第217話 調査という名の偵察。

 午前中は神殿で治療活動。午後は警備部で報告を聞くことになってる。

 天人族の捕虜、ベルガイデは相変わらず、小出しするようなレベルのゲロりっぷり。


「ジルビエッタさん」

「麻夜様、何でしょうか?」


 珍しく麻夜ちゃんが進言するっぽい。


「前にね、兄さんから聞いたんだけど」

「はい」

「目隠ししてますか?」

「いえ。視覚的に恐怖感があればとそのままにしていますが」

「それじゃ慣れちゃうんです。目隠しして攻めたらきっと、折れると思うんです。それこそ指でつつくだけでも」


 腹筋とパンチの関係性。うわ、えげつない。


 何やらジルビエッタさん。明後日の方向見上げて妄想してたのか、『でへっ』という感じの表情になってる。


「そ、そんな方法があったとは。べ、勉強になります」


 メモしてる。どんな勉強なんだよ。アルビレート警備伯さんとフェイルラウドさん、頭抱えてるし。


 陽が落ちてから、俺たちは偵察をすると提案した。


「うちのセントレナだとおそらくですが、余裕であいつらのいる高さ以上に飛べるんです」

『え?』


 警備伯さん、フェイルラウドさん、ジルビエッタも驚いてる。ウィルシヲンではまだ慣れていないから無理かもだけど、セントレナは何度か俺がヤバくなる高さまで飛んでるからね。


 昨日のうちにベルベリーグルさんとドルチュネータさんに聞いておいたんだ。そしたらさ、二人とも夜目が利くらしい。そりゃ猫人族だもんな。


 四人で飛ぶのはちょっと無理だから、どっちが得意かと聞いたらベルベさんは諸手を挙げて降参。ネータさんは一族でもすべての技量に優れているんだそうだ。


「それにうちには、夜目に優れた人がいます。ドルチュネータ」

「はい。ここに」


 やっと俺たち以外の人の前に姿を現した、猫人族の隠密。忍者ともいうけどね。見た目は侍女さんの姿だけど。ありゃ、片膝ついてる。それ違うから、侍女さんじゃなく忍者の姿勢だから。


『ネータさんそれ違う。その姿のときは侍女の振るまい』

『あ、申し訳ございません』


 小声でツッコミを入れたら、一度姿を消して、素知らぬ表情で俺たちの後ろにそっと立ってるネータさん。


「なるほどですね。我々よりも夜目の利く猫人族さんがいらしたということならば、安心かと思われます」


 とりあえず警備伯さんのオッケーが出たところで解散。


 ベルベさんには諜報活動を続けてもらう。過去に天人族が出現した場所などを調べてもらってるんだ。ヤツらの飛行ルートや、誰を何のためにさらったのかも割り出せそうだと思ったんだ。


 陽が落ちかけて、準備に入った。ベルベさんは二人分の夕食を買いに出かけた。美味しいものを選んで買わないとこんこんと怒られるらしい。


 こうして俺と並ぶと、ネータさんって案外背が高い。俺より少し低いくらい? 麻夜ちゃんより十センチくらい高いかな?


 セントレナの背中に、麻夜ちゃん、俺、ネータさんの順で乗ることになった。実際乗ったときやや困りごとが。


 麻夜ちゃんってば、ロザリエールさんと同じ香油使ってんのよ。おまけに後ろからネータさんってば、違うけど良い香りが漂ってくる。大丈夫だ、飛んだら風で気にならなくなる。俺は自分にそう言い聞かせる。


「天人族もさ、まさか自分たちより高高度を飛ぶ存在がいるなんて思わないでしょ?」

「だと思うのよねん。走竜の高度限界も知ってるはずだもん」

「そうだと思われます。現在の標高がどれだけかは、わたくしにはわかりかねますけどね」

「んっと、552メートル?」

「そういやチート持ちだった……」


 エンズガルドが海からそんなに高くない位置にあった。せいぜい50メートルくらい。それから比べたら、かなり高い位置にあるってことだ。


「ここより高いところにアレがあるってことでしょ?」

「だねぃ」

「ベルベリーグルが落ちたところはあのあたりだと言っておりました」


 ネータさんが指さしたところ。かなりオーバーハングしてる。あれって俺がよく落ちてたワッターヒルズあそこに似てる高さだよ。


「んっと23メートル? 化け物ですか? べるさん……」

「23メートルから落ちて即死しないとか。まぁ結果的に死んじゃったけど……」

「落ち方というのがありまして、それでも危険な高さであるのは間違いありませんね」


 それでも十分おかしい。さすがはエンズガルドの屋根を走ってるだけはあるわな。


「それじゃセントレナ頼むね」

『くぅっ』


 こういう偵察は、旧ダイオラーデンの王城のとき以来。ゆっくり上昇していく。音はほとんどない。


『100メートル突破』


 一応、俺たちは小声でやりとりしてる。万が一近くに天人族が飛んでたらまずいからさ。


 公都の明かりが小さくみえる。けれどまだ岩山の天辺は見えないんだ。


『寒くない? 大丈夫? 二人とも』

『大丈夫』

『はい。平気です』


 凍るくらいの気温のはず。それでも平気なのはきっと、俺が抱えてる魔道具のおかげ。これ、俺を中心にセントレナを包むくらい暖めてくれる。よくある魔道具なんだけど、こんな風にも使えるって公都で教わったんだよね。


 皆さん小さな魔道具持ってて、まるでそれは携帯カイロ。それの大きいバージョン。部屋を暖めるやつを急遽持ってきてるんだ。


『200メートル』

『まだ頂上見えないね』

『はい。そうでございますね』


 公都はまるで湖に移した星空。この岩山を取り巻くように発展した国だってわかる。足しても750メートル。あっちの世界じゃ山間部の駅でも一番たかくて1000メートル余裕で超えてる場所があるくらいだから。寒いだけでそれ以外は大丈夫。


『300メートル。んむー、明かりがないから見えにくいかも』

『まだ先は長いですね』

『くぅ』

『セントレナもそんな感じだわ』

『兄さん凄いね。「そうですね」ってセントレナたん言ってるのよん』

『まじですかー』


 まだまだ先は長そうだ。


『外何度くらい?』

『んっと、氷点下5度くらい』

『まじですかー。前に何かでみたけどさ』

『んむ』

『あっちで標高3000メートル超える駅があって、そこがマイナス十何度とかって』

『あー、麻夜も見たことがある』

『マイナスとはどれくらいの気温なのでしょう?』

『あのね、どるねーさん。プラスとマイナスの真ん中、0度あたりで水が凍るのが目処なんですね』

『そうなのですね。明確な気温は気にしないものですので』


 おおらかなのはきっと、魔族が長寿故なのかもって思っちゃうんだ。俺はね。


『500メートル』

『真っ暗で見えないんだよねー』

『下は見えるけどねー。まるでドーナッツ』

『ドーナッツとはなんでしょう?』

『えっとね、どるねーさん。丸くて、真ん中も丸い穴があいた、小麦を練って油で揚げた甘いお菓子なんですよ』

『それは美味しそう、ですね』


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