第218話 調査という名の偵察。その2
『1000メートル』
なかなか正確な数字だね、麻夜ちゃん。
『もう下もほとんど見えないかな』
と俺。
『頂上はみえません。まだまだありそうですね』
と、どるねーさんこと、ドルチュネータさん。麻夜ちゃん曰く、どる+姉さんだからどるねーさんなんだってさ。ベルベリーグルさんもべるさんって呼んでるから、その傾向のネーミングセンスなんだろうな。
『まじですかー』
『くぅっ』
『セントレナたんがね、「もう少し早く上がっていい?」って』
『うん。いいよ――うぉっ』
もうひとつ羽ばたくと、セントレナの上昇速度が上がった気がする。
『1400、1500メートル』
『タツマ様。今、抜けたようですね』
俺には今まで全く見えなかった。けれどあのひたすら歩いた七日目に、ワッターヒルズの明かりが見えたときの感覚が蘇ってくるんだ。たしかにこの先遠くに明かりが見えるから。
てかちょっと待って。この高さ、550メートルプラスすると、実質2000メートルは超えてるじゃないのさ?
『あ、ほんとだ。明かりが遠くに見える』
『うんうん』
『くぅっ』
これは凄い。切り立った崖っぽいんだけど、まるで高いビルの上みたいな感じに一瞬だけ見えたような気がする。ただ崖との切れ目が暗くてわからないから、遠くに町の明かりが見える。それだけなんだ。
『風向きから考えるとですね、あちら側が北だと思われます』
『うん。あの明かりが北側だねー』
『手前には森があって、その中に湖のようなものが見えます。ただ、木が高すぎて見辛いこともありましてそうとしか言えないのが残念なところです』
『麻夜ちゃん、ここ実質何メートルあるの?』
『さっきまでが相対的な距離をね、引き算して言ってたのよん。えっと、あの頂上部分がね端数除いて2200メートルとちょっとかな?』
『まじですかー』
たしかあっちの世界で俺たちが住んでた国の道路。その一番高い場所にあったのがそれくらいだったような? 海外で野球場があるところも確かそれくらいの高地。でも息苦しさを感じることは、ないかな?
『麻夜ちゃんところで息苦しくない?』
『んー、それほどでもないよー』
『ならいいけど。苦しくなったら言うこと』
『あいあい。でもさ、これならベルベさんも登ってこられないね』
『だねー』
『はい。さすがにわたくしも心折れるかと……』
途中までは登れるってことか。凄いな。
『それならそうだね、……セントレナ、もう少し上がって。なるべく速く飛んで、あの明かりの上を通り過ぎてくれるかな?』
『そんなことして大丈夫かな?』
『うん。レーダーなんて持ってないはずだから。セントレナは漆黒の美人さんだし、通り過ぎるならだけなら視認されないでしょ』
『なっとくー』
『くぅっ』
『大胆な考え方でございますね』
『ありがとう。麻夜ちゃん』
『はいっ』
『俺が抱えてるから、スマホで写真撮ってくれる? この暖房魔道具があれば動くはず。社員旅行で南国にいったときの飛行機がね、これくらいのスピードだったから写真撮れるかなって思ったんだ』
『なるなる。任せてー』
セントレナが飛ぶ速度は音速を超えていない。それでも、かなりの速度になっているはず。離陸前のジェット旅客機くらいにはなってるかもしれない。そんな感じで明かりに近づいているんだよね。
『ここで上空どれくらい?』
『んっと、あの地面からは500メートル?』
『それならあれだ。着陸前の飛行機がね、ライトをつけてないのと同じ。見えると思う?』
『見えないと思うー。それにセントレナたん、黒だし』
『フラッシュ焚いちゃだめよ?』
『わかってますよん。麻夜のスマホね、暗視モードついてるのよん』
『うわ、あのレアなスマホかー』
『そっそ。初めて試すのよん』
『宝のもちぐされ?』
『兄さんに言われたくないかなー』
まったくです。通話とSNSとカメラでしか使っていないからね。何のためのウルトラハイエンドスマホ持ってるんだか。
地上ならかなりの速度で移動しているはずでも、空飛んでるとこんな感じなのかな? 麻夜ちゃんは少し身を乗り出しながら写真を取り始めた。いや、撮りまくってるよ。
『麻夜ちゃん、ストレージ大丈夫なの?』
『外部メモリ挿さってるから大丈夫なのです』
『どれくらいの?』
『128テラ』
『まじですかー』
去年の段階で、最大の容量じゃないのさ?
『それに外付けストレージも持ってるから待避も可能。動画も取り放題なのです』
『とんでもねー』
セントレナに縦横何度か往復してもらって、ばっちり写真を撮れてしまった。印字できないのはあれだけど、位置的な関係はネータさんに見てもらってるから大丈夫。あとで答え合わせをしたらいいと思うんだ。
▼
調査後は飛粋に戻って、今夜は晩ごはんを弁当形式にしてもらった。作ってもらったお弁当はななんと、根菜の炊き合わせ。それと獣肉のから揚げ。あとはなんと、うどんみたいな太い麺もの。それらがお膳の上に乗ってるんだ。
ベルベさんたちは、海魚の煮物にもちもち平麦の粥っぽいもの。たまたま煮物をみつけて連日買ってるとのこと。お気に入りらしいよ。
見てきたことを紙に落とし込みながら、夕食を一緒にとることになったんだ。
「いただきます」
『いただきます』
俺のあとに、麻夜ちゃん、ドルチュネータさん、ベルベさんが声を揃える。俺は昔爺ちゃんに教わった手を合わせる方法が染みついてる。それを皆が真似してくれてるんだ。
「うまっ。兄さんこれめっちゃうまいよ」
「から揚げもいいけど、俺はこの炊き合わせがいいな。煮崩れしないように角をとってるのがまた手間暇かけてくれてる感じが嬉しい」
「言われてみたらすごいよね。それにこのおうどんみたいなの。ほとんどおうどんだよ」
「うん。確かにこれはうどんだ。ちょっとぶつっ、ぶつっ、っと切れるのが玉に瑕だけどね」
「それは十割そばみたいでまた味があると思うのよ」
「またまた、細かいことを知ってるね」
「麺ものは好きなのよん。だから色々食べ歩いたんだよねー」
ベルベさんとネータさんをみると、美味しそうにお魚食べてる。
「オオマスも美味しいけれど、このお魚も負けていませんね。どこで仕入れているんでしょう?」
「今度聞いてきます。脂がのっていて、美味しいですからね。姉上」
「そうですね。よく見つけました、褒めてあげます」
「ありがとうございます」
丁寧な言葉使いだけど、隠れツンデレっぽいネータさん。麻夜ちゃんだけでなく、姉のネータさんにも丁寧にあたってくれるベルベさん。
「そうだよ。べるさん」
「はい。なんでございますか?」
「あのね。べるさんがおちたとこ覚えてるでしょう?」
「はい」
「べるさん落ちたとこがこの高さだとね、頂上はこれくらいあるのよん」
麻夜ちゃんは最初、テーブルに手を置いた後、そのまま上に上げてその高さで差を表現してるんだ。
「なんと、それでは足で登ることは不可能ですね……」
暗いから正確な数字はわからないけれど、あの頂上は長い方を北側としてみるなら、縦は10000メートル以上、横がその八割くらい。そのような比率で楕円形になってる。おまけにその高さはアールヘイヴの地面から軽く1500メートルを超えている。
頂上は真っ平らというわけではなく、南側に高い木に囲まれたカルデラのような湖があると考えられる。その先にかなり離れた場所。やや高めの場所にヤツらが国として占有した場所があるようだ。
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