第5部 走竜が先か龍人か?

第197話 公都に到着。

「長年の鬱積うっせきが溜まっているのはわかるけどね。これをどうにかしてさ、この国のお偉方に相談してからでもいいと思うんだよ。最悪、あなたたちがとっ捕まる可能性だってあるわけじゃないですか?」


 おそらくこのアールヘイヴ公国に、大人で飛べる人はこの二人だけ。


「……そうですね」

「それは怖いです」

「もちろん、バラしたら。文字通りバラバラ――」

「わかっていますっ」

「は、はいっ」


 後ろの荷馬車にいるベガルイデの羽を俺が魔法で粉砕したの、二人とも見てるからね。


「俺だって自分の身が大事ですからねー」


 最後に気絶させたとき、公都で大騒ぎにならないようにとりあえずベガルイデの上に布シートみたいなものをかけておいた。だから往来の人たちは大騒ぎになってないんだ。


 フェイルラウドさんもジルビエッタさんもそうだけど、龍人族の人たちは指先に悪素毒の黒ずみが溜まらない。だから手袋をすることもないみたいなんだ。その分、翼の根元に悪素毒が蓄積する。だからこんなに立派な翼を持っていても、空を飛ぶことができやしない。


「なんていうか魔族の人たちってどうしてこう、我慢が好きなんかねぇ……」

「いえ、我慢なんてしていませんよ」

「え?」


 ジルビエッタさんが振り向いて苦笑してる。


「毎朝毎晩、痛み止めの効果があるお茶を飲んでいますから。あれ、苦くてまずいんですよね」

「そうだったんだね」

「えぇ。ですがしばらくは飲まなくてもいいと思うと、少しだけ得した気分になれます」

「そういうものですかね。ジルビエッタは一人暮らしだからいいのでしょうけど、私は家族がいるから飲まないと駄目なんです」

「あ、そうでした」


 なるほどね。ジルビエッタさんは独身で、フェイルラウドさんは家庭を持ってると。あれ? 公都って彼の家から遠いんじゃない?


「そろそろ夜になるけれど、ご家族は大丈夫なんですか?」

「はい、ご心配おかけします。妻と息子に伝えてくれるよう、文を届けてもらう手はずになっていますので」


 なるほどなるほど。フェイルラウドさんはリア充だったと。……うん、爆発しなさいね。


 そういやこの公都。雪で真っ白だな。馬車の走る真ん中も雪が積もってる。屋根の上には一メートル以上積もってるのに、真ん中の道だけは除雪されてる。


 両側の道はかなり積もってたみたいだけど、それでも人の手で雪かきがされてるみたいだ。このあたりは、あっちの世界とあまり変わらないみたいだわ。


 色味の違いはあっても、赤系統の色の羽を持つ走竜が多いかも。


「走竜の羽って、赤が多いんですか?」

「そうですね。寒い地域なので赤走竜せきそうりゅうが多いのは間違いありません」

「赤走竜?」

「はい。赤い羽根を持つのは火の属性を持つ走竜ですので」

「なるほど、……あれ? そうなるとうちの黒と白の子は?」

「……本当にタツマ様は王族なのですね」

「へ?」

「走竜は一番多いのがこの子たち赤走竜。緑色の羽の緑走竜りょくそうりゅうや青い羽根の青走竜せいそうりゅう、漆黒の羽の黒走竜こくそうりゅうと純白の羽の白走竜はくそうりゅうなど、赤ではない色を持つ走竜はごく希に生まれると聞いていますので」

「へぇ、そんなにいるんですか」

「公家には青走竜と緑走竜などもいると聞いています。それぞれ違う属性を持っているので、羽の色も違っているわけですね」

「なるほど。そういうものなんだ」


 フェイルラウドさんから説明を受けてると、気がつけばガルフォレダくんが足を止めてた。


「ここが私たち警備部の本部になります」


 真っ白に雪をかぶった二階建て。雪深い地域にあっても不思議じゃない、雪下ろしのいらなそうな鋭角な屋根。北国にあるロッジがこんな感じなのかな?

 そういやピレット村もザイストの町も、こんな感じの建物が多かった。雪国特有なのかもしれないねきっと。


「あの一番高いところにあるのが、大公家のお城なんです。もっとも私たち末端のものにはお目にかかることはないんですけどね」


 ジルビエッタさんが指さす方角。岩山とは逆の位置にある、小高い丘の上に純白の城が見える。そりゃそうか。岩山の外側に国があるからって、それを背にするのはないってことだわ。


「ザイスト駐在のフェイルラウドです。開門お願いします」


 軋むような音をたてて大きな観音開きの大きな門が開く。これは鉄扉じゃなく木製扉なんだね。そりゃそうか。鉄扉だと気温が下がったら手が張り付いちゃうから駄目だわな。

 建物の敷地に入ると門が閉まっていく。ガルフォレダくんたちが伏せるとそこに人の気配があったんだ。


「お疲れさん」

「は、はいっ」

「はひっ」


 その声に反応したのか、フェイルラウドさんとジルビエッタさんはその場で直立不動。声の感じと見た感じ、四十代の男性かな? 魔族さんは歳わかんないからなー。


「いいからいいから。こちらの人族さんはどちらの方かな?」

「はいっ。警備伯殿。その、……エンズガルドから連れ去られてですね」


 警備部の伯爵さんだから警備伯。なるほど警備部で一番偉い人なのね。


「なんだって? いやすみませんでした。私はこの警備部の長を任されています、アルビレートというものです」

「ご丁寧にありがとうございます。俺は、んっと。いいや」

「なんでしょう?」

「いえ。隠しても仕方ないので。俺は、タツマ・ゼダンゾークといいまして」

「……はい? ゼダンゾークというとあの、エンズガルドの王族、いえ公爵閣下が確か……、その家名だったかと?」

「なんていうかすみませんね」


 アルビレートさんは改めて、踵を合わせてその場で直立不動。これがこの国の敬礼なのかもだね。


「大変失礼いたしました。私はアルビレート・ネルガテイクと申します。伯爵位を頂いて警備部の長としてこのアールヘイヴに尽くしているものでございます」

「ありゃー、やっぱり伯爵さんでしたか。いいですよ、非公式の訪問になってしまったんですから」


 フェイルラウドさんとジルビエッタさん。めっちゃ苦笑してるし。そりゃ警備伯さんだもの。あっちでいえば官僚クラスの偉いさんみたいなものでしょ? その感じで国を会社に例えた場合、管理職なら貴族になっちゃうわな。


「俺のことはさておきで構いません。それよりこの荷物の処遇をですね」


 ガルフォレダくんの背後、荷馬車の上に縛り付けられてあ、唸ってる。気づいたのかもだね。まぁ、猿ぐつわしてるし、手足縛ってるから暴れることはないだろうけどさ。


「荷物でございますか? フェイルラウドくん。これはなんだね?」

「あ、忘れていました」


 忘れてたんかい。


「ジルビエッタ」

「はい」


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