第219話 俺たちって何歳なんだ?
「おはよー、兄さん」
「うん。おはよう」
朝起きて、麻夜ちゃんが俺を起こしに来る。寒いから、俺のインベントリにある温かいお茶で暖まってるんだけどね。
「ところでさ兄さん」
「ん?」
「スマホの日付、もうそろそろ4月も終わろうとしてるんだけどさ」
「うん」
「こっち、真冬じゃない? エンズガルドもそうだったのよ。もちろん麻昼ちゃんたちが住んでるスイグレーフェンもね」
確かに、こっちに来てから半年以上経ってるはずなんだ。北に位置するこのアールヘイヴはわからなくも、……んー。
「あっちの一年よりも、長くない?」
「確かに、そうかも」
「もしかしたら、公転周期も違うのかもだよね」
「あーそうかもだわ。ちゃんと春夏秋冬あって」
「うんうん。もしかしたらこのスマホであっちの一年よりも長い?」
「かもだよ。あまりにも冬が長すぎる。スイグレーフェンより北がもし、『常冬』だったとしてもおかしいもんね」
「んむ」
でも更におかしいことがあるんだよ。
「魔族の皆さん、長寿じゃない? 例えばジャグさん。179歳なのよ」
「うっは。お母さんより年上。見えない見えない」
「でも冬の長さを考えるとね、あっちの一年と比べたらほら、三倍くらいになるんじゃないかなって?」
「うん。もしそうだとしたらさ、麻夜たちもっとお子様だよ?」
「そうなんだ。俺が思ってた年齢三分の一概念、話したことあるでしょう?」
「うん。ロザリエールさんとかお母さんと比べたら、兄さんは10歳くらい。麻夜はもっとお子様」
そうなんだ。けれどそれもおかしいってことになる。
「うん。もし、あっちの二年がこっちの一年くらいだったとしたらだよ? 俺はまだ10歳でしかないってことになるんだ」
「うん。麻夜は6歳だね」
「こっちの黒森人族のミーネレットちゃん覚えてるよね? 彼女、10歳になって魔法を覚えたじゃない?」
「……あ」
「見た目どうだった? まだお嬢ちゃんだったでしょ?」
「そうだね。でもあっちの時間に換算したら30歳?」
「そっそ。セテアスさんが人族で30歳。俺よりひとつ年下。でも、三年に一度しか歳をとらないなら」
「んー、あっちの概念なら90歳になってる?」
「そうなんだよ。こっちの人族の30歳は、あっちの三年がこっちの一年だとしたら、90歳になってるんだ」
「確かに、公転周期の違っていてもおかしくはないよね。ここって自転周期が違う惑星みたいだし」
「うん。そもそもだよ」
「うん。あ、ベルベさんとネータさんも聞いてるよね?」
「はい」
「聞いておりますよ」
「ロザリエールさんから説明受けてると思うけど、俺や麻夜ちゃん、麻昼ちゃんと朝也くんは、元々この世界の人間じゃないんだよね」
「はい。伺っております」
「御意」
そうなるとだよ?
「麻夜ちゃん、確か一年、932日って言ってたよね?」
「うん。あっちの換算でなのか、こっちがそうなのかわかんなくなってたけど」
「ベルベさんが52になったって聞いたけど、それってこっちの一年でしょ?」
「はい。私たちは932日で歳をひとつとりますが?」
「うわ、わけわかんなくなってきた」
「いあいあ兄さん。はっきりしてきたってば」
「そう?」
「大前提としてだよ?」
麻夜ちゃん、くっそ真面目な表情になってる。これってあれだよ。あのMMOで検証作業の結果を俺に教えてくれてるときと同じやつ。
「麻夜たちは本当に、こっちの人族に該当するのかどうか?」
「『個人情報表示謎システム』ではさ、一応人族になってない?」
目の前に投影してみるけど、一応種族欄は人族になってる……あれ?
「あれれ? 麻夜、おっかしいよ」
「うん。俺、魔族になってる。詳細は空欄だけど」
「うん。麻夜もおんなじ」
「タツマ様、麻夜様、わたくしから一言よろしいですか?」
「うん」
「どうぞどうぞ」
姿を現した俺の隠密メイドさんのドルチュネータさんことネータさん。今朝はメイド服なんだね。あ、侍女服か。猫耳侍女服でお姉さんてさ、ちょっとばかりあざとくないかい?
「人族と魔族の違いはですね、その種族がもつ魔素の総量だと言われていますが?」
「あ」
「あ」
俺と麻夜ちゃん。人族どころか、魔族の人より魔素の総量多いかもだよ。
「そういえば麻昼ちゃんも朝也くんも、魔素の底上げしてるって言ってたし」
「俺たちは上がりやすいのもあるから」
「うん。これってあれだよ」
「そだね。俺たちはこの世界で、人族の枠にはまらないってことだ」
「だねぃ。けど、麻夜の『あれ』でも、寿命まではわかんないから。予言じゃないし」
「だよねー。でも少なくとも、俺たちは長寿種の仲間入りをしてるかもしれないってことだよ」
「それはとってもファンタジーだよね?」
「うんうん。まさにその通り」
俺たちはちょっと嬉しい気持ちになったんだ。麻夜ちゃん、プライヴィア母さんみたいに腕組みして何やら考えてる。
「んむむむ。あのね、どるねーさん」
「はい。なんでございますか?」
「どるねーさんたち魔族ってね、何歳でその見た目になるのかな?」
「はい。おおよそ20年くらいで大人の姿になります。そのあと20年経過、40歳で成人となりますね」
「うわ、まじですかー」
「んむ、まじですかー」
「俺、まだお子様」
「麻夜だってお子ちゃま」
「あのセテアスさんは、人族だから概念が違うんだよ。成人してるはず」
「だよねい。お酒も飲んでるから」
「あの。飲酒は20歳から許可されていますが?」
「うわ、よけいわけわかんなくなってきた」
「まじで草生えるよ兄さん」
ということだとあれだわ。
「麻夜ちゃん」
「なんでしょ?」
「お酒飲めるようになるまできっと」
麻夜ちゃんは先日19になったばかり。魔族では20歳で飲酒が許される。そうなるとあれだわ。
「麻夜が思うにですねぇ、20歳までまだ600日近くもあるような気が……」
「残念だね」
「まじですかー」
こんな話をしながら今日も、朝ごはんを食べに行く。
「こんな感じでどうだい?」
先日お願いしていた『長麦』のリゾット。野菜だけじゃなく、脂身の多い肉が一緒に煮込んである。
「どうしてもな、うまくいかなくて、納得できなくてな。それでも肉も入れてみたらやっと、いい感じになったんだよな」
「いただきます」
「いただきます」
なんだろう。鳥雑炊ならぬ、肉雑炊。
「これはうまいですよ」
「うん。おいし、ですよ」
麻夜ちゃんも語彙力おかしくなってる。
パサパサした感じは減って、もちっと感が増えてる。肉のうまみも染みこんでいい感じ。
「おかわりお願いします」
「おかわりっ」
「お、嬉しいね。どんどん食べてくれ」
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