第220話 警備部での更なる打ち合わせ。

 いつものように午前中は神殿で悪素毒の治療。神殿に訪れる人数も増えてきたから、ジャグさんは麻夜ちゃんについてもらって彼女の悪素毒を散らしてもらってる。


 『デトキシ解毒呪文』と『ハイ・リカバー上級回復呪文』を重ねがけしてもらうことで、麻夜ちゃんの黒ずみも解消しつつ、ジャグさんの鍛錬にも繋がってるはずなんだ。


 俺は淡々と治療を続けて、途中神官さんたちの手続き待ちになったら、ふたりに『マナ・リカバー』をかけにいく。俺は前にいつの間にか手に入れてた『自然回復力増加』のスキルがね、それなりに上がっていてさ『マナ・リカバー』だけで十分で、マナ茶を飲まなくても運用できるわけ。


 だからごっそり在庫のあったマナ茶を、麻夜ちゃんとジャグさんにあげたんだ。ジャグさんは空間属性持ってないから、彼の私室にある冷蔵魔道具に入れてるってさ。魔素蜜まそみつを飲まなくてもいいなら太らないと喜んでたな。


 その反面、麻夜ちゃんが『薄めたら新しい飲み物できるんじゃ?』って魔素蜜に食いついたんだよね。ものは考えようだなって思ったよ。

 

「それでは私も後ほどまいります」


 ジャグさんに見送られて俺たちは警備部へ向かう。俺はセントレナに、麻夜ちゃんは愛しき彼女のパートナー。緑走竜りょくそうりゅうのウィルシヲンくんに乗って楽しそう。


「さぁいくよウィルシヲンたん」

『ぐるぅ』


 ウィルシヲンは軽く羽ばたくと、地面の雪をまき散らさずにあっという間に上昇。普通なら走竜は走っていくところだけど、彼は違う。直接高さ10メートルくらいの空を滑るように飛んでいくんだ。


「セントレナ、俺たちは慌てなくていいから」

『くぅ』


 彼女はゆっくりと歩いて向かってくれる。神殿部から警備部の建物まではそんなに遠くない。公都の町を楽しみながら進んでも余裕で到着するんだからさ。


「さすがにベルベさんは走って追いかけないでしょう?」

「いえ、あちらをごらんくださいまし」


 俺の背後からドルチュネータさんの声。彼女が指し示す屋根の上に、ベルベさんが走る姿があった。


「うわ、走ってるんだ」

ベルベリーグルあのこはですね、地に足の着かない場所がどうやら苦手なようです」

「あー、よく飛んでこっちに来てくれたね」

「それは、麻夜様の眷属故のことででございます」


 我慢も仕事のうちってか。


「あれ? ということはネータさんは?」

「はい。タツマ様の直属と仰せつかっております」

「ロザリエールさんの指揮下ではないということ?」

「はい。いわゆる免許皆伝とのことでした」

「どんな流派なんだか……」

「わたくしはその、料理が壊滅的だったものですから……」


 それって破門? いや、だから卒業ってことなのね。俺のガードとして。


「なるほどね。執事や侍女じゃなく、忍者やお庭番、いや、隠密みたいな感じなのね」

「はい。そうでございますね」


 隠密とかもこっちに伝わってるのか。


 警備部の建物に到着。セントレナとウィルシヲンは警備部の人が丁寧に面倒をみてくれるとのこと。こういうところは走竜が育つ国だけはあるよね。


 後ろからのっそり、その姿に反射して抱きいた麻夜ちゃん。


『ぐぅ』


 茶走竜のダンジェヲン。ジャグさんが到着したわけだね。


「ほーりゃほりゃ――」

「麻夜ちゃん、入れなくなるから」


 撫で回そうとしていた麻夜ちゃんをとりあえず止める。苦笑してるジャグさんを乗せて、ダンジェヲンが通り過ぎる。ほんと、虎人族、猫人族、猫好きな彼女に走竜がプラスされちゃったんだろうな。


「あ、そうだった」

「ウィルシヲンが拗ねたりしないの?」


 あまりアレシヲンを構うと、セントレナがそうだったからね。


「大丈夫。ウィルシヲンたんは別腹。部屋で飽きるまでモフっているのですはい」

「痩せるぞ」

「それは猫様じゃなかったっけ?」

「知ってるんかい」


 笑い混じりはここまで。ここ最近は警備部の会議室を使って打ち合わせをしてるんだ。会議が始まって開口一番。ジルビエッタさんが手を上げて発言。


「ベガルイデ、ついに吐きました」

『うわ』

「まじですかー」

「ジルビエッタさんジルビエッタさん」


 麻夜ちゃんが席を立って彼女の隣へ。


「もしかしてあの方法?」

「はい。効果はてきめんでございました」

「うーわ」


 麻昼ちゃんはそっち系が好きだって言ってたけど、麻夜ちゃんもそれなりなのかもだね。これは。


「もう、泣きながら、涙を流しながら許しを請う状態でして」

「それでそれで?」

「あー、お二人さん。ここはね、シチュエーション――いや、局面の共有じゃなくて業務報告の場なんですけど?」


 俺はそうだけど、ジャグさん、警備伯のアルビレートさん、フェイルラウドさんも、呆れた表情になってるんだ。


「あ」

「あ」

「「ごめんなさい」」


 ジルビエッタさんはその場に座り、麻夜ちゃんは俺の隣に戻って大人しく座ったよ。


「ジルビエッタさんの報告の前にと、これを見てもらったほうがわかりやすいと思います」


 俺は昨日四人で手書きした簡略図をテーブルの上に広げる。


「し、師匠、これはもしや?」

「そう。あの上の簡単な図面ですよ。俺たちが目で見てきたものを書き写しただけだから、この程度ですけどね」


 麻夜ちゃんが絵心あったものだから、案外綺麗に描かれていたりするんだけどね。岩山の外側をベルベさんが調べた情報描き入れてるから、アールヘイヴの地図にもなっているんだけどさ。


「これは素晴らしいです。このまま大公家に献上してもいいくらいかと……」


 アルビレートさんべた褒め。麻夜ちゃん照れ照れ状態。


「まずですね。あの国の名前ですが」

「はい」

「うん」

「実は国ではなく町の名前でレィディアワイズというそうです」

「国じゃないってことは、本国がどこかにあるってことですよね?」


 麻夜ちゃんドストレート。


「はい。おそらくは間違いありません。ですがあのベルガイデはなんと、あの場所で生まれたそうで本国を知らないとのことでした」

「なんと」

「まじかー」

「まじですかー」

「年齢は92歳。おおよそ200年前から発生した天人族の報告から考えるにですね、あり得ない話ではないと判断できるのです」


 おそらく貴族の二世か三世あたりとか、そういう感じなのか? どちらにしても、他からやってきてあの場所に住み着いたとか、迷惑な話だよ。


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