第148話 ロザリエールさんの魔法ってやっぱり凄い。

 テーブルに並んだ2つのカップ。壁際に用意してある、ロザリエールさんやディエミーレナさんたち用の小さなテーブルにも2つ。

 セントレナの背中から移動して、俺の前に座ってる麻夜ちゃん。


「打ち合わせなんだから、ロザリエールさんはこっちへ来てくれる?」

「はい。かしこまりました」


 ロザリエールさんはカップをそっと持って麻夜ちゃんの隣へ座った。

 麻夜ちゃん付きの侍女、『みーちゃん』ことディエミーレナさんことレナさんは、その場で甘い焼き菓子を頬張りながら、お茶を楽しんでる。長くなる話の場合、こうしてゆったり休みながら待機してもらってるんだ。


「そういやさ、ロザリエールさん」

「はい」

「セントレナの背中に乗ってさ、上空から地上の標的にさっきの魔法をかけることって」


 さっきの魔法とは、ロザリエールさんが使う闇属性の魔法で眠りの魔法。あのばかでかい漆黒のマリモみたいな魔法のこと。


「はい。可能かと思います。もちろん、目視できることが最低条件でございますが」

「まじですかー」

「まじですかー」


 驚く俺と身を乗り出す麻夜ちゃん。部屋の隅から隅まで届くとはいえ、自信たっぷりに答えたロザリエールさん、半端ないわ。まじで。


「それならさ、俺が考えてるのってこうなんだよ――」


 俺は、ジャムさんと麻夜ちゃんとで打ち合わせをしたことをロザリエールさんに伝える。その上でもし、上空から何か妙な動きがあった場合、すぐに動けるようにしたい。

 麻夜ちゃんとロザリエールさんに、アレシヲンへ乗って別行動をしてもらう意味は、万が一俺が単独で動かなきゃならないときに援護をお願いしたいから。そんな感じかな?


「とにかくさ、どうやってウェアエルズあちらさんエンズガルドこちらの冒険者を捕らえたのか? そこなんだよ」

「だねぃ」

「はい、そうでございますね」

「おとりで冒険者さんたちに出てもらうから、俺たちは上空で待機するんだ」

「うんうん、コマセなのね」


 麻夜ちゃんが言うコマセとは寄せ餌。いわゆる釣りをする際の集魚効果のある撒き餌のこと。確かにそのまんまだね。


「はい」

「麻夜ちゃんはさ、怪しいと思えるものはすべて、『鑑定』しちゃってくれる? それでスマホで教えてほしいんだ」

「うん。わっかりやした」


 そういってびしっと敬礼する麻夜ちゃん。麻夜ちゃんの鑑定スキルも、目視の範囲なら有効だって。まじでチートだよね。


「母さんから許しを得てるから言うけどさ」

「うん」

「はい」

「ダイオラーデンのときと同じ。現場に任せるってさ」

「え? ってことは」

「うん。最悪、多少の問題になっても構わないって」

「まじですかー」

「かしこまりました」


 驚く麻夜ちゃん。静かに頷くロザリエールさん。対照的だね。


「母さんも結構頭にきてるみたいなんだ。静かに怒ってた。まじ、怖かったです」

「まじですか……」

「それはたしかに……」


 プライヴィア母さんが言うには、オオマスが禁漁の冬場はあまり魚を食べることはないんだって。あまり獲れないからか、値段も上がってる。王家や公爵家など、お金を持っている家は余計に我慢しなきゃならないんだって。

 豊漁のときは、おなかいっぱいに食べられたこともあったらしいけど、上にたつ人ほど我慢しなきゃいけないって。マイラヴィルナ陛下も我慢してるらしいんだ。ロザリエールさんから聞いたよ。


 ▼


 ジャムさんと3人で打ち合わせをした翌日は、これといって動きはなかった。

 たちは、神殿で悪素毒の治療と麻夜ちゃんの聖属性魔法のスキル上げ。200人を超えたあたりでギルドへ行って、ジャムさんとお茶会という名目で軽い打ち合わせをしてからプライヴィア母さんの屋敷に帰る。


 晩ご飯前、日が暮れるまで予行演習として、ロザリエールさんの魔法の実証実験。


 スマホを耳にあてて、上空を見る。俺の目にかろうじてアレシヲンの姿がわかる。


「いまどれくらい?」

『さむいよー、つめたいよー』

「はいはい我慢我慢」

『えっとねえっとね、501メートル?』


 麻夜ちゃんから俺を見たとき、『鑑定』で正確な高さが見えるんだってさ。やっぱすっげーチート。


「さっきが400だから、おし、じゃ、やっちゃってください」

『おっけー。ロザリエールさん』

『はい』


 ロザリエールさんの『はい』の声のあと、少し経って目の前に黒い球体が現れて消える。これが眠りの魔法なんだよ。

 別に俺が寝かされなくてもいいんだってさ。対象じゃなく、座標に対してかけるらしいから。なるほどなと思ったよ。あのときも、まとめて何人かぱったりいってたもんな。


「おっけー。確認した。成功だね」

『ありがとうございます』

『あいあい』

「そろそろ暗くなってきたから、いちど1000メートルやってみてもらえる?」

『かしこまりー』

『かしこまりました』


 50メートルから始めて、あとは100メートルきざみで500まで。暗くなってきたから、ダメ元で1000メートルに挑戦してもらうことになった。


『いくよー』

『準備できました』

「はい、お願いします」

『はい』

「――うわ」


 1000メートルだよね? 目の前に黒いカマクラができたよ。麻夜ちゃんは距離だけを鑑定スキルで測ってるんだろうけど、ロザリエールさんもどんだけ目がいいんだろう?


『どうかされましたか?』

「いや、成功だよ。とりあえず戻ってきてくれるかな?」

『かしこまりました』

『戻るねー』


 うーわ、速い速い。アレシヲンはセントレナと違って真っ白だから、降りてくるのがよく見える。1000メートル上空にいたはずだけど、あっという間に目の前に降りてきたんだ。


 麻夜ちゃんとロザリエールさん、アレシヲンが戻ってきたところで空も真っ暗になりつつあった。


『ぐぅっ』

『くぅ』


 セントレナがアレシヲンを労っているんだろうね。プライヴィア母さんが乗らないときは、お屋敷の厩舎でぼやーっと寝てることが多いってディエミーレナさんから聞いてるんだ。

 アレシヲンと違ってセントレナは、俺の部屋にいることが多いみたいだけど。アレシヲンは俺じゃなく母さんの子だからなぁ。俺の部屋に来たことはないんだよね。


「お疲れ様。ロザリエールさん、麻夜ちゃん」

「はい。お疲れ様でございます」

「兄さんもおつかれさまー」

「ありがと。それにしてもさ、ほんとこの『個人情報表示謎システム』でつながってるスマホって便利だよね」

「うんうん」

「ただ難点はさ、この世界に4つしかないことかな?」

「そだねー。麻夜のと、真昼ちゃん、朝也君の。あと兄さんのだねー」

「そだね。スイグレーフェンとリアルタイムで連絡取れるのはいいんだけどね」

「うんうん」

「ただこっちはさ、どれだけ魔法や魔導具が発達してても、連絡があれば人伝なんだよね」

「あー、そうだねー」

「例えばジャムさんあたりに連絡獲りたいときなんか、スマホみたいなのがあれば便利かもだけど」

「兄さんはここ歩いちゃ駄目って言われてるもんねー」

「麻夜ちゃんもでしょ?」

「忘れれてたー。そうだった。うん、不便だねー」


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