第147話 ロザリエールさんには活躍して、あ、麻夜ちゃんもか。
麻夜ちゃんはいま椅子の上。ついさっきロザリエールさんがかけた眠りの魔法ですやすや眠ってる。けれど麻夜ちゃんが俺にやったみたいに、ぺちぺちと頬を叩くわけにもいかないんだ。
もしやったとしたらきっと、ロザリエールさんにお説教されるはず。下手すると串焼き5本にされることも十分にあり得るんだ。1食だけならいいけど、続くとさすがに泣けてくるからね、あれはさ……。
頬を叩く代わりと言ってはなんだけど、ロザリエールさんがある提案をしてくれた。それは、眠りの状態を二日酔いのようなものと仮定して、魔法で麻夜ちゃんを起こすことができないかということなんだ。
「まずは試しに『
んー、やっぱり駄目か。
「それならこっち、『
全く変化なしだよ。
「気持ちよさそうに寝息をたてていますね……」
うん。幸せそうな寝顔。どんな夢みてるんだろうね? あー、女性の寝顔を見るのって、普通はあまりよくないって言われてるらしいけど。
ま、俺は女性の寝顔なんて見たことはあまりないんだけど。ロザリエールさん的にはNGじゃないみたいなんだ。その証拠にまだ、怒られてないからね。
「それならこれはどうだ? 『
「はい、そうでございますね」
悪素でも解毒できる魔法なのに、これも駄目か。『個人情報表示謎システム』的にはきっと、二日酔いと魔法による眠りの状態は同じじゃないんだろう。俺にも麻夜ちゃんみたいに鑑定のスキルがあれば、こういうとき助かるんだけどな。
「ほんとに寝てるのかな? 狸――いや、寝たふりしてないよね?」
狸寝入りは、ロザリエールさんわかんないだろうから。つい、言い直しちゃったよ。
「えっとんー、布団が吹っ飛んだ」
「――ぷぷっ」
こんな親父ギャグクラスの駄洒落で陥落するとは。ロザリエールさん、相変わらず笑いの沸点低いねー。
「……この程度じゃ駄目か」
「……だ、駄目でございますね?」
ロザリエールさんなら効果はてきめんだったんだけど。
「ほら、麻夜ちゃん。起きないと明日からつれていかないよ?」
狸寝入りなら本当に連れて行かない。今は検証なんだから、そんなことは麻夜ちゃんもわかってるはずだし。でも、ほんとに聞こえてないっぽいな。
「うん。疑って悪いことしたわ。寝てるね、これは」
「これだけ話し声が聞こえていても目を覚まさないものだとは、あたくしも思いませんでした」
「そりゃそうだ。闇属性魔法ってさ、かなり強力な魔法なんだと思うよ。さて、それじゃこれは? 『
魔法をかけた瞬間、
「お、魔法の効果自体を解除しなきゃ駄目なくらい強いのか」
「はい。なんといいますかその、申し訳なく思います……」
「ロザリエールさんのせいじゃないって。俺と麻夜ちゃんが悪いんだから」
麻夜ちゃんの目がきょろきょろ、俺とロザリエールさんの間を行ったり来たりしてる。まだ状況がつかめてないみたいだね。
「麻夜さん。痛いところはないですか?」
「うん、だいじょ――あれ? 麻夜、……あー、酷いよ兄さん」
やっと思い出したみたいだ。麻夜ちゃんはとりあえず怒ってみたって表情してる。やり返されたのがちょっと悔しいのかもだね。麻夜ちゃんはほら、かなーり負けず嫌いだから。
「ごめんごめん。でも麻夜ちゃんも悪いんだよ」
「それはそうだけどさぁ……」
「はいはい。効果が体感できて、安心感につながるってことでいいじゃない?」
「仕方ないから、『そういうことにしといてやらぁ』って、言ってあげますよん」
どこぞの舞台上で芸人が使う捨て台詞だっけ? ほんと、古いの知ってるなぁ。
「それにしてもさ、見事なかかりっぷりだったね」
「はい。呼びかけても、タツマ様が冗談を言っても駄目でした」
「まじですか?」
「はい。まじでございます」
「あーでも、兄さんだって頬を叩いてもなかなか起きなかったんだよ?」
「うん。ロザリエールさんから聞いたよ。酷いね、何気に」
「おあいこってことで」
「そうしておいてあげよう」
とにかくだ。ロザリエールさんの眠りの魔法は、俺たち異世界の人間にも抜群に効くのがわかったんだ。そりゃ長年ハンターとして実績のある手法のはずだし。ロザリエールさんだって信頼してる魔法のひとつだろうからね。
「それでさ、兄さん」
「ん?」
「ロザリエールさんも見たよね?」
「はい。確かに」
「何のこと?」
「兄さん起こすときにね、往復ビンタしてるとき」
「ひでぇ……」
「それはこっちにおいといて」
「おいとくんだ……」
「兄さんのほっぺがさ、真っ赤になるんだけど」
「うー」
「数秒おきにね、腫れがひいていくのよん」
「はい。不思議でした」
「数秒ってもしかしてさ、10秒きっかりじゃない?」
「うん、それくらいかな?」
「かなり長い時間たたいてたんだね。……あ、それもしかして」
「うん」
「リザレクションの副次効果かもしれない」
「え? あれって蘇生魔法でそ?」
「なんだけどさ。10秒おきに今もね、かけられ続けてるわけよ。それ以外考えられないんだよね」
「これはあれだ」
「うん。近いうちに検証作業だね」
「うんうん」
とりあえず、眠りの魔法のことに戻るとしましょ。
「ロザリエールさんこれさ、例えばね」
「はい」
「セントレナの背中に乗ったとして」
『くぅ?』
聞き覚えのある声。あ、セントレナだ。
「あれ? いつの間に?」
「うん。ついさっきだよ」
俺は食堂内を見回した。母さんの姿が見えないわ。
「そういやロザリエールさん」
「はい」
「母さんの姿が見えないけど」
「はい。プライヴィア様はですね、タツマ様が眠られているときに自室に戻られました」
「あ、そうなんだ。それならさ、あとからダンナ母さんに、この打ち合わせのこと伝えてくれる?」
「はい。かしこまりました」
ダンナ母さんはプライヴィア母さんの秘書でもあるから話は伝わる。何かあったらそれでいいからって教えられてるんだよね。
俺は窓の外からきょとんとした目でこっちを見てるセントレナを見て。ひとつため息をついた。
「……仕方ないなー。ロザリエールさん、麻夜ちゃん」
「はい」
「なんでしょ?」
「俺の部屋で続き、いいかな?」
「はい。構いません」
「いいよん」
「それじゃ、セントレナもいい?」
『くぅっ』
あ、もう行っちゃったよ。なんだかなぁ……。一足先に飛んでいったセントレナの後を追うように、打ち合わせの場を食堂から俺の部屋に変更。
俺の部屋、入り口を入って手前のリビング。そこのテーブルに備え付けの椅子に座るのは、部屋の主の俺だけ。ロザリエールさんは麻夜ちゃん付きの猫人族の侍女でみーちゃんことディエミーレナさんと一緒にお茶の準備中。
麻夜ちゃんは、すぐそこにうつ伏せになってるセントレナの背中に乗ってモフってる。ほんと、好きだよね。
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