第91話 初出勤と初顔合わせ。
ワッターヒルズに戻って2日目。昨日俺が、こっちでの新記録を出しちゃったから、クメイさんがギブアップ。今朝からうちの
元々、コーベックさんの奥さん、ブリギッテさんのチームとしてギルドの雑用全般みたいな、細々とした依頼を受けていたんだって。プライヴィアさんに頼まれて、一番元気が良くて、サポートに徹するタイプの子を受付にということになったらしいよ。
ロザリエールさんは、来週にも俺が実行に移す予定だと昨日話をしたから、『運動不足なので、身体を動かしてきます』と出て行った。俺は途中で別れてギルドへ来たってことなんだよね。だから今日はちょっと早めに、様子見をかねて出てきたわけ。
こっちの入り口はダイオラーデンと違って開け放たれていないんだ。まぁ、マジで寒くなってきたから、このほうがいいとは思うけどさ。暑くなったら、冷やすなり開けるなり対応すればいいし。隙間風はまじで冷たい。ワッターヒルズはダイオラーデンよりも北にあるからかもしれないんだよね。
おや? ドアの前に近づいたけど、開かないよ? 恐る恐るそっと開けてみると、もう治療に来た人がホールの中で長蛇の列を作ってる。受付にいるクメイさんの前に並んで、壁沿いにぐるりと回る感じ?
ホールの中を歩き回って、列の整理をしてる人に話しかけられた。クメイさんと同じ制服着てる。
「おはようございます、ソウトメ様」
「おはよう、……ってあれ? オーヴィッタさん? なんでここに?」
「……いえ、オーヴィッタは2つ下の妹ですが。私、ニアヴァルマと申します」
「ありゃ? そっくりだったからつい」
後ろで縛った、ポニーテール。顔のつくりも似てたんだよね。
「あー、ってことは、厩舎に務めてるオーヴィッタさんも、ロザリエールさんの」
「はい、従姉妹にあたりますね」
「そっか、うん。今日からお願いね?」
「かしこまりました」
ぺこりと一礼。すぐに列の整理に戻っていった。いやはや、初日だっていうのに、もうやれることをやろうと頑張ってるなー。
総支配人室へ繋がるドアを抜けて、途中右を見て挨拶。
「クメイさん。今日もよろしくー」
「はいっ、ソウトメ様。おはようございま――はい、ここに」
「気にしないで、仕事に集中してねー」
「あ、ありがとうございます」
あの列、本来のギルド受付じゃなく、俺の治療受付なんだよな。冒険者さんたちもランクの低い半数の人は、日中は悪素毒関係で町中回ってくれてるし。ランクの高い冒険者さんたちは夕方からに変えてくれたらしいんだ。
プライヴィアさんから鶴の一声が出たとはいえ、俺が何でも変えちゃったというのが怖いというかなんといか。余計に頑張らないとって思うんだ。
「おはようございます」
「おはよう、我が息子よ」
自らドアを開けて歓迎してくれる、我がお
「例の『王家転覆大作戦』、打ち合わせ終わりました。明日の夜、報告を待って、準備を整えようと思ってます」
「報告? どうしてるんだい?
「あぁ、そうですね。俺、あっちの世界から来たじゃないですか?」
「そうだね。未だに信じられないがね」
「俺たちにしか使えない、正確には、俺たちにしか維持ができない魔道具があるんですよ。これなんですけどね」
俺はインベントリからスマホを取り出す。
「この小さいのがかい?」
プライヴィアさんの手では確かに小さいかもだよね。
「今のところ、件の協力者。勇者の麻夜ちゃんという――」
『ぽぽぽぽぽぽ』
へ? あ、つい、反射的に通話ボタン押しちゃった。
『おはよー、おじさん。朝からめずらしーね? あれ? その黄色と黒のしましまなにかななにかな?』
「おはよう、麻夜ちゃん。朝からテンション高いね」
『だって明日の麻夜の任務で、麻夜たちの人生変わるんだもん。テンション上がっちゃう――あれ?』
あ、俺の隣りにどっかり座って、プライヴィアさんがのぞき込んでる。
「ほほぅ。珍しい魔道具だね。この子が麻夜ちゃんという?」
「はい。彼女が俺の協力者で、勇者で、俺と同じ世界から連れてこられた子のひとりなんです」
「そうかい。それは大変だったね。もう大丈夫。うちの息子、タツマくんにすべて任せたらいいよ」
「まだ実感わか――」
『ファン、タジー、きたぁああああっ!』
いつものように、両腕天に突き上げて、大喜びしてる麻夜ちゃん。
「おや?」
『虎のおばさん、本当に存在したんだ? おじさんの妄想だと思ってたのよねー』
「あのねぇ。本当だって言ったじゃないのさ? プライヴィアさんって言って、俺の義理の母親になったんだ。……ってか、ご飯の時間大丈夫なの?」
『んっと、今日はね、明日が『あれ』じゃない? 準備で訓練なしって、ご飯のときに教えてもらったんだー』
「あれとは? なんのことかな?」
「はい。ダイオラーデンの王妃の誕生を祝うそうです」
「ほほぅ。そのときに」
「はい。国王と王妃の指に黒ずみがあるかを調べてもらう予定になっているんです」
『ねぇねぇ、プライヴィアのおばさん』
「なにかな?」
「おばさんって、ちょっと」
「かまわないよ。麻夜ちゃんだったかな? タツマくんの母になったんだ。彼女からみたら、そういう立場になるんだろうからね」
『本当に132歳なの?』
「そうだよ」
『本当に、虎の獣人さんなの?』
「そうだよ。
自分で握って、見えるようにしてくれる。
『ほんとだ、尻尾だ、もふもふだー。ねぇねぇおじさん、いつか麻夜も会えるの?』
「そうだね。近いうちに機会もあると思う」
「あぁ。ダイオラーデンに行く予定もあるからね」
そりゃ、国王の首をすげ替えて、リズレイリアさんが新しい国王になるんだ。戴冠式には行くだろうから。
「多少残酷な結果になるかもしれないが、安心して待っているといいよ。明日は無理をするんじゃないよ? いいね?」
『はい。余裕です』
「いやいやいや。俺、結果的には無血開城を想定してますから」
「無血開城?」
『無血開城?』
麻夜ちゃんもプライヴィアさんも『?』って表情になってる。
「ほら、俺には『あれ』があるんで。一度は死んでもらうかもしれませんけど、結果的には擦り傷1つ残しませんよ?」
「あ、あぁ。あれか」
『あれって?』
「俺、『
『まじですかー、それってもう賢者じゃないですかー』
「いやいやいや。攻撃魔法使えない賢者がどこにいるのさ?」
「あははは。君たちはそっくりだね」
『それ、ロザリエールさんにも言われましたー』
「うん。言ってたね」
麻夜ちゃんがまだ18歳ということを知ったプライヴィアさん。いつもの心配性な面が出ちゃって、色々注意するんだよ的なことがずっと続いた。
おしゃべり大好きなプライヴィアさん。気がつけばバッテリー切れそうになるまでじっくり話して今日は終了。
「では、会える日を楽しみにしているよ」
『はい。では、しっつれいしまーす。おじさんもまったねー』
終話ぽちっ。インベントリへ格納、っと。そういやこれでチャージされるんだっけか?
「元気な娘さんだったね」
「はい。それでも自分が、悪い意味で利用されていることを知ってますから。立場を理解してくれているので、助かってます」
「そうだね。早く解放してあげないといけないよ? いいね?」
「はい、もちろんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます