第196話 尋問、しましょう。その2
ベガルイデの目から生命感が消えていく。
「逃げられてしまいました」
「そう、ですね」
「甘いんだよ。逃がさねぇって言っただろうに?」
「あのまさかデスヨね?」
「それは、……も、もしや」
「ご名答かな? 『
小声で呪文を呟くと、時間が巻き戻るように、血が、傷が、血色まで戻っていく。
「うん、秘密ね。バラしたらどうなるかわかるよね?」
「は、はい。あれは恐ろしいどころの話ではありませんから」
「か、かしこまりました。絶対逆らえない魔王様タイプの人ですって……」
あーちみたち、聞こえてるからね。魔王はないでしょ、魔王は? てか魔王様っていたんだ?
最後に、開かれていた目に生命感が戻っていく。するとどうだろう? 俺とフェイルラウドさん、ジルビエッタさんが三人とも蘇生途中からベガルイデを観察していたからか、視線を感じたんだろうね。
「やほー、見えますか?」
「駄目ですよ、ジルビエッタ」
「……我はな――」
「もしかして『何故生きている?』、ですか? ぷぷぷ」
「だから駄目ですって……」
笑いそうになっているフェイルラウドさん。そりゃそうだ。シリアス展開なのに、こっちからネタバレしてるんだから。
「さて、先ほどの続きですが、
俺は質問を蒸し返したんだ。そうしないといつまで経っても二人がこいつで遊びそうだったからね。二人とも思い出したかのように、頷いてるし。忘れてたでしょ? まったくもう。
「……知らん」
今度は
「タツマ様」
「なんですか?」
ジルビエッタさんが俺を見てくる。
「『何をやっても、治せ』ますよね?」
あー、これは拷問のことを言ってるわけだ。
「あー、気が触れた状態が続くと元に戻るかどうかわかりませんよ? 試したことはありませんから」
そう言ってニヤッと笑って見せる。俺の耳元に『とりあえず気絶させてもらえますか?』というんだ。
「『レヴ・ミドル・リカバー』」
「――ぐふぅ」
うん。気絶したね。
「ありがとうございます。私は
「ジルビエッタ、それはなぜでしょう?」
彼女はニヤっと笑うと話し始めた。
「公都にはですね、大きくはないのですが歓楽街があります」
「はい」
「そこにはですね、『男娼』という者も少なからずいるわけで」
「え?」
「え?」
俺とフェイルラウドさんはハモった。
「このベガルイデは見た目が整っています。その上天人族です。それはもう、見事に攻められてくれるかと思うのです」
気絶してるベガルイデは、知らぬうちに自分の置かれた立場の変化に気づいていないんだろうな。これ、男として貴族として、終わるんじゃないのか?
「あくまでも提案です。とにかく、私たちではもう判断ができませんし、一度公都へ移送しましょう。ね、先輩?」
「そ、そうですね」
俺たちはまた荷車にベガルイデを積んで、公都へ行くことになったんだ。
荷車を引く走竜のガルフォレダくんには俺とフェイルラウドさん。エジェリナちゃんにはジルビエッタさんが乗って公都へ。ベガルイデは
いくら走竜に乗っているからといって、町の中から飛ぶわけにはいかない。簀巻きになったベガルイデを乗せた荷車は、よく目を覚まさないなと思うほどに揺れていた。それでも目を覚まさないのはある意味、ロザリエールさんの眠りの魔法に似たダメージともいえるんだろうね。
『個人情報表示謎システム』での時間は出るんだけど、日付が出ないのは相変わらず。今は午後三時。あと三時間くらいで公都に着くというわけだよね。
スマホを出したいところだけど、『ぺこん』が鳴りまくる可能性あるからどうしたもんかね。宿を借りたら確認することにしましょかね。麻夜ちゃんたちには悪いけどさ。今更慌てても仕方ないんだから。とにかくごめんなさいということで。
こうしてみると、所々で走竜がジャンプして滑空するのが見えるんだ。走竜を育ててるというのはなるほどなと思ったよ。そのほとんどが赤系の羽を持つ走竜ばかり。色味は違っても系統は同じっぽい。
▼
いやー揺れた揺れた、後ろの荷馬車が。俺たちはガルフォレダくんが気をつかってくれているからぜんぜんなんだけどね。
とかなんとかしてるうちに、日がとっぷり暮れてきたあたりで大きな町が見えてきたんだ。
「タツマ様」
「はい?」
「あれが公都です」
左手に見える切り立った岩山は変化がないけれど、確かにピレット村やザイストの町に比べると、かなり大きな町が見えてきたんだ。町に見えるのはきっと、岩山と比べてしまうからだと思うんだ。あれがとにかく巨大過ぎてね。
ただ面白いというか特徴的というか。ピレット村やザイストの町でもそうだったけど、町や村を繋げる街道って概念がないんだよ。まぁそもそも、走竜がいたならあまり関係ないのかもしれないよね。
実際、走竜のガルフォレダくんもエジェリナさんもさ、ここに来るまで少し足を着く程度であとは滑空してたもんな。後ろの荷物は跳ねまくってたけどね。唸るのが聞こえる度に気絶させる必要があったけどさ。
それでも2回くらいだったかな? 大人しく気絶してくれたと思うよ。この揺れと衝撃でね。
あぁ、これは面白い。公都が近くなるとさ、滑走路みたいに道が見え始めたんだ。そういや城下町っていうのかな? その方向で走竜が跳ねてるのは見えないんだよ。
ガルフォレダくんたちが着陸。小走り状態になった。後ろはガタガタゴトゴト。まだ目を覚まさない。
「お疲れ様でした」
「いえいえ、走竜は頭がいいから、快適でしたよ」
「そうなんです。
そうジルビエッタさんも言うんだ。
「結構な数、いや、人数、んー、竜数とでも言えばいいかな? それなり以上も走竜がいるんですね」
「はい。竜車を引いている走竜もいますから」
あぁそうだ。馬車と同じ客車を走竜が牽引してる。馬さんみたいに誇らしげにね。
「あ、そうだ。フェイルラウドさん」
「なんでしょう?」
「『飛べる』のは」
『飛べる』だけは小声で言うけどさ。
「あ、はい」
「内緒にね。大騒ぎになるだろうからさ」
「わかっています。ジルビエッタもいいですね?」
フェイルラウドさんは背中の翼を指さして忠告する。
「わかりました、先輩」
飛びたいのはわかるよ。俺だっておおっぴらに回復属性の魔法を使えない時期があったからさ。ん? ちょっと違うか?
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