第37話 メイドさんってどういうこと?
「先ほどは申し訳ありませんでした。ロザリエールさん、でよろしかったでしょうか?」
「はい」
「その、ソウトメ様とはどのようなご関係でしょう?」
「あたくしはですね、ソウトメ様の
「そうだったんですね。こちらこそ、よろしくお願いします」
ていうか、いつの間に俺のメイドさんになったの? 執事も兼ねてるってどういうこと? なにそれロザリアさん聞いてないよ。嬉しいよ、そりゃ嬉しいけどさ。それよりなにより、メイドって職業? 役目? そんな言い方、こっちの世界でもあったの? こっちのメイドさんって、侍女的なあのメイドさんのことなのか? もしかして、俺みたいなあっちから来た誰かが伝えたとか?
いやいやいや、それよりなにより、なんだか二人とも怖い。こっち見てるクメイリアーナさんの目も、ロザリアさんの目もぜんぜん笑ってないんだよ。二人に挟まれた、この居心地の悪さは一体何?。まじで勘弁してほしいかも。そんな張り詰めた空気の中、やっと川沿いの集合場所へたどり着いたんだ。
「皆様、お待たせいたしました。私はギルドの職員で、クメイリアーナと申します。これよりご案内いたしますので、馬車のままどうぞこちらへ」
窓のようなところを開けて、手を振る俺。コーベックさん気づいてくれたけど、驚いた表情してたなぁ。
ワッターヒルズの中に入り、前にお世話になってた宿を通り過ぎる。貿易都市というだけあって、宿屋の数もかなり多い。もうすぐ壁沿いの道だな、と思ったあたりに馬車は止まった。
「こちらが、これから皆さんに住んでいただく建物でございます」
「おー。これは立派立派」
俺たちは馬車を降りた。見上げるくらいの高さはある建物。それなりに古くは感じるけど、しっかりした建物。三階建てで、一階は食堂だったのかな? 店舗のような造りになってる。
「荷下ろしが済みましたら、建物を出まして西側に行きますと、馬車の係留と馬の預かりをしている場所がございます。すべてギルドの所有でございますので、話は通ってございます。そのまま預けていただいてかまいません。では私は、ここで失礼いたします。ソウトメ様、明後日あたりにギルドでお会いしましょう」
「あ、はい。お疲れ様です」
そのまま馬車で帰ってしまったクメイリアーナさん。俺とロザリアさんは、一度二階へ上がってみた。
「おー、これは綺麗に掃除されてるもんだね。広くて圧迫感もない。これ、買ったらどれだけするんだか……」
「そうだな、ですね……」
「どれどれ、部屋は? おぉ、これも広い」
見た感じ、二人部屋かな? 俺が借りてた部屋くらいは余裕であるね。ベッドも二組置いてあって、テーブルも椅子もある。寝具も用意されてるし、もしかして俺が連れてくることを前提に用意されてたんじゃ? 宿の部屋なのに、窓がしっかりとついてる。元は安宿じゃなかったのがこれでもわかるね。
「これってさ」
「あぁ。昨日の今日で準備はできないと思う」
ぐるっと回ってみたら、同じような部屋が全部で十五室。一人部屋が五室の全部で二十室。各部屋に浴室はついてないけど、トイレはついてる。一階にさっき見た食堂と厨房。女性用と男性用にわかれた大きめの浴室。
「これで足りそう?」
「あぁ、十分すぎるくらいだ」
驚いてるからかな? ロザリアさん、言葉使いがさ、素の状態に戻ってるよ。きっと彼女自身、気づいていないかもね。
「じゃ、部屋割りはコーベックさんたちに任せようか?」
「そうだな」
「俺は買い物してくるけど、ロザリアさんどうする?」
「あぁ、あたい――あたくしも同行させていただきます」
「なんとまぁ」
やっと気づいたみたいで、言葉使い直そうとしてる。
「ケジメみたいなものだよ」
「ならいいんだけど、無理はしないでよ?」
「わかっている、……いや、います――おります?」
「なんていうか、慣れてないから、背中がむずむずするね」
飲食関係の市場がある区画へ歩いてきた。そういえばこうして、ロザリアさんと歩くのは初めてかもしれない。黒森人族の女性が珍しいのか、振り向く人もいるけど、俺もそれなりに顔が知れてるから、ジロジロ見る人はいないみたいだね。
「穀類と、野菜」
「野菜とは、何のこと、でしょうか?」
おぉ、流ちょうな話し方になってきたね。すごいな、なりきってる。
「あぁ、こっちでは言わないのか。んっと、……あのね、
「なるほど、野菜、でございますか」
「それで、穀類と野菜、あとは肉と、んー……、ロザリアさん」
「はい」
ロザリアさんは振り返ることなく、食材を目で追いながら俺の呼びかけに答えた。
「料理、得意だって言ってたよね?」
「えぇ、申しましたが」
このときだけ振り向いて、どや顔っぽい表情をするんだ。相当、得意だってことなんだろうね。
「それなら、選んでくれる? みんなに何が必要か? お金は別に気にしなくていいから。俺、使う機会がなくてさ、かなりため込んでるんだよ」
「あたくしが、決めてしまって、よろしいのですか?」
「うん。構いませんよー」
「かしこまり、ました。さて、そうですね……」
ロザリアさんは、楽しそうに買い物をしてる。30人もいるから、それなりの量になるんだけど。俺が使ってる空間魔法は、このワッターヒルズだとさほど珍しくはない魔法らしく、ロザリアさんが買ったそばからインベントリに突っ込んでも驚かれることはなかったね。
「あの、ご主人様」
「ご主人様って?」
「あんたのことだよ、……こほん。ソウトメ様のことですが何か?」
一瞬素に戻ってツッコミ入れてるよ、この人。
「それで、その。これ、買ってもいいですか?」
「いいよ」
ロザリアさんが指さしたのは、乾燥させた果物。いわゆるドライフルーツだね。乾燥して水分が抜けてしわしわになってる、柑橘類かなにかが薄切りにされて、砂糖の粒が表面にまぶされたものもあるみたい。実に美味そう。お酒にも合いそうだな。
「いいんですか?」
「二言はありません」
どやっ。
「すみません。これとこれと――」
「はいよ。お、聖人様じゃないですか?」
聖人様って、そういえばそう呼ぶ人も少なくはないんだよな。ま、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。でも。
「やめてくださいよ、その言い方……」
「いやね、まともに歩けやしなかった俺んとこと母ちゃんがな、聖人様のお世話になって、元気になってくれたんだよ……。だから言わせてくれ。ありがとう。そちらの女性は、聖人様の?」
「はい、メイドでございます」
「そうかいそうかい。聖人様にならいてもおかしくないだろうからね。美しい女性を雇ったもんだね。羨ましいよ。あ、母ちゃんに怒られるから、これ以上は勘弁な? そうだそうだ、聖人様にはいくら感謝してもしきれないんだ。だからさ、目一杯おまけするから、沢山買ってくださいよね」
買い物が終わった。かなりの金額になったけど、懐が寂しくなった感じはしないんだよね。インベントリに入っていたものは、適当に補充してる。今度は、ドライフルーツも追加してみたんだ。疲れたときには、甘味も必要だからね。
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