第221話 警備部での更なる打ち合わせ。その2

 ジルビエッタさんは天人族を200年前に『発生した』記録があると言ってる。アールヘイヴの人たちにとって、あいつらは害虫、または寄生虫みたいなものなのかもしれないな。


「続けます。レィディアワイズの町に住む天人族はおおよそ2000人」

「まじですか」

「師匠……」

「うん。これはきついかも」

「そんなになのかい? ジルビエッタくん」

「はい。偽証でなければ。あの町を治めているのは、大貴族家一つだけだそうです。レィディアワイズは町の名前であり、その貴族家の名でもあるそうです。ベルガイデはその寄子ということになりますね」


 2000人対5000人。数からいえばこちらのほうが多い。けれど全員が戦えるわけじゃないんだ。


「それで、争いごとになったとしたら、攻めてくるのはどれくらいになりそうなんだい?」

「はい。非正規を含めるとおおよそ500人はいるとのことです。そのすべてが、なんらかの魔法と弓術などを修めているらしいです」

「兄さん、これってヤバくない?」


 麻夜ちゃんと俺はこの意味を理解している。かなりヤバい。MMOで同じような討伐系のクエストがあったからだ。


「うん。アルビレートさん、こっちはどうなんですか?」

「そうですね。大公家直属の騎士、兵士、我々を入れても、200人は……」


 だろうね。ということは、こちらの戦力はほぼ近接戦闘。遠距離攻撃が可能なのは麻夜ちゃんくらい、それでも限度がある。もしかしたらベルベさんとネータさんが可能かもしれない。それでも500人を相手にするのは無謀としか思えないんだ。


 いくらこっちに走竜がいるからって、彼らの吐息攻撃ブレスが弓の射程に届くわけがない。


「ヤバいなこの状況、軽く詰んだかもだわ」

「兄さん、そういうものだよ。平和な国って」

「うん。エンズガルドだって、いいところ50人だったもんな」


 ウェアエルズの乱では、プライヴィア母さんと麻夜ちゃんでどうにかなった。でもあれは、ベルベさんたちが下調べをしたから、相手の戦力が把握できていたんだ。


「そっか。今回もあれだ」

「うん。べるさんいるよね?」

「ごめんね、ネータさん」

「はい、ここに」

「はい、タツマ様」


 俺たちの後ろに、ベルベリーグルさんとドルチュネータさんが現れた。俺たち以外のみんなはもちろん驚いてるよね。


「この二人は、俺たちの臣下で、優秀な諜報員でもあります。この国には彼らのような方は?」

「……師匠、申し訳ありません」

「タツマ様。申し訳ございません」


 諜報部のようなセクションがあったとして、ベルベさんたちのような術は見たことがない。そう言う意味での『いない』というものだったんだろう。


「うん。わかってた」

「ね、兄さん。それだけ平和だったんだよ」

「ネータさん」

「はい」

「できるかな?」

「はい。あの場所へ送っていただけるのであれば、ご期待に応えられると思っております」

「某も同じにございます」


 これで方向性は決まった。あ、忘れちゃいけない。


「ジルビエッタさん。ありがとう」

「そうだね。ジルビエッタさん、ありがとう」

「アルビレートさん、彼女がグローテシアムさんという人を使ったとはいえ、これは快挙だと思うんです。だから褒めてあげてください」

「そうですね。あの天人族を丸裸にしたんです。昇進させようと思います」

「ほ、本当ですか?」

「大公家と相談したあとになるけど、間違いないと思うよ。ありがとう、ジルビエッタくん」

「あ、ありがとうございます……」

「よくやったね。ジルビエッタ」

「はい、先輩。でもごめんなさい」

「何がだい?」

「出世したら、先輩の上司になっちゃうかもなので」

「……それはそのときに考えようか」

『あれって麻夜ちゃんの提案だったけどさ』

『だよん。けどどうせ最初にネタ提供したのは兄さんでしょ?』

『そうだけどさ。ほら、実際に頑張ったのはジルビエッタさんで、俺たちは待ってただけだから』

『確かにそだねん』


 俺たちは宿に戻って再調査の打ち合わせを始めた。その前に俺は、あの温厚なジャグさんが豹変するほどの、彼の身に起きたという悲劇を語って聞かせた。


「――だからもう被害者は出てるんだ。俺はあちら側へ報復するつもりはない。けどね、あの場所から天人族たちを排除する。これは必要なことだと思ってる」

「だね。ベルガイデをどうこうするくらいじゃ拭えないよ……」

「御意……」

「どこも同じなんですね……」


 俺が作った空気だけどこれは仕方がない。だから俺たちには、ヤツらをどうこうする権利はないんだ。だからこそ、知らなきゃ駄目なこともあるんだ。


「公女殿下を始めとした、誘拐された人が幽閉されているのかどうかの特定作業。これが一番の目的だと思ってほしい。その後、各自情報収集にあたってくれたら助かるよ」

「御意」

「お心のままに」

「けどね、万が一捕らえられたとしたら、何かしらの方法で俺たちに知らせること。のろしでもなんでもいい。そのときは俺と麻夜ちゃんは打って出る。もちろん、約束した時間で戻って来なくても行動に出る。俺たちはあなたたちが死を選ぶことは許さない。いいね?」

「肝に銘じます」

「嬉しくおもっています」


 二人は今晩侵入して、明日の晩戻ってくる予定。約束の場所に戻ってこなければ、俺たちはその場で破壊活動に出る。俺と麻夜ちゃん、セントレナとウィルシヲンがいたら、相手にかなりのダメージを与えられるはずなんだ。


 俺たちは陽が落ちる手前まで待つことにした。ジルビエッタさんがベルガイデから聞き出したことの中に『レィディアワイズの外側を巡回する任務を受けるものはいない』というのがあった。


 実際昨日も頂上付近には俺たち以外いなかったネータさんが教えてくれた。彼女がそう言い切ったのには理由がある。なぜなら彼女は猫人族だから、風に乗った匂いでどの程度離れた場所に何がいるかわかるのだという。ベルベさんもあのウェアエルズへ潜入したとき、調査に嗅覚を利用していたそうだ。少なくとも、鳥や獣なのか、それとも人に近い天人族かどうかの判断はできる。


 なぜならプライヴィア母さんやクメイリアーナさんが、俺の匂いをいつも感知していたというところから、二人ならそうなんだろうと思っているんだ。


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