第89話 ワッターヒルズでの結果。
大・健・闘。やればできるもんですね。200人突破。その結果、受付のクメイさんが疲労で
ついでに、クメイさんにアシスタントというか助手というか、受付にひとり追加することになったんだって。採用されたのがまたびっくり。うちの家族で、ロザリエールさんの従姉妹にあたる、ニアヴァルマさん。もちろん俺より年上。
実は、昼にブリギッテさんが来たとき、プライヴィアさんと話をしたらしいんだ。そのとき、プライヴィアさんがすぐに務められる人がいないか確認したんだって。そしたらさっそく明日から来ることになったらしい。
基本的にはしばらくの間、ホールで治療する人を案内する仕事。俺がダイオラーデンに行ってる間に、受付の仕事は教えるんだってさ。
実は今日まで、クメイさんは受付をしたあと、ホールに出て案内してまた受付に戻ってたんだ。結果、ホールの中で待ってる人が増えちゃって密集状態。仕方ないからダイオラーデンでやってた方法を提案したんだ。あの椅子を5つ置くヤツね。
そしたらもっと、大変になって。昼に一度、夕方に一度、クメイさんが動けなくなりました。プライヴィアさんは、『どうした? 若いのにだらしないぞ』なんて笑ってたけど、あれ結構きついと思うんだ。案の定、クメイさんは音を上げてしまった。あのあとすぐに、ブリギッテさんと話をしたみたいだね。
いつもは、クメイさんが休む際は、事務方の人が3交代くらいで受付をしてたそうな。けれど明日からは、ひとり増えるから多少はクメイさんにも事務方にも負担は減ってくれるだろうね。
「クメイさんごめんね」
「いいえ、私が力不足でした。明日からは大丈夫だと思います」
「う、うん。とにかくお疲れ様」
「はい。お気をつけて」
俺はギルドを出ると、黒森人族の宿舎へ来ていた。2階のひとり部屋。その一番奥の部屋を、コーベックさんたちが仮の工房のような使い方をしてるんだ。
「お疲れ様。どんな感じ?」
「お館様、お疲れ様でございます」
「いからいいから、手は止めなくていいよ」
コーベックさんは、ガラス瓶を素材に、大きめの
俺は、昨日引いた簡易的な図面の一番上のところ、一番下のところを指さして、俺が知ってる簡単な原理を説明することにしたんだ。これはあっちでは、アウトドアなんかで使う飲料水用のタンクで、普通の人も無意識に使ってる一般的なものなんだ。『こっちを開けたら水が出る』みたいなね。
「これのさ、上が密閉されていたとしたらね、下を栓しなくても水は流れないんだ。上側に圧力を抜く口を作っておけば、解放された際に、水は流れていくはず」
俺は竹製に似た素材でできた、一番安い水筒の下部に穴を開けて、そこに水を入れて上を手で塞いで、説明をしてたんだ。
「なるほど、こんなに簡単な方法で可能になるわけですね」
「そそ。こっちの解毒するほうはさ、いつくらいにできそう?」
「明日の夕方には試作ができますよ」
「無理してない?」
「この程度でしたら、余裕でございます」
「そっか、あ、そうそう。これの話したらさ、プライヴィアさんが『期待してる』って」
「そうでございますか。頑張らねばなりませんね」
「無理しない無理しない。無理したって誰も褒めないよ」
「もちろんでございます。ただ、期待されるというのは嬉しいものですね」
「それはわかるような気がするよ。明日の夕方また寄るからさ」
「はい。明日にはいいところまでお見せできるかと」
「うん。お疲れ様」
「はい、ありがとうございます。お館様も、お気をつけて」
俺はすれ違ったブリギッテさんに挨拶をして、宿舎を出たんだ。
帰りがけに厩舎に寄る。働き者のオーヴィッタさんと挨拶を交わし、そのままセントレナの元へ、近寄っていくと何やら声が聞こえてくる。
「ここがいいんですか?」
『くぅ』
「ここもですか?」
『くぅ』
何をやってるのかと思えば、ロザリエールさんがセントレナの翼をブラッシングしてるんだよ。何やらおかしいやりとりが聞こえたと思ったんだ。まさかこっちの世界で『こ、ここがええのんか?』みたいなやりとりを聞けるとは思わなかったよ。
ロザリエールさんと出会って3度目のあのとき、エルフっぽい彼女は遠回しに『くっころ』も言ったんだっけ? それを思い出して、そんなこともあったなぁ、と思わず笑ってしまうところだった。
「お疲れ様ー」
「お、お疲れ様でございます。タツマ様」
『くぅっ』
俺はセントレナの首に抱きつくようにして、頭を撫でる。柵、超える必要なかったんだ。真ん中通れるように外れたのね……。
「よーし、いい子にしてたか?」
『くぅっ』
「ロザリエールさん」
「なんでしょうか?」
「プライヴィアさんが白状したよ。セントレナとアレシヲンは、人の言葉をしっかり理解してるってさ」
「やはりそうだったのですね」
『くぅ』
お、忘れてた。俺は隣の厩舎へ行き、柵を乗り越えてアレシヲンのもとへ。
「アレシオン、やったな? プライヴィアさん驚いたってさ」
『ぐぅ』
「あれ? ロザリエールさん、アレシヲンのブラシもかけてくれたんだ?」
「はい。手間ではありませんので」
「よかったな」
『ぐぅ』
厩舎の入り口、柵の上あたりに名前が刻まれてるんだけど。アレシヲンって、『オン』じゃなく『ヲン』なんだよな。まるで往年のアニメに出てきた宇宙船の名前みたいでかっこいい。っていうか?
「お前たちの名前って、プライヴィアさんが決めたのか?」
『ぐぅっ』
「そうなんだ? あの人、すげぇな……」
『ぐぅ?』
ナチュラルだったら凄いし、このネーミングがもし、あっちから来た俺たちみたいな先人さんだったとしたら、結構濃い人だったのかもしれないね。色々伝えてくれた人に、感謝だよ。
夕食を終えて、お茶を飲んで寛いでいる時間。ロザリエールさんも洗い物を終えて戻ってきて、いいタイミングだからスマホを起動。
これ、スマホ起動しなくても、『個人情報表示』謎システムでメッセージのやりとりができたら楽なんだけどね。って思いながら画面見てたら通知音が鳴るんだ。
『ぺこん』
『ひまー』
麻夜ちゃん……、『はいはい。報告あるから時間あるかい?』、送信、っと。
『ぽぽぽぽぽぽ』
さっそくかかってきました。
『あのねあのね』
「はいはい、こんばんは」
「こんばんは、麻夜さん」
『バッテリーね、入れて出したら、一瞬でチャージされるみたいなのよー』
「なんだそりゃ?」
スマホはインベントリに戻したら、一瞬で電源がチャージされるってことかい? またなんつ、謎システムなんだ?
『驚いたでしょ? 麻夜もびっくり、……それでタツマおじさん。どうしたの?』
あぁ、この子は年齢以上に大人なんだな。まっすっぐ折れずに、人より辛いはずなのにしっかり歩いてきた子なんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます