇生完了。やばかったね。何やら混ざりそうだったし。今度からは、手加減してもらわないと駄目だわ。


「さて、おそらくこの王城に残ってるのは、これくらいかな? おそらく事務官さんらは、待避させてるんだろうし」

「そうだねー。ネリーザさんいなかったからねー」


 あー、ネリーザさん懐かしい。あのときにいた、勇者付の事務官さんね。


「あれ? 他にもいたよね? 俺が勇者じゃないってわかったとき、石版ステータスしつこく見せろってきたヤツ」

「あー、あの。何て言ったかな? 確か、イキリースだったかな?」

「ぶっ。そのまんまイキリじゃないのさ?」

「あ、イキラースだったかな? そんな名前だと思うけど」

「ニアピン、惜しいね」

「勇者付事務官補佐、降ろされてたよ」

「え?」

「あの人ねー、うん。いなくなった人のことはいいかなー」


 何やら遠い目をしてる。色々あったんだろうな?


「さて、それでは本日のメインイベント。王族問い詰め3本勝負」

「『王家転覆大作戦』じゃなかったの?」

「そうともいうかもだねー」

「ぷぷぷ。本当にそっくりですよね」


 ロザリエールさんの沸点、低くなったなー。いいことだと思うけどね。


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