第57話 一日の仕事を終えて。

 俺はギルド職員全員。外へ出ていて戻ってきた冒険者の皆さん。ギルド職員のご家族の方々。午後からだったけど、結構頑張れたと思う。


 疲れはないよ。定期的に『フル・リカバー完全回復』かけてたし。魔素切れも起こしてない。まぁ、使い切るのはもう難しいくらい増えちゃってるんだけどね。


 あれからロザリエールさんは、『個人情報表示』謎システム画面上の時間で、午後6時くらいだったかな? 約束通り戻ってきてくれたんだ。今は、支配人室で情報共有の真っ最中。


「――魔道具の存在は間違いございません」

「その情報元はどこなんだい?」

「侯爵家の離れで転がっていました、例の男でございます」

「あー、あのケルミオットって執事ね」

「はい。そうでございます。しっかり『脅かして』まいりましたので」

「あははは。また漏らしたりしてなかった?」


 パブロフの犬状態にならなきゃいいけど。


「それはそれということで」

「あははは。……で?」


 同席してもらってるリズレイリアさん、引きつった表情してるよ。彼女にも一応、知っていてもらわなきゃならない。侯爵家と王家をしっかり脅してきたってね。プライヴィアさんから預かった委任状を見せたら『彼女ならやりかねませんね』と笑ってたっけ。


「はい。魔道具を作らせていたのは、あの家で間違いありませんでした。もちろん、魔道具の運用もあの家で行っていました。それ故に、魔道具が動きを止めたのは、昨年末で間違いございませんでした」

「そっかー、それってあのケルミオットが言ってたから?」

「いえ、案内させて、あたくしの目で見て、確認いたしました。魔道具の内部をみられるようにさせて、核となる魔石が力を失っていたのが確認できましたので……」

「力を失う?」

「はい。魔石は赤みを帯びた色をしています。力を失うと、透明に近い色に変わるのでございます」

「ロザリエールさんが確認したなら、そりゃ動いてないわ」

「遠目からでは魔石が力を失っていることもわかりません。きっと、誤魔化しが効くと思っていたのでしょうね」

「なんともまぁ……」

「それ、あぁ、なるほどねぇ。それじゃぁ、のままってことじゃないかい」


 がっくり肩を落とすリズレイリアさん。これは俺たち三人で飲み込まないといけない事実かもしれない。生のまま、要は『悪素を取り除いてない』ってことだから。


「あのさ、ロザリエールさん」

「はい」

「その魔道具、外せそう?」

「そうですね。手かぎのついた長い柄でひっかけるようにして、回収していましたので。おそらくは固定されていないものかと」

「じゃそれ、もらっちゃおうよ」

「はい?」

「な、何を言ってるんだい?」

「ほぼほぼ丸一年使ってないってことだからさ、もう使うつもりないんでしょう? もったいないから俺が使わせてもらうよ。それにほら、俺は空間属性持ってるじゃない?」

「あ、それなら」

「そう。いただくことが可能ってことだよ。多少大きかろうがなんだろうが。ロザリエールさんは無報酬で働いちゃったんだし、俺は被害を被ったんだからさ。迷惑料として、いただいちゃってもいいだろうって、ね?」


 やったことはないけど、もしかしたら離れ丸々格納できるかもしれないし。ってあ、二人とも呆れてるし。俺、おかしいこと言った?


「それにさ」

「はい」

「コーベックさんたちに見せたらさ、もう少し良い物が作れそうとか、ないかな?」

「あぁ、得意ですからね。あの子たちなら」

「もしかしたらと思ったんだけど、そうだったんだ」

「はい。あの子たちは手先はかなり器用ですからね」

「なるほどなるほど、あ、リズレイリアさん」

「なんだい?」


 『もう驚かないよ』みたいな、少し呆れた表情。俺、そんなに無茶なことしてるかな?


「プライヴィアさんへ『こちらへ来てもらえませんか?』という、昼くらいにお願いしてた件です」

「あぁ、ちょっと待ってくれないかね?」


 リズレイリアさんは、やれやれという感じに立ち上がると、自分の机へ歩いて行く。裏側に回ると、引き出しから何やら取り出した。彼女は、箱に入ってる何かを持って、こちらへ戻ってくる。ソファに座ると、箱を開けたんだ。


「これがね、『文飛鳥ふみひちょう』という魔道具なんだよ」

「へぇ、これが……」

「あたくしも初めて見ました」

「この箱自体が魔道具になっているんだよ」


 そう言ってリズレイリアさんは箱の蓋を開ける。そこにあったのは、金属のようにも見える小鳥の形をしたもの。


「この管の中に、手紙を詰めて使うんだよ」


 さらさらと紙に何やら書いてくれる。


「『ソウトメ殿が緊急事態とのこと。無理をしてでもこちらへ来て欲しいとのことです』。この内容でいいかな?」

「はい、お願いします」


 リズレイリアさんは、手紙を丸めると管に入れた。


「それでね、この胸元にある箱の蓋をあけて、この管を入れる。最後に、この鳥のような魔道具に、この小さな魔石を口から食べさせるようにすると」


 小鳥に似た魔道具の口に米粒大の赤い魔石を入れると、全体が光り始めた。


「あとはね、窓を開けて」


 支配人室の窓を開けると、手のひらにあった小鳥に似た魔道具は、あっというまに飛び立っていった。


「このように、対になった魔道具の元へ飛んでいくんだよ」

「へぇ……」

「誰が作ったのかはわからないけれど、プライヴィアの家に昔から伝わる魔道具らしくてね、ギルドの支部と本部を繋げるものになっているんだよ」

「なるほど」

「えぇ、驚きました」

「ただね、一度動かすのに、これくらいの小さな魔石が必要でね」


 リズレイリアさんの手のひらに乗るのは、さっきと同じくらいの、赤い小さな魔石。


「これがまた、安くはないんだよね。これで金貨一枚。いや、二枚くらいになるかね」

「高っ」

「ですね」

「けれどこれで、日が落ちるころにはあちらに届くのさ」


 夕日が落ちようとしてる今から、夜になるまでには届く。かなりの速度で飛んでいったということなんだね。それにしても、コスパが悪い魔道具なんだな。魔法はあっても電波のないこの世界。仕方のないことかもしれないけどね。


「今夜にでもプライヴィアが文を見てくれるだろうね。返事はおそらく、明日あたりになるだろうね。さて、宿はどうしよう? ソウトメ殿の要望がなければ、以前使っていたセテアスのところで構わないかな?」

「あ、はい。構いません」


 リズレイリアさんは立ち上がると、ドアまで歩き開けて声をかけた。


「エトエリーゼ。いいかい?」


 ぱたぱたと足音がする。あれ? 呼び捨てじゃなかった? そういえば、セテアスさんもそうだったような?


「は、はいっ。何ですか?」


 エトエリーゼさんが顔を出した。


「セテアスに伝えてくれるかな? ソウトメ殿とロザリエールさんをお願いするよ、とね」

「はいっ、おばさま」

「え?」

「あら」


 おばさま?


「あぁ、言い忘れてたようだね。セテアスとエトエリーゼこのこはね、私の姉の子なんだよ」

「あらま」


 なんとま、リズレイリアさんは、セテアスさんとエトエリーゼさんの伯母にあたるわけだ。エトエリーゼさんを呼んだときの違和感はこれだったわけか。


「あの宿はね、私の姉が経営しているんだよ。もうすぐ、甥のセテアスが継ぐことになっているんだけどね」

「そうだったんですね」


 リズレイリアさんはセテアスさんには似てる感じじゃないけど、エトエリーゼさんには少し似てるかな? ほんと狭いね、この世界は。


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