第146話 次の調査に向けて相談しよっか。
『そういえばさ』という感じに、帰りの馬車でちょっとだけ麻夜ちゃんと話してたロザリエールさんの魔法なんだけど。やっぱり聞いておかないとと思ったんだ。
麻夜ちゃんを見たあと、視線をロザリエールさんにちらりと移す。またゆっくり麻夜ちゃんに戻してみたら、彼女はうんうんと頷いてる。
はいはい、やっぱり俺が聞くんだね。わかりましたっと。
「あのさ、ロザリエールさん」
「はい、なんでしょうか?」
食後にお茶を入れてくれた後何もすることがない場合、普段のロザリエールさんなら俺のすぐ後ろにいるんだ。彼女は俺の家族だけど、侍女で、執事で、ボディガードみたいな存在だと思ってるみたいだから、『楽にして座ってて』なんてお願いしても駄目なことが多いんだ。
例外は、ご飯を食べてるときと、お酒を飲むときくらいかな? それでもロザリエールさんは、一緒に座って食後のお茶を飲むことはあまりないね。
そういえばここに来てからはお酒を飲んでないよ。ちゃんとストレス解消できているのかな?
まぁ、他にも例外はあるんだよ。ほら、ロザリエールさんは今、俺たちの前に座ってる。今日みたいに仕事の打ち合わせをしてるときはちゃんと、俺たちと一緒に座って話をしてくれるんだ。でも自分のお茶は持ってきてないけどね。
「ロザリエールさんの使ってた、例の闇属性の魔法があるじゃない?」
「はい。タツマ様と麻夜さんにお見せしたことがあるものは、眠りの魔法だと思いますが? 間違いありませんか?」
そだね。麻夜ちゃんもうんうん頷いてる。あの、真っ暗になってぱたんと眠っちゃうやつね。
「うん。それで間違いないんだけどさ」
「はい」
「その、眠りの魔法ってさ、どこまで届くものなの?」
「どこまで、と申しますと?」
「えっとなんていうかな……」
レンジ? いや違うか。こっちではそうは言わないだろうよ。それならなんて表現するべきだ?
「えっとね、ロザリエールさん。射程距離って、わかるかな?」
俺がロザリエールさんになんて説明したらいいか考えてたとき、麻夜ちゃんが助け船を出してくれた。そうそうそれ、射程距離。それが出てこなかったんだ。
「はい。知っていますよ。例えるなら、弓から放たれた矢の届く範囲ですね?」
「そっそ。それで正解です」
「麻夜ちゃんありがとう、助かるよ」
「もしや、眠りの魔法の効果範囲でございますか?」
「うん。まさにそのこと。どれくらいの範囲まで届くものなのかな?」
「そうですね、あまり遠くにかけたことはありません」
「そっかぁ」
俺と麻夜ちゃんはしょんぼりするしかない。わざとそうするわけじゃないけど、残念だねーという感じに、下をつい見ちゃってたんだ。
「いえ、やってみないとわかりませんという意味です」
期待してたロザリエールさんの答えに、俺たちは顔を上げた。
「そうなの?」
「それならさ、兄さん」
「ん?」
「はい」
「はいって、お手とか言わないよね?」
「言わない言わない」
麻夜ちゃんは立ち上がって俺に手を差し伸べる。それはまるで、執事さんがお嬢様にするみたいな感じで。
「え? あ、うん。ならいっか」
麻夜ちゃんの手のひらに手を乗せて、俺はなんとなく立ち上がった。そうして立ち上がったときなんだけど、ほんの少しだけ麻夜ちゃんの口角が上がったような気がしたんだよね。
「はい兄さん、こっちこっち」
「え?」
そのまま、この無駄に広い食堂の端っこまで連れて行かれて。
「ここで立っててね?」
「あ、はい。ここ? 何するの?」
麻夜ちゃんはロザリエールさんの隣へ戻っちゃう。ここから10メートル以上あるかな? ほんっと、広いなここ。あそこに長いテーブルがあるだけで、こっち側はなにも置いてないから余計に広く思えるんだよ。
「ロザリエールさん」
「何ですか?」
「ここから兄さん、眠らせてもらえますか?」
「はい。いいですよ」
「ちょ、えっ?」
ロザリエールさんは『何やら口の中で唱えたかな?』と思ったら手のひらをこっちに向けた。その瞬間目の前には見覚えのある真っ暗闇。
▼
「――兄さん、兄さん」
「……ん? お?」
ぺちぺちと頬をたたかれる感触。それと頭の裏側に暖かくて柔らかい感触。
頭の中で『個人情報表示』させて、生命力見たけど減ってない。
「あー、寝てただけ?」
「そっそ」
「申し訳ございません。存じていらしたのかと思っていたものですから」
「ごめんね兄さん。ロザリエールさんの闇属性の魔法がさ、あの距離でいけるのかなーってやってみるテストだったのよん」
「なるほどね。ま、いいけどさ」
うん。麻夜ちゃんならやりか――いや、やるね。うん。絶対にやるわ。
「しかしねー、このイベント
「ん。まだ優しいもんだよ。この上俺、即死させられたもんね」
「くわばらくわばら……」
麻夜ちゃんは両手を合わせて『おー怖い』的な仕草。てか、古い言葉知ってるな。ロザリエールさんは麻夜ちゃんの言ってることがわかってないかもな表情だね。
「まーやーちゃん」
「はい、なんでございますか?」
「ちょっとこっち立ってて」
「いや、そのですね兄さん」
「はい。ロザリエールさんはこっち」
「は、はい」
「あの、に、兄さん」
「動いたら、即死+リザコースだからね? 初めてならきっと、痛いよ? 苦しいよぉ?」
「あ、はい……」
ロザリエールさんを反対側の場所に立たせて、俺は椅子を持って麻夜ちゃんのところへ。
「はい。とりあえず、武士の情けね」
麻夜ちゃんを椅子に座らせる。さすがにその場でパタリは可哀想だから。
「しょぼーん」
俺はロザリエールさんの横へ戻って。
「さ、ロザリエールさん。やっちゃってあげてください」
「よろしいのですか?」
「うん。何事も経験だから」
ロザリエールさんは何やら俺が理解できそうもない呪文らしきものを唱えると、さっきみたいに手のひらを向けて――あ、真っ暗。すごいね。ギリギリ麻夜ちゃんを包むくらいの大きさで魔法を展開してるよ。
「あ、これはすごい」
漆黒の霧が晴れたかと思ったら、頭を垂れてる麻夜ちゃん。うん。転がることはなかったね。うーわ、寝息立ててるよ。
「えっと、ロザリエールさん」
「はい」
「麻夜ちゃんがさ、俺を起こすのに頬を叩いてなかった?」
「はい。遠慮なしに叩いてましたね」
「やっぱりなー。かといって麻夜ちゃんは女の子だし、俺が叩かれたからといって起こすのに叩くくわけにはいかないから。んー、どうするかな?」
「そうですね。あたくしの二日酔いのようにはできませんか?」
「あ、なるほどね」
眠りも酔いと同じようにデバフみたいなものかもしれないね。
「『
「あたくしも、眠りを解除したのは先ほどのタツマ様以外見たことがありませんので」
「そっか。普通は見方にかけるものじゃないってこと? それとも書けたら相手は生きてないのが普通だったりするのかな?」
「はい。後者の通りでございます」
なるほどなぁ。死んじゃうまでがワンセットかー。
危険性がないとは言い切れないもんな。あっちの世界でいうところの、『吸引式の全身麻酔がなぜ効くのか詳しくは解明されていない』っていうのと同じようなものか。
実際、かけてるロザリエールさんも魔法がどう作用しているか理解して使ってるわけじゃないみたいだからね。もちろん俺の回復属性魔法もそうだけどさ。
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