第100話 メインイベント。
「ごたーいめーん――ってあれ?」
ドア引いても押しても、開かない。
「あれ? どういうこと? 鍵、閉まってる?」
「失礼いたします。……この形状の鍵であれば、大丈夫かと」
ロザリエールさんは、どこぞから(隠してる場所は知ってるけど)細身で黒い刀身のナイフを取り出した。片目を閉じて、よく狙いをつけて、一振りすると『キン』という甲高い音が聞こえる。
「これで開いたかと思います」
「ではあらためて、ごたーいめーん」
俺はドアを開けて、ちょっとポーズをつける。まるで執事さんが開けるかのような、大げさな仕草で。
「――おじさん」
「ん?」
「こりは残念だわ……」
俺も中に入ったんだけど、あれまぁ。3人とも、折り重なるように絶命しておられる、ってわけなんだ。
「あーあ、せっかくやり返してあげようと思ったのに」
「んー。死んだくらいで俺から逃げられるだなんて、考えが甘いんだよなー」
近寄って、状態を見る。少なくとも、ここに来るまで騎士やら衛士やらが守ってたんだ。夕方までは生きてたはずなんだよ。
「俺が検証作業したときにはさ、半日までは蘇生が効いたんだよね。川虫だったけど」
死んでる国王、王妃、王女。次々手をあてて、『リザレクト』をかけていった。
「おー、生き返った生き返った。だから死んで逃げようなんて甘いんだよ。事の真相を聞き出すまで逃がしゃしないって」
「……ご主人様のあれは恐ろしいのよ」
「どうしたの、ロザリエールさん」
「何度も何度も、死なせてくれないの、まさに生き地獄だったわ……」
「あとで聞くから。ね? ロザリエールさん」
ロザリエールさん、自分で自分を抱きしめるみたいに。そんなに怯えないでほしいんだけど。もうやらないってば、ロザリエールさんには……。
「さて、いくら死のうとも、俺は生き返らせる術を持ってる。逃がしはしないよ? 自害しようとか、それなり以上の覚悟が必要だったかもしれないけどさ。その覚悟は無駄だった。はい
両腕を広げてわざとらしく、『やれやれだぜ』という仕草をしてみせた。
「まぁ、こうなる前にギルドに相談したら良かったのに。国王だかなんだか知らないけどさ、城下の皆さんを見捨てた時点で、あんたはもう、王様の器じゃなかったんだ。そうだろう?」
何も応えないけどさ、俺が恐ろしいのか、王妃と王女はその、うーん。どうしよう?
「ご主人様。王妃と王女はその、退席させてもよろしいのでは? あたくしが見ておりますので」
「そういえばこの隣の隣が開いてるっぽかったっけ? まぁ、自害しても生き返らせるから、諦めるこったね。構わないよ、ロザリエールさん。あぁ、ちなみにだ。この慈悲深い女性が『漆黒のロザリア』さんだよ。どうだい? 美しいだろう?」
ロザリエールさんは、二つ隣の部屋へ王女と王妃を連れて行った。別にそこで処断するような表情じゃなかったし。
王妃と王女が座ってた椅子を移動して、俺と麻夜ちゃんが国王の向かいに座った。まるで採用面接みたいだな。間に机があったら、取り調べする刑事と容疑者。麻夜ちゃんは見習いの女刑事さんってところかな?
「シレンジェール・ダイオラーデンだっけ?」
「あぁ」
力ない返事だな? もう諦めてるのか? やっぱり。
「具体的に答えられないことに関しては、はいかいいえで答えるんだ。お前はシレンジェール・ダイオラーデンで、いいんだな?」
「は、……い」
「あんたらには逃げ道はない。だから素直に答えた方が身のためだよ? いいかな?」
「はい」
「鬼だね? おじさん」
「うん。ロザリエールさんにはドン引きしたって言われたよ」
「確かにあれはドン引きするってばさ」
おじさんは麻夜ちゃんの、慈悲深い
「さておき、まずはあれだな。城下町に住む国の民を見捨てるような行為。昨年の末、あの魔道具を止める命令を出したのは、誰だ?」
ぬとーっと重たい口を開けるようにしてる。答えにくいのか? やはり。
「私だ、いや、です」
「なんでまた?」
「財政が圧迫するほどの状態だった。そのような火急の事態では、下々のものを我慢させるのは国としてあたりまえのことではないの――」
がしっ!
やべ、思わずぶん殴っちまった。
「おじさん……」
「ごめん、ついかっとなった」
俺の今の筋力は、人のそれじゃない。ゲームのキャラクターと同じくらいの力があるんだっけ? そんな俺が、力任せにこいつの左頬を殴ればどうなるか? 顎が外れて口が開きっぱなしになってる。多分、右側の歯が、ぐちゃぐちゃだろうな。
「『
歯と顎を再生し、ついでに傷も完治させた。
「は、はい……」
「続けさせてもらう。さて、国の王は民あってのものではないのか? 民に食べさせてもらっている扶養家族ではないのか? それ故に、民を守らなければならないとは思わないのか?」
「民はこの地に住むことを許可している。商いをすることを許可している。税を納めるのはその対価だ。
麻夜ちゃん、俺の手をぎゅっと握ってる。手が震えてる。悔しいのはわかるよ。俺も
「なるほどな。……俺とあんたは相容れないようだ。これ以上は無駄な問答にしかならないだろう。俺からは以上だ」
「それじゃ、麻夜から質問させてもらうよ?」
「はい……」
「麻夜たちを呼んだのは、なぜ?」
「水を清めさせるために、聖属性の適正ある者を選んだ。光属性も必要だと思った。ただそれだけだ」
「あっそ。麻夜たちを元の世界に戻して」
「その方法は、ない」
プライヴィアさんから聞いたそのままなのか。帰れない。俺は仕方ないけど。
「あーうん、なんとなくわかってた。それでいつまで麻夜たちに、水を清めさせようと思ってたの?」
「そなたたちが、死するときまで、だ」
「あっそ。もういいや。よーくわかったから」
「聞いたか? 王妃よ。王女よ。これがあんたたちの、夫で父親だ。こいつを許してもいいのか?」
ロザリエールさんが連れてきていた、王妃と王女。気配がしたから、いるんじゃないかと思ったんだ。彼女の表情が物語ってる。かなり、ヤバいくらいに沸騰寸前だろうな。
俺もまさか、ここまで狂ってるヤツだと思わなかった。これでは王じゃなく、盗賊の親玉的な考え方だろうよ?
民から吸い上げた税で、魔石を買って水を綺麗にして、駄目になったら切り捨てる。それどころか、異世界から立場の弱い者を召喚して、うまくおだてて道具扱いをする。絶対に許されねぇ……。
あれ? うわ、凄く鳥肌が立ってきた。麻夜ちゃんも手汗べっとり。俺でもわかるこの気配、いるな、間違いなく。
「
「あぁ我が息子よ。魔界の一種族を統べるものとして、このような愚行を許すわけにはいかないね」
「先代の王は、頑張っていたんだけどねぇ。いつ、歯車が狂ってしまったんだろうねぇ……」
プライヴィアさんだけじゃなく、リズレイリアさんもいたんだ。おそらく、直接屋上あたりまでアレシヲンに乗せられてきたんだろうね。
うわ、このおっさん。俺より年上なのに、失禁してるよ……。そんなにプライヴィアさんが怖かったのか? うん。怒られたら俺もちびっちゃうかも。
このシレンジェールといい、ハウルなんとかといい、腐ってんだなこの国の王族、貴族の男たちは。代が悪いというか、落ちゲーみたいにまとめて連鎖したんだろうな。腐る方向に。
そういやさっき、死んで時間が経っている者を蘇生する場合、普段の魔素量より多く消費するのが見えたんだ。どこまでが可能かはわからないけど、俺の魔素が尽きるまで可能なんだろうな、きっと。
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