第93話 魔道具、ねぇ。
ロザリエールさんは再度、ポーチに腕を肘まで突っ込んだんだよ。それで何かを引き出したかと思うと、それは毛色の違う獣っぽいヤツだった。受付カウンターの上に、大の字に仰向けになってる獣っぽいヤツの上に、上手に重ねてまた仰向けにだらりと乗せたんだ。
だらりと垂れた獣の側に、すっと作ってもらったばかりの登録証をカウンターの奥へ向けて置いた。
「これらの買い取り、お願いできますでしょうか?」
買い取りカウンターの前にいた、人間っぽい事務方の男性ゼクリークさん。彼に慌てたような表情はなかった。きっとこの光景って、俺の持つ空間属性魔法みたいに、それほどあり得ないものじゃなかったんだろうね。
「はい。少々お待ちください。ベンさん、ゲオさん、お願いします」
カウンターの上に置いてあるロザリエールさんの登録証を受け取ると、ゼクリークさんは振り向いて名前を呼んだ。
「かしこまりぃ」
「うけたまわりぃ」
すると、野太く元気のいい返事とともに出てくる彼と同じ事務方男性の、確かベンニールさんと、ゲオアームさん。2人とも獣人さんなんだよね。ゲオアームさんがこちらへ出てきて『ふんっ』と肩に担いで裏へ持って行った。同じようにベンニールさんも、担いで持って行っちゃった。
彼らは
「魔獣の解体、魔石の算定などに、半日ほど時間をいただきますが、よろしいですか?」
「はい。お願いします」
あ、魔獣なんだ。あの2体って。
「では登録証をお返しいたします。お疲れ様でございました」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします」
うはぁ。狩りが主体だったって聞いたけど、まさぁこんなにあっさりやってくるとは思わなかったよ。
「タツマ様、お待たせいたしました。では、帰りましょうか?」
「あ、うん。ところでさ」
「なんでしょう?」
「あの魔獣? 魔石ってどれくらいの大きさがあるの」
「そうですね。これくらい、でしょうか?」
ロザリエールさんが親指と人差し指で大きさを示してくれたんだけど、なんと、あの魔道具に入っていた魔石と同じくらいの大きさだったんだ。
「もしかして、あの魔道具にあった魔石と」
「はい。同じくらいの大きさになるかと思われます」
「まじですかー」
歩きながら、俺が知らないだろう、こちらの世界の知識的な質問をする。
「あのポーチ、鞄か。あれってさ、どれくらいの荷物が入るもんなの?」
「そうですね。あたくしの部屋より少々小さめの四方という感じでしょうか? 案外多く入るものなのですよ」
魔道具ってなんでもできるのか? 確か、道具のどこかに必ず魔法陣が刻印されてるっていう話。それなら、インベントリまではいかなくとも、『なんとか属性』と確定されているものに関してならば、レベルの低い魔法は魔法陣で再現できるってことなんだろう?
例の集水升に沈んでた魔道具は、回復属性の低レベルと、おそらく風属性の低レベル。それらを組み合わせて作ってるくらい、俺にだって予想はできる。けど、
どちらにしても、その魔道具を起動または、稼働し続けることに必要な魔素をどこからか供給する必要があるってことだ。例えば、ロザリエールさんが持っているポーチのような魔道具の場合、電池が切れたように、魔石が透明になったとしたら、中に格納されているものはどうなるのか?
ただ再稼働するまで出せなくなるだけなのか? それとも、魔素がなくなる瞬間までに、強制的に押し出されてしまうのか? それは、魔道具を設計したものにしかわからないし、試したことがある者にしかわからないことのはず。
検証作業大好きな俺としては、あんな魔道具は面白そうでならないわけ。暖炉にある熱の魔道具、でいいのかな? あれだって、俺、動かし方がわからないけど、ロザリエールさんは普通に使ってた。あれも魔石で動いてるんだと思うし。時間があれば、あれこれ調べてみたいね。
夕食のとき、何気に聞いてみたんだ。
「ロザリエールさん」
「はい。なんでしょう?」
「あの魔獣さ、あれってあのあとどうなるの?」
「そうですね。皮と魔石は売却します。肉は明日、受け取りにいきますよ」
「肉?」
「ご主人様とセントレナさんたちがよく食べられてました串焼きは、あの肉を使うんです。朝食でも出していましたが、ご存じなかったのですね?」
「あー。あれがそうだったんだ」
「はい。なかなかに足が速く、力も強くて手強い種なんです」
「大丈夫だったの?」
「えぇ、まだ『死んでくれるだけ』
それってどういうことなのかな?
スマホを取り出したら、すぐに着信音が鳴った。
『ぺこん』
『明日は重要な任務があるから、麻夜は寝ます。おやすみなさい、おじさん。おやすみなさい、ロザリエールさん』
麻夜ちゃんも緊張してるんだな。
「だそうですよ、ロザリエールさん」
「それはそうです。あたくしも、最初の任務は緊張したものですから……」
それはなんの任務なのかな? 冒険者的な? それとも始末人的な? 怖くてちょっと聞けなかったよ。
風呂から上がって部屋に戻ってベッドに転がって、『個人情報表示』謎システムの画面を見たところ、現在の時間は午後8時過ぎ。このまま寝るにしても早い時間だし、かといって麻夜ちゃんのメッセージを見たあとに、明日のことを考えるとお酒を飲む気にもなりゃしない。
ちょっと散歩でもしてくるかと、ベッドから起きて外套を羽織って部屋を出る。屋敷を出てぶらぶら。もう冬だから寒くなってきたね。こっちは雪、降らないのかな? それともまだ早いのかな?
そんなことを考えながら歩いてたら、気がつけば都市の外側にある防壁を越えて、河原まで出てきていたんだ。橋を渡って気がついたら、毎晩鍛錬目的で通った崖が見えてきた。
「そういやここ、通ったな-」
「はい。懐かしくも感じますね」
「あれ? ロザリエールさん、いつの間に?」
気がつけば、俺の隣りにロザリエールさんが並んでた。気配を感じなかったのはさすがだと思ったけど。
「お一人で出歩いて、危ないと、……思いませんよね? ご主人様を殺めることができる人なんて、存在しませんから」
「どれだけ化け物なのよ?」
「十分ではございませんか?」
「あのねぇ。でも、ここに通ってなければ、ある意味あのときのことは起きなかったと思うんだ」
「そうですね。ここへ通われていたと聞きまして、後を追ったところ見つけることができました。ここでなら、とあたくしも思いましたので」
「そうだったんだ」
「ところで、ここで何をされていたのですか?」
あのときはこの崖の上だった。ロザリエールさんは崖を見上げて、不思議そうに聞いてる。あー、そっか。知らないんだ? きっと。
「あのね。俺、1日1回、死ぬことにしてたんだよね」
「……はい?」
そりゃそうだ。それが当たり前の反応だもんね。
「『
「……馬鹿、ですか?」
「あー、プライヴィアさんにも言われたよ」
「当たり前です、もし、機能しなかったら」
「あー、それはきっと大丈夫。繰り返し回復呪文がかかってるのを確認できていたし、蘇生呪文自体は、川虫潰して何度も確認してたから。それにさ」
「……はい」
「俺自身、俺の回復属性魔法を信じてないとね、治療に来た人たちに失礼だと思ったんだよ」
「それはそうかもしれませんが……」
「でしょ? だから、試す気になったんだよね。怖かったけど」
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