第183話 久々のスイグレーフェン。

 スイグレーフェンにある湖を通り過ぎたあたり。


「どうする兄さん?」

「んー、そのまま王城の中庭に降りちゃおうか」

『くぅ』


 察してくれるセントレナさすがとしか言いようがない。アレシヲンは降りたことないんじゃないっけか?


「了解。アレシヲンたんあそこ、お願いね」

『ぐぅ』

「『到着』、ぽちっとな」

「どしたの?」

「麻昼ちゃんにメッセ流したのよん」

「なるほど」

「ほらほら。お出迎えだよ」


 確かに中庭に二人の姿が見えた。ただ俺は知ってる。麻昼ちゃんも朝也くんも、俺たちを出迎えてるんじゃなく、セントレナたちを待ってるんだってね。それを麻夜ちゃんはまだ気づいていない。


「麻昼ちゃん久しぶりー」

「麻夜ちゃん元気にしていましたか?」


 そう言葉を交わした麻昼ちゃんは、純白のアレシヲンに抱きついた。


「え゛?」


 麻夜ちゃんは予想通り絶句する。こっちをじっと見る朝也くん。おそらく俺じゃなくセントレナを見てるんだ。セントレナとアレシヲンはその場で伏せてくれる。


「お久しぶりです、その」

「久しぶりだね。いいよ。思う存分」

『くぅっ』

「ありがとうございます」

「麻昼ちゃん、それはないでしょう……」

『ぐぅ』


 麻夜ちゃんのツッコミと、アレシヲンの慰め。我関せずで堪能しまくってる麻昼ちゃん。遠慮がちに楽しんでいる朝也くん。なんともほのぼのした光景だろうね。


「それじゃ俺は陛下のとこ行ってから、ギルド顔出してくるね」

「あいあいー」


 勝手知ったる一度は攻め込んだ王城。人とすれ違う度に会釈をされる認知度。階段を上がって、二階を通り過ぎて、最上階の三階へ。右を見ると通せんぼするように騎士さんがいる。


「お久しぶりです」


 冒険者上がりの騎士さんだった。見覚えがあるわけだ。手を上げて簡単な挨拶。


「陛下いる?」

「はい。少々お待ちください」


 王城というより、規模が大きくなった冒険者ギルドという感じだね。


『入ってもらっていいよ』


 奥から馴染みの声が聞こえてきた。


「どうぞ」

「ありがとう」


 大きなドアを開けるとあれれ?


「なんでセテアスさんが?」

「いやね。最近抜け出しては、ミレーニアのところに逃げ出しているって報告があってね」

「あー、駄目っしょ」

「そうはいってもですね、激務で激務で、疲れが抜けなくて」

「『フル・リカバー』。どう?」


 このドーピングが効かない人はいないのだ。どうよ?


「あ、腰も痛くなくなって――ってずるいですよ。タツマさん、私に冷たくありませんか?」

「あははは。相変わらずだね。元気そうで何よりだよ」

「どうせ私は伯母上を継ぐことはありませんから」

「何を言ってるんだい? 来年、公爵家当主を名乗ることになるというのにこの子は……」

「まじですか? セテアスさん、おめとうございます。なんだー、公爵閣下かー、遠い人になっちゃうなー」

「その棒読みやめてくださいって」


 棒読みって言うんだ、こっちでも。


「エンズガルド王国公爵家嫡子のタツマ様が何を言うんです?」

「あははは。ほんとうに、この子と友人関係を結んでくれているんだね。ありがとう。私はこの子たちが肩身の狭いことになっていないか。それだけが心配でね……」

「だから伯母上。私は宿屋の亭主が良かったんですって……」

「それはもう駄目でしょう。没落していたとはいえ、元々貴族の家系だったんだから」

「だからといってですね、諦めきれないのが人情というものでしょうに」

「あ、そんなことは置いといて」

「置いておかれるんですかっ!」

「陛下、お手を拝借」

「はいはい。これでいいかな?」


 うん。綺麗なものだね。前みたいなことにはなってない。


「前ほどではなくて安心しました」

「これもすべてコーベック殿のつくる魔道具のおかげ。よろしく言ってくれると嬉しいよ。本当に助かっているってね」

「伝えておきます。職人さんにはその声が一番ですからね。あとでうちの麻夜ちゃんが治療に伺うと思います。そのとき『経験値』とか口走るかもしれませんが、聞かなかったことにしてあげてください」

「あぁ、わかったよ」

「明日は治療にあたって、魔道具の調子もみて、場合によっては交換するつもりです」

「ありがとう。いつもすまないね」

「いえいえ。たまにしか来られませんから。それではこれで一端失礼しますね」

「支部の建物はね、改築が終わっているから使ってくれて構わないよ」

「そうですか、ありがとうございます」


 俺の家、出来上がってたわけだ。


「あ、それなら私も――」

「セテアス、あなたは駄目だよ」

「そんなぁ……」


 俺はセテアスさんを置き去りにして陛下の部屋を退出。


「『旧ギルド建物俺の家完成。一階はセントレナとアレシヲンの厩舎だったはず。とりま報告まで』、送信っと」

『ぺこん』

『こちら解放されますた。アレシヲンたんとセントレナたんが中庭で待ってまつ。麻夜は麻昼ちゃんとちょっとお話』

「『了解、二人を連れて先にいってます』、送信っと」


 あ、敬礼のスタンプが送られてきた。こんなのあるんだ、知らなかった。


 明日は治療とウォーターサーバー式魔道具の調子を見る作業だから、セテアスさんにも会えたし今日は一度新しい家に戻りますかね。

 中庭に戻ると、ぽつん、ぽつんと座り込んでる黒と白のにわとりの姿。俺の匂いかなんかを感じ取ったのか、セントレナだけ顔を上げた。


『くぅっ』

「お疲れ様。あまりなで回す子じゃなかったでしょ?」

『くぅっ』


 現場を見ないで離れたけれど、麻昼ちゃんは前にセントレナに抱きついていたから、今回はアレシヲンかな? と思ってたんだ。朝也くんは麻夜ちゃんほどじゃないだろうから、心配はしていなかったんだよ。『思う存分』と言っておいたのに、ややは遠慮がちだったからね。


「アレシヲン、疲れたでしょ?」

『ぐぅ……』

「あの子が、麻夜ちゃんの双子の姉。興味を持つという意味では多分、アレシヲンのほうかなと思ってたんだよね。冬場に白い羽は映えるし、黒い羽は逆に温かそうなんだけどね。俺はどっちかというと、セントレナかなー」

『くぅっ』

『ぐぅ……』

「ほらほら。とりあえず、俺の家があるから移動するよ。セントレナ飛んで、アレシヲンはついてきて」


 俺はセントレナの背中に乗る。重さを感じてゆっくり立ち上がってくれると、翼を広げてゆっくりと上昇してくれた。アレシヲンも彼女に続いている。


「あれね。色でわかるでしょ?」

『くぅ』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る