第214話 走竜牧場にて。
「兄さん」
「ん?」
「この子もあれ、してあげてくれる?」
「あ、そうだね。えっと『ディズ・リカバー』、『
『ぐぅっ』
「うんうん。ありがと兄さん。凄いよね。ダンジェヲンくんね、『茶走竜』って地の属性持ってるんだってさ」
「どうしてそれを?」
「あー、うん。あのね、ジャグさん。麻夜ね、この子たちの言葉なんとなくわかるんですよ」
「麻夜ちゃんは特殊な子なものですから」
「そうだったんですね。これは驚きです」
「そうだ。外へいく際は必ず彼を連れて歩いてください。おそらくですが、近寄ってくる敵をたたき落としてくれますから」
『ぐぅ』
「『余裕』だって」
俺はダイオラーデンで大立ち回りをしたセントレナの話をちょっとだけしてみた。
「なるほど。師匠のセントレナさんでもそうなんですね」
『くぅ』
「種は違っていてもこの子たちは竜なんです。まぁ、油断して誘拐された俺が言えた義理じゃありませんけどね」
「墓穴掘りまくりだよ兄さん」
「はい。ごめんなさい」
『くぅっ』
「セントレナもごめん」
「ところで麻夜様」
「はい?」
ダンジェヲンくんに抱きついてジャグさんを見てる。起用だな相変わらず。
「麻夜様に、走竜のパートナーはもしや?」
「そうなんです。いないんですよー。この国に来たら、お願いしようって思って、それでお母さんに無理いってこっちに来たわけですね、はい」
すごいぶっちゃけてるし。
「でしたら、お譲りするように頼んでみましょう」
「大丈夫なんですか?」
「えぇ。走竜の育成や管理は、育竜伯が任されていますので。問題ないかと」
「やったー」
大喜びの麻夜ちゃん。
あ、そういえば忘れてた。
『ネータさん、いる?』
『はい。おりますが』
『これから出るけど大丈夫?』
『はい。こっそり乗らせていただきますので』
『それならよかった』
『ご心配ありがとうございます』
俺と麻夜ちゃん、おそらく麻夜ちゃんの後ろにはネータさん。俺たち三人でセントレナに乗って、ジャグさんはダンジェヲンくんに乗って神殿を出た。
一度警備部へ行って、フェイルラウドさんと合流。そのまま走竜牧場へ向かうことになったんだ。
「それで、『あれ』は吐いた?」
俺がいう『あれ』はベルガイデのことね。
「なかなかどうして。しぶといとのことです。ただ、地下からときどき悲鳴が聞こえるので、私は確認いけません……。ジルビエッタの目が爛々としていて、それはもう怖くて怖くて」
「『あーっ』とか『うゎーっ』とか?」
「そんな感じ、です」
「まじですかー」
「まじですかー」
そこではたと思い出したんだ。
「あ、失敗した」
「どしたの兄さん」
「ほら、あの、タブレット型の魔道具」
「あ、あれね」
「そう。あれ、持ってきてもらえば、拷問に、いや、尋問に使えたのに」
「遅いってばさ……」
そんな話をしつつ公都外側を走ってたんだ。
牧場は公都の外れにあって、馬鹿でかい建物が見えてくる。到着後、中に入ると天井が高い。まるっと一階建て。四角いけどちょっとしたドームだね。なるほど、室内牧場と厩舎になってるわけだ。
まずは厩舎にある事務所みたいなところへ。そこで会ったのがジャグさんの義理のお兄さん。
「初めまして。お話は伺っております、タツマ様。私は育竜伯のゲンドライドと申します」
やっぱり見た目は若いな。それでも余裕で百歳超えてるんだろうね。ジャグさんの義理のお兄さんだし。
「初めまして、件のタツマと申します。ちょっと手を拝借」
「はい。申し訳ありません」
「知ってるんですね」
「はい。妹から聞いていました」
「師匠、うちの妻と義兄は仲が良いのでその、情報の共有が早いのです」
「なるほどね。『ディズ・リカバー』、『フル・リカバー』っと。これで飛べますよ」
「ありがとうございます。お手隙の際で構いません。この施設の者たちもお願いできたらと……」
「構いませんよ」
「助かります。これで走竜たちを追いかけることができますので」
あぁ、低くても飛ぶからね。小さい子だったら飛びまくるだろうし。逃げても捕まえられないからなー。
「義兄さん、それでですね――」
麻夜ちゃんのための説明をしてくれてる。あ、ジャグさんが痩せたことも突っ込まれてる。あとで説明しないとだな、これは。
「わかりました。お好きな走竜をお譲りいたしましょう」
「やたーっ」
麻夜ちゃん大喜び。俺は厩舎の人たちと、これから呼んでくると言ってたゲンドライドさんのご家族を治療する予定。
麻夜ちゃんはじっくり見たいからと、厩務員の人に案内してもらってる。その間に俺は牧場の隅に椅子を持ってきてもらい、治療にあたることになったんだ。
確かに室内とはいえ牧場だね。下は牧草に似た草が植えられてる。龍人族は野菜などの栽培を生業にしているから、こういうのにも長けてるんだろうね。
あ、小さな走竜が結構高いところ飛んでる。あれは捕まえるの大変だわ……。
ここの厩務員さんの治療が一通り終わったあと、到着したゲンドライドさんのご家族。皆さんジャグさんの姿を見て目をパチパチ。仕方ないよね別人だもの。
治療を終えると俺は、牧場で走り回ったり飛んだりしている小さな走竜たちを眺めていたんだ。
「おー、案外あっさりと捕まえるんですね」
「はい。飛ぶ方法は身体が覚えていますからね」
皆さん小さなころは飛んでいた。悪素毒の痛みで飛べなくなっただけ。
『ぐるぅ』
俺は聞き慣れない声に振り向いた。するとそこには、ちょっと小さめ。セントレナより一回り小ぶりな薄緑色の走竜。
「兄さん。麻夜ねこの子にしたのよ」
「なんと、あの気難しいウィルシヲンが主人を選ぶなんて。驚きました」
「そんなに気難しい子だったんですか?」
「そうですね。今まで誰も背中に乗せようとしなかったんです」
「それはなんともまぁ。麻夜ちゃんだと大丈夫だったんだ?」
「えっとね兄さん。走竜ちゃんだちのところへ行った途端ね、この子が走ってきて、麻夜に挨拶してくれたのよん」
「それは驚きました。厩務員も近づくのを嫌うのです。せいぜいブラシをしてほしいときくらいでしょうか?」
それって気難しいというより我が儘?
「ゲンドライドさん。麻夜、この子がいいんです。この子いいですか?」
「えぇ。構いませんよ。可愛がってあげてくださいね」
「やたっ。ウィルシヲンたん。今日から麻夜のだよ? いいね?」
『ぐるぅっ』
「兄さんこの子にあれ、お願い」
「はいはい。『ディズ・リカバー』、『リジェネレート』、『フル・リカバー』っと。これでいいね」
俺は一連の魔法をかけてあげる。これで悪素毒や歪みの矯正ができたと思う。
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