第92話 マウントの取り合い。
いやはやなんとも。元々、クメイさんのポテンシャルが高すぎたのもあるんだろうけどさ。クメイさんの補助に回る形で今日から、
結果ワッターヒルズでは新・記・録、どどん。夕方4時の段階で200人を超えたんだ。クメイさん、倒れなかった。もちろん、ニアヴァルマさんも倒れることはなかったよ。そりゃ、疲労が溜まらないように、2人とも『
俺も色々やることが増えそうだし、状態の比較的進んでる人や、年配の人、子供や女性から先に並んでもらうことになってる。それでも1日あたりこれくらい進んでいたら、2人になったからって大変さは変わらないんじゃないかって思ったんだ。
おまけにこっちは冒険者さんが多い。本来のギルド業務ができないのでは、話にならない。だから、200人を超えたら終了ということになったんだ。
ぱらぱらと受付に冒険者さんが並ぶようになってきた。クメイさんが本来の受付業務をしてる姿を、横でニアヴァルマさんが見て覚えてる。わからないところは、質問する感じで、なんともほのぼのした光景だね。そんなとき、軽くざわつく感じがあった。
入り口を振り向いたら、あれ? ロザリエールさんじゃないの? あぁ、そういうことか。みんな彼女を見てる。美人さんだし、漆黒のメイド服着てるもんなぁ。目立つわけ、……あ、もしかして、気配絶つのやめてるとかだったりして? 普段彼女が注目されることってないもんな。
「ロザリエールさん」
「はい。タツマ様、お疲れ様でございます」
「あー、うん。お疲れ様。でも何で今日は、ここに並んでるの?」
ロザリエールさんは、冒険者の列。クメイさんの前に並んでるんだよ。
「はい。あたくしも少々、考えがありまして」
「うん」
「うちの子たちがこちらへお世話になっているのです。あたくしだけ、冒険者登録をしないのはいかがなものかと思いました」
あー、なるほどね。一応、黒森人族の一番てっぺんだもんね。それに、じっとニアヴァルマさんのことを見てる。ちゃんと仕事してるのか、心配になったんだよね? そうだよね? まったく、面倒見がいいったらありゃしないんだから。
ロザリエールさんの順番になった。ひくつく、クメイさんの眉毛。どこぞのご令嬢のような、ちょっと高圧的なロザリエールさんの表情。なんかあるのかね? この2人の間に?
「い、いらっしゃいませ。冒険者ギルド、ワッターヒルズ本部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
マニュアル通りの、ファミレス的な受け答え。そんな2人を見てか、ものすごーく心配そうな表情になってるニアヴァルマさん。
「冒険者の登録をお願いにまいった次第でございます。可能であるなら、そちらのニアヴァルマにお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい?」
クメイさん、『何考えてるの?』みたいに頭を傾げちゃってる。そりゃ知ってるはずだよね、ニアヴァルマさんは今日から務め始めてるって。
「『どれだけ手間がかかっても、時間がかかっても構わないので、登録をお願いします』ということですが、ご理解いただけないのでしょうか?」
あぁ、そういうことか。ロザリエールさんが登録する代わりに、練習をさせたい。業務に慣れさせたいから、ニアヴァルマさんにやらせてほしい。できるなら、指示をしてあげてほしい。
なるほどなるほどそういうことかー。案外ツンデレさんなんだよな。ロザリエールさんって。
「よ、よろしいのですか? 姫様」
「ちょ、ちがっ」
俺は慌てて訂正させようとしたんだけど、間に合わなかったみたいだわ。
「ニアヴァルマ、今のあたくしは、そのような立場ではありません。間違ってはいけませんよ?」
うわぁ、何気に
「姫様ですか? 黒森人族、で、姫様。あぁ、なるほど。前からそんな感じはしたんですが、そういうことだったんですね」
あぁ、ほら、何かに思いあたったみたいな表情してる。ちょっと嬉しそうっていうかなんというか。
「以前、そのような立場にあった、というだけでございます。……そうですね。何やら、このワッターヒルズにも、ウェアエルズの第3王女殿下がいらしてるとか、いらしていないとか、そのような噂があると聞いています。もし、同じ立場にいらした方なら、ご理解いただけると思うのですけど、……ねぇ?」
ロザリエールさん、なんの話をしてるんだろう? って思ったら、クメイさんの目が泳いでる感じがする。いや、間違いなく焦ってる。
「な、なんの話でしょうかねー?」
ほら、斜め上を向いて、何かを誤魔化そうとしてるような表情。
まじか、クメイさん。まさかの王女さまだったのか? いやでもなんで、ギルドの受付なんてやってるんだ?
「と、とにかく、登録作業、やってみましょうか? ね? ね? ニアヴァルマさん」
「は、はい。こちらへどうぞ、ロザリエール、様」
クメイさんの
それにしても、第3王女か。もしクメイさんがそうだとしたら、上に2人お姉さんがいるんだろうし。あー、もしかしたら、政略結婚とか大変なのかもしれないから。まぁ、クメイさんも色々あるんだろうな?
そっか、こうやって『お前の秘密も知ってる』みたいにけん制してるのか。やり方がエグいな、ロザリエールさん。さすがハンターだっただけはある。でも、ジュエリーヌさんみたいになんで仲良くできないんだろう?
なんだかんだすったもんだしながらも、ロザリエールさんの冒険者登録が終わったんだ。もちろん一番下のクラス、F級からの開始とのこと。
受付の右奥、買い取りのカウンターに並びなおすロザリエールさん。どう見ても手ぶらなんだけど、何してるんだろう?
「ロザリエールさん」
「はい。なんでしょうか?」
「この列、買い取りのカウンターでしょう?」
「えぇ。そうでございますね。ずいぶん昔になりますが、買い取りだけで訪れたことがございますので」
あ、そっか。一時期、そうしてお金を稼いでたって、ここだったんだ。なるほどねー。
「あれ? でもロザリエールさんて、確か、空間属性持ってないよね?」
「はい。持っていませんが?」
「それならなんでここに並んでるの?」
「あ、そういうことですね。実は父から以前譲り受けたものがありまして」
こらこら、そのスカートから物を出すのはやめなさいってば。ただでさえ
「ポーチ? いや、鞄?」
上蓋がぱかっと開くようなタイプの、古い携帯電話ケースみたいなかたち。ロザリエールさんの両手のひらを合わせた程度の大きさ。黒くて年期が入ったものだということはわかるけど。彼女が好きそうな色合いだし。
するとロザリエールさんは、ポーチの蓋を開けて手を突っ込んだ。
「え? どこまで入るの?」
なにせ、手首どころか肘まで入ってるんだよ。おかしいだろう? 物理的に見ても――と思ったら、何かを引きずり出したんだ。毛玉?
「な、なんだぁ?」
俺が少々大声出しちゃったから、冒険者さんたちの視線が集まったんだけど、『なんだ』みたいな声がしたと思ったら、みんな気にしなくなっちゃったんだよ。
水風船でも持ち上げるときみたいに、ぐにゃりと歪んでポーチから出てくる毛だらけの物体。それはまるで、アニメか漫画でも見るみたいなんだ。
どさりと買い取り受付のカウンター上に置かれた、まるっとはみ出してる何かの獣? よく見ると、猪? いや、牛? 羊? よくわかんないけど、それっぽい獣みたい。
「これ、実は魔道具なんです」
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