第195話 尋問、しましょう。
「『リジェネレート』。よし、これで大丈夫かな?」
「何をされたんですか?」
「うん。悪素毒をね、治療してから、翼が動かない原因を少し調整した感じかな?」
「え?」
驚いてるな。うんうん。前置きなしでやったからね。
「ほら、飛べたときの記憶は覚えているでしょう?」
「はい。確かに」
「ほら、動かしてみなさい」
「こう、ですか? ……あ、本当に痛くないです」
ジルビエッタさんは俺がするように何かの呪文を口ずさんだ。すると大きくゆっくり翼を動かしたら、フェイルラウドさんみたいにゆったりとホバリングするみたいに天井近くまで浮かび上がったんだ。
「……嘘ですよね? 私、飛べていますよね?」
アールヘイヴの人たちにとって、飛ぶことはきっと一度は諦めたことなんだ。だからこれだけ驚いてる。喜んでいる。涙を流すくらいに。
しばらく浮き続けて満足したのか、地面に降りるジルビエッタさん。何かを思い出したかのような表情をするんだ。もしかして?
「忘れていました。先輩」
「どうした?」
「尋問、しましょう」
「なんと」
「そっちですか」
俺たちは再度、地下にある牢屋へ戻ってきた。そこには目を覚ましたベガルイデが転がっていた。音がしたからか、こっちを見ようとしてるけど、目隠ししてるんだよね。見えるわけがない。
何やらうーうー唸ってる。そりゃそうだよ。放置されたまま時間も経ってるからね。
「あ、転がしたままでしたね」
「はい。すっかり忘れていました」
「いいですよ。それで先輩」
「なにかな?」
「どこまでやっていいですか?」
「うわ」
「うわ」
俺もフェイルラウドさんも若干引いてる。だって、ジルビエッタさんの目がマジなんだもの。
目隠しだけ自力か偶然か外れてるから、ベガルイデはこっちを見て睨んでる。
「まずはほら、あれを見てもらえますか?」
「あれ、あ」
「はい。黒いですね。あれはもしかして」
そう。俺がやった悪素毒なんだよね。
「うん。その通り。特殊な魔法を使ってね、あいつにも味わってもらうつもりでやったんだ。だからね、まずはお湯で温まってもらうのがいいかな? って」
「それはいい考えです。寒いので存分に温まってもらいましょう」
「あれ結構辛いんですよ……」
なんでも指先には出ないけれど、足先には出てるらしく、お湯に浸かるのに覚悟がいるくらいなんだそうだ。なるほど、所違えば種族も違う。その種族によって悪素毒の症状もまた違ってくるってことなんだね。
ニコニコしたとてもいい笑顔で、タライのような桶に湯気が上がってる。熱湯ではないにしても、ちょっと熱めかもしれない。でもこの寒い時期は最高なんだろうけどね。悪素毒の黒ずみさえなければ。
「どれどれ、……うん。少々熱めですがいい湯加減ですね」
フェイルラウドさんは余裕の表情。両手をつけて気持ちよさそう。
「先輩が堪能してどうするんですか?」
「あ、そうでした。それでは、始めますか」
「はいっ」
ジルビエッタさんの元気な返事。ものすごーく楽しそう。彼女はベガルイデの前に桶を置いた。猿ぐつわだけ外したかと思うと、フェイルラウドさんは手を持って桶に、漬けたーっ。
「――あづっ! な、なんだこの熱さは? 痛い、いだだだだだだっ」
なるほどね。悪素毒とお湯の関係ってこうなるわけだ。いい勉強になるな。良い人は早く治してあげるべきだよ、うんうん。
「こいつは、私たちが買った飲み水の貯水池ににゴミを投げ入れたり」
うわ、せこい。けどかなり痛手だよ。
「若い女性を
「なんですかそれ?」
「そ、そんなことはしてい――ぐぁああああ」
何気にフェイルラウドさんがお湯の中でベガルイデの指をマッサージしてあげてる。あれってある意味拷問かもだわ。
「事実、こちらにいらっしゃるタツマ様を攫ってきたではないか?」
「…………」
あ、黙っちゃった。これ、かなりまずい状況なんじゃね? 誘拐かよ。
「あーそのなんですけど。俺はとりあえず置いといて、攫われた人たちはどうなってるんですかね? ベガルイデさん」
俺の声が聞こえただけで『ひっ』という悲鳴をあげてる。
「あれま。
俺はベガルイデの羽に両手を当てて箇所を特定。
「『レヴ・リジェネレート』、『ミドル・リカバー』。お、羽だけうまく消滅したわ」
痛みと出血が発生する前にささっと治療。
「おー、これは凄いですね」
「……こんなことができる魔法って初めてみました」
「フェイルラウドさん、手足と目隠し、外しちゃっていいですよ。もう逃げられないから」
「はい、かしこまりました」
ベルガイデは俺が言った『逃げられない』の意味がわからないだろうな。ささっと拘束を解いたわけよ。
「もう二度と、故郷へ帰れませんね。あんなに近くに見えるのに」
ジルビエッタさん、楽しそうに言うこと言うこと。なるほど、背中に違和感を感じたわけね。
「わ、私の羽が……」
背中を腰をぺたぺた触って愕然としてる。消滅させてすぐに治療したから血もほとんど出てない。うん、うまく制御できてるね。
「これが一番の拷問になるかなって思ったんです。やりすぎましたかね?」
「いえ、それだけのことを此奴らはしていますので」
「はい。まだ足りないくらいです。ほら、攫った人たちはどうなったの?」
四つん這いの状態で愕然としているベガルイデの耳に、ジルビエッタさんの質問は届いていないのかもしれない。それだけ天人族にとって羽は大事なんだろうね。
「こいつはこの町でも顔が割れています。逃げたとしても石を投げられるでしょうね。飛べませんから」
「攫われた若い女性は一人二人ではないと報告がありますからね……」
「……殺せ」
「はい?」
「え?」
「は?」
俺たちは耳を疑った。こいつ、こんなことを言うわけだ。
「このような辱めを受けたなら生きている価値はない。さぁ、殺すがいい」
「あのさぁ、ベガルイデさんよ」
「なんだ?」
まーだ高圧的なのね?
「その前にさ、さっさと質問に答えたら? 攫った人たちはどうなったの?」
「――ぐぶぁっ」
ベルガイデの口元から血が流れてくる。なるほどね、逃げようって算段か。
「あ……」
「なんという……」
「最低な……」
「なんだよ。舌噛んで逃げようとか。何勝ち誇った顔してるんだよ? 逃げ得なんてゆるされるわけないだろう? 『フル・リカバー』。な?」
欠損じゃないからこれで完治する。ほら、絶望感漂う表情になってきたよ。
「凄いですね」
「ここまでとは思いませんでした」
するとベガルイデは腰に手をやる。どこに隠し持っていたのか、ナイフを取り出すと自分の胸をひと突きし、続けてそれを抜くと
あっちでいうところの切腹みたいなものか? こいつはやっぱり貴族かなんかで、
「なんだよその嬉しそうな顔。ご立派でした、とでも言って欲しいのか?」
口元目元に嫌らしい笑みを浮かべてやがる。けどね、甘いんだわ。あのロザリアさんだって折れたんだぞ?
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