第184話 スイグレーフェンでの俺の家。
セントレナにお願いして、もともと冒険者ギルドスイグレーフェン支部だった建物の屋上に降りてもらったんだ。そういえばプライヴィア母さんもごく希にここへ来ることがあったらしいし、そんなときはアレシヲンに乗せられてきたはず。
おぉ、すげっ。試しに屋上に降りてみたらこれはビックリした。出入り口があるのはさておき、サイズがプライヴィア母さん仕様。ということはだ、セントレナたちも余裕で入れるかも。
ドアすんなり開く。ここから出入りする人はいないだろうからか? 鍵がかかっていないんだよ。それとも俺が入ると思ったからか、あらかじめ開けておいてくれたのか?
とりあえず入ってみた。うん。俺が二人すれ違える幅があるわ。ということは、うんうん。セントレナとアレシヲンがついてくるし。
「あーちょっとまって」
俺は壁とセントレナたちの隙間を進んで、ドアの内鍵を閉めに行く。一応だよ一応。だれも入ってくることはないだろうけどね。ベルベさんたちがいたら別だろうけどさ。
とりあえずそのまま、プライヴィア母さんが通れるサイズの通路を抜けていく。階段を降りて二階を経由して一階へ。
「おー、これはなかなか」
板張りだけど、綺麗にワックスみたいなのがかけられていて
受付カウンターがなんと、対面キッチンみたいに流しと魔石型のコンロがあるんだ。上を見るとこれまた魔石式の換気ダクト。よくまぁこれだけリフォームしたもんだ。奥はなんだろう? 倉庫みたいになってる。なんにでも使えるようにしておいてくれたんだろうけどね。
もちろん二カ所ほどの小さな部屋があって、何もないけど客間にできそうな感じだった。
元々、この建物は小さくはない。あれだけの人数がいる職員さんと、かなりの数の冒険者を受け入れていたんだ。それに、受付、獲物の解体。裏手からの搬入、搬出、資材の保管などなど。そこに付け加えて、俺が1日200人からの治療をこなせるまで、実に馴染みのある建物なんだよね。
一階にあった治療室なんかは取り払われてるね。セントレナとアレシヲンが広々と使えるようにしてくれたのかもしれない。
一応、セントレナたちとまったりできるように、ソファーとテーブルが用意されてる。これはありがたいね。
階段を戻ると、カウンター裏へ抜ける右側のドアがなくなってる。元々、カウンターは二段になっていて、一段目は裏手に繋がる倉庫。二段目は事務仕事をする事務所みたいな用途で使ってたんだっけ? だから、階段を上がっても二階が存在しないんだ。
三階へ戻ると、左に部屋が二つ。右に大部屋がひとつ。これはギルドカウンターの上あたりだね。それで一番奥に部屋がひとつ。ドアを開けるとそこは見覚えのあるカーテンのかかった窓。左奥はベッドになっていて、ソファーも置いてあある。奥に机と椅子があって、ちょっとした調べ物ができるようになってるんだね。
そういや風呂はどこにあるんだ? あ、ここか。右側にトイレとは別に風呂場ができてるよ。よく作ったな、……ってちょっとまて。お湯が沸いてる。ということはあれだ。ワッターヒルズから魔道具持ってきたのか?
あのお湯を沸かし続けて循環させるやつ。すげぇ。凄すぎるぜぇ……。
手前左側にあった部屋は元支配人室よりは狭めだけど、同じように什器備品も準備されてる。もちろん風呂場もトイレもあるんだ。もう一つはまた少し小さめの部屋。こっちもちゃんとした部屋になってる。おそらくは客間みたいなものなんだろうね。
向かいの大部屋はなんと、書庫になってる。なんだろう? このやたらと古そうな書籍は? とりあえず今日は深掘りするのはやめておこう。
一階に戻って、アレシヲンが俺の頭に顎を乗せるんだ。
『ぐぅっ』
「あ、そっか。ご飯だね。ちょっと待ってて」
そのとき一階の入り口が開く。
「ただいまー、……でいいのかな?」
やっぱり麻夜ちゃんだった。あれれ? 麻昼ちゃんが一緒だよ?
「うん。おかえり、麻夜ちゃん。で、いらっしゃい麻昼ちゃん。あれ? 朝也くんは一緒じゃないんだね?」
「んー、ちょっと兄さんこっち。セントレナたん、アレシヲンたん、麻昼ちゃんをお願いねー」
『くぅ』
『ぐぅ』
「わぷっ」
俺の手を引いて、麻夜ちゃんは階段を登っていくんだ。いったいどうしたんだろう? あれ? さっきの書庫に入っていくんだけど?
「あのね兄さん」
「うん」
「ここにあるの。おそらく魔道書とそれ関連の書物」
「え?」
「これね、麻昼ちゃんがね、ふたりの
「……ってことは」
「うん。召喚関連も入ってるはず。あとね」
「うん」
「明日、治療終わって、魔道具入れ替えたらさ」
「うん」
麻夜ちゃんが抱きついてきた。
「麻夜ね、やらなきゃならないことできたんだ」
「うん」
「だから麻昼ちゃん帰ったらさ、話があるんだよね」
「そっか。うん。わかった」
珍しく麻夜ちゃんが泣きそうな声出してる。俺の胸元に顔をうずめてる。俺は彼女の背中をぽんぽんと軽く叩いてあげるしかできないでいたんだよ……。
「……んふーっ、んふーっ、ぐもあじゃないけどやっぱりいい匂い。兄さんの匂いもすきだなぁ。どうしてかねぇ」
「あのねぇ。結局これかい」
「てへ?」
俺たちは一階に降りてきた。あ、麻昼ちゃんがセントレナたちにまみれてる。うん。やっぱり姉妹だねぇ。プライヴィア母さんやジャムさん、レナさんにじゃれついてるときの麻夜ちゃんそっくりだわ。
「朝也くんを猫っかわいがりしてるときも、あんな感じなのよねん」
「――ま、麻夜ちゃん。戻ってるなら戻ってるって」
「あーはいはい。あのね、例の話したからね」
「麻昼ちゃん」
「は、はいっ」
慌ててスカートの裾なおしてる。寒い時期だからか、スカートの下にズボン履いてるんだね。そうじゃなかったら凄いことになってたかもだわ。
「色々とありがとう。君たちも同じで辛かっただろうに」
「いえ。私たちには優しい母がいます。もう、大丈夫なんです」
「女王陛下のことなのねん」
「あ、そっか。養子に迎えるって聞いてたからそれなんだね」
「はい。朝也ちゃんなんて最初、泣いちゃって泣いちゃってもの凄く可愛かったんです……」
「あぁ、あの目はいくない。ヤンデレの目ですわ」
あぁ、麻夜ちゃんが言ってたのはこれか。この状態でべろちゅーか。うん。俺もいたたまれなくなるわ……。きっとね。
「――はぁっ。朝也ちゃん、王子様になるんですよ? 王子様、でへへ、……はっ、も、申し訳ありませんでしたっ」
「だみだこりゃ」
「あははは」
俺たちがこっちにいるときは、二人で遊びに来てもいいからと伝えると、麻昼ちゃんは帰っていった。
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