第94話 風雲急を告げる。
暗いけど、ロザリエールさんは手のひらに何やら明るいものを手にしてる。きっと、明かりの魔道具か何かなんだろうね?
そのおかげで、ロザリエールさんの表情が見えるようになってるんだけどさ。予想通りドン引きしてたよ。そりゃそうかー。
「1度成功したら自信がついたんだ。次の日もね、同じようにここから落ちてみたんだ。やっぱり生き返った」
「ご主人様、あのですねぇ……」
声までドン引き状態だね。
「馬鹿なことをしてるのは、俺にだってわかってたよ。でもね、慣れる必要があったんだ。『死ぬことに対して』ね。おかげで3日目で慣れたよ。あとは、どうしたら退屈にならないようにできるかが、課題だったかな?」
「ご主人様は、本当に……」
「はい。馬鹿ですよね。たまに、即死できなかったことがあって、あまりにも痛くて苦しかったから、どうやれば確実に即死できるか、一晩で2回、3回飛んだときもあったかな? だからね、ロザリエールさんとここで再会したときはもう、20回は飛んだと思う」
うん。馬鹿なことを言ってるのは、自覚してるよ。でも、そんな繰り返しの検証作業を続けてきたから、今の俺があるんだよね。
「ロザリエールさんと出会ってからさ」
「はい」
「俺、死んでないんだよね」
「……馬鹿ですか?」
遠慮なくなってきたなー。
「ちょっと飛んでみてもいいなと思ったんだけどさ」
「ご主人様……」
「せっかくロザリエールさんがいるんだから、手合わせじゃないけど、本気で、手加減なしで俺のこと、殺してみない?」
「はい?」
「だってあのとき、ある意味手加減したんでしょ?」
「手法が違うという意味では、そうかもしれませんが」
「うん。ロザリエールさんの本気、見てみたいなー」
ちらり。
「本当に、大丈夫なのですか?」
「うん。……えっと、ちゃんと『リザレクト』は動いてるよ。うん」
「一度だけですからね?」
「うんうん。すっごく楽しみ。本気のロザリエールさんってどんな感じなんだろうね?」
「どうしようもない、変態ですね。ドン引きです……」
なんだかえらい言われようだけど、この駄目な子を見るような優しい目は、たまらないと思う俺ってやっぱり変態なんだろうか? でもそう言って、俺の前に回って、いつものように両手でふわりとスカートを持ち上げるようにお辞儀をしてくれた、と思ったら気配が消えた。
俺の後ろから、ぶつぶつと何かを唱えるロザリエールさんのか細い声が聞こえたと思ったら。目の前が急に真っ暗になった。それこそ、星の光すら見えないほどの――。
「……あ」
後ろ頭に柔らかい感触。俺を見下ろす見慣れた駄目な子を見るような優しい目。うわ、久しぶりのロザリエールさん膝枕だ。『個人情報表示』の謎システムに表示された、10分の1になった俺の生命力数値。あぁ、即死して、生き返ったんだなとすぐに理解できましたよ。
「おはようございます、ご主人様」
「なんていうか、ごめんなさい」
「いいんです。ご主人様はそういうお人なのは理解していますから」
「うわ、駄目な子のレッテル貼られてるし」
「『レッテル』という言葉は存じ上げませんが、駄目な子なのは間違いないかと」
「しょぼーん」
「そういうところ、麻夜さんとそっくりですよね。本当に兄妹のようです」
「そうだったんだ。ってより、さっきのがあれ。もしかして、あのハウなんとかってお貴族様だったヤツの、そっかそっか。あれがロザリエールさんの本気の一部だったんだね?」
「はい。よく使う手法のひとつでございます」
おそらく俺の後方から何かの呪文を唱えて、闇みたいなので包んで視界を奪った瞬間、すぱーんという感じ?
「いやー、久しぶりに死んだ死んだ。お手数かけました」
「いえ、その。倒れたと思って支えた瞬間、心配する間もなくもう、寝息をたてて、寝ているんですもの……」
「あー、精神的に疲労してるのかもだね。たっくさん治療したから」
「いえ、『あの瞬間の手応えは間違いないなかった』のですが、殺せない存在がこれほど恐ろしいものかと、あらためて実感していたところでございました」
「うん。プライヴィアさんにも言われたよ。『殺せない子にどうして、護衛をつける必要があるのかな?』ってさ」
「そうでございますね。ですがご主人様は、あたくしがついていないと、ほんとうに駄目な子ですから……」
「なんていうかその、色々とごめんなさい」
▼
ワッターヒルズに戻ってきて3日目。今日はあっちの王妃の誕生日だって麻夜ちゃんから聞いてる。いつもよのうに朝ご飯を食べて、スマホを起動して『無理しないでね』と麻夜ちゃんにメッセージを送った。するといつもの効果音が鳴った。
『ぺこん』
『大丈夫。麻夜はクエを投げ出したことないから。じゃ、行ってきます』
そう返ってきたんだ。例え失敗しても、結果的に成し遂げてるからねー。
俺は、『何かあったらすぐ連絡するように』って、メッセージを打って送信。
『ぺこん』
『おっけ』
ロザリエールさんがにじり寄ってくる。
「ご主人様」
「はい?」
「『クエ』とはなんのことでしょう?」
「『クエ』はね、『クエスト』といって、ギルドの依頼みたいなものかな? ここでは俺がお願いした『証拠を確保する』という意味だね」
「そうですか。気負わなければよいのですが……」
「信じるしかないよ」
「そうですね」
俺がギルドで治療してる間、ロザリエールさんは総支配人室のとなりの部屋。会議なんかに使われる部屋に待機して、俺のスマホをじっと見てる。
俺も治療の合間に様子を見に行くけど、バッテリー残量は問題なし。今のところ1時間あたり5%減るくらいかな? メッセージは入ってない。
▼
『個人情報表示』謎システム上にある時計は午後4時になろうとしてた。治療のほうはあと5人ほどで200人に届く。本日の営業も終了かな?
「『
「ありがとうございました」
「いえいえ。怪我なんかしたら、遠慮せずにギルドに相談してくださいね」
最後のひとりが終わった。腰を伸ばして、んー、今日も一日働いた――
「タツマくんっ!」
総支配人室に繋がるドアが開くと、プライヴィアさんが俺を大声で呼ぶんだ。あぁ、力任せに開けるから、ドアがぷらんぷらんになっちゃってる。
「ど、どうしたんですか?」
「いいから来てくれ」
「はいっ」
尋常じゃない焦りの表情。目がマジだ。
総支配人室に引きずられるようにして呼び込まれる。そこにはもう、ロザリエールさんがいたけど、彼女も何やら不安そうな表情をしてるんだ。
「つい先ほど、リズレイリアから
「はい」
「そこには、『アサヤくんという少年と、マヒルちゃんという少女を保護した。大至急来られたし』とあったんだ」
「どういう……、あ」
「えぇ。麻夜さんに何かあったのかと」
「まずい、ミスったのか? あれほど慎重な麻夜ちゃんだったのに……」
「とにかく、タツマくんとロザリアくんは現地に向かってくれたまえ。私も準備ができ次第、向かうつもりだ」
「わかりました」
「どういう結果になっても、私がすべて責任は持つ。だがな、慎重に行動するのを忘れないように。いいね?」
「もちろんです」
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