第118話 神殿にある大きなご神体。
神殿の裏手に回るとギルドと同様に扉が開いた。馬車ごと入ると同時に、背後から扉が閉まった音がする。裏手にも職員というか、おそらくは神官さんと巫女さんだと思う人たちがいるんだけど。ギルドと同じデザインで白を基調とした制服を着てるものだから、風情もなにもあったもんじゃないなと思っちゃうわけよ……。
「あの、ジェノさん」
「はい。到着しましたのですぐに扉を――」
「質問なんですけど」
「はい、なんでございましょう?」
「あの人たちって、どんな役職なんですか?」
「はい。神官職と巫女職でございますが」
「やっぱりぃ……」
これは、プライヴィアさんに苦情を申し立ててあげないと駄目だよね。悪くはないのよ? でもなんとなく、許せないのよ。俺の中のオタクさんがね、『あれじゃ一流ホテルのフロントさんだって』うるさいんだよ。
あ、しまった。また先にドア、開けられちゃった。むー、別にいいんだけどさ。俺、そんなに偉い人じゃないんだけどな。そう思いながら、とぼとぼタラップを降りる。
……ん? 神官職さん? 巫女職さん? どういうこっちゃ?
「あの、ジェノさん」
「はい。どうかされましたか?」
「あちらの女性って、巫女さんではないんですか?」
「はい。巫女ではなく巫女職でございまして、神殿に勤める4人巫女の補佐をする職員のことでございます」
「え? ってことは神官職さんも?」
「はい。そうでございます。この神殿には回復属性を持つ者は女性の巫女しかおりませんので、巫女の補佐は巫女職が行います。神官職の男性は直接的な補佐は行いませんが、神殿の業務を担当するものということになりますね」
なるほど。そういや、あと4人だっけ? 回復属性を持ってる人は。
「なるほどなるほど。これから向かうのはどこです?」
「はい。神殿の長を任せております――」
「あー、ご兄弟ですね?」
「おわかりになりましたか?」
そりゃ今までの流れからなんとなくね。
「なんとなくですけどね」
神官職さんも巫女職さんも、ジェノルイーラさんを知ってるんだね。会釈するんだけど、俺を見て一瞬遅れて会釈してくれるんだ。そりゃそうだ、人間がここへ、それも裏口から来るから『誰?』と思われても仕方ないか。
外側も寺院や神社というより、博物館や図書館みたいな感じだったから、内側もどっちかというと王城の造りに似てるんだ。観光目的で造られた感じがないから、地味な色合い。全体に白っぽい天壁、薄茶色の床。ところどろこに明かりの魔道具が置かれてるみたいだね。
お、やっと通路抜けそう。急に天井の高い、そだね3メートルくらいはあるか――うぉっ。なんっじゃこりゃ? 2メートル50くらいの高さはある、石膏像? いや、木像か? 見事なフォルムの女性のご本尊があるんだよ。
「これって?」
「はい。地母神、アイーラベリーナ様の像です」
「地母神って、神様がいるの?」
「私たちはそう信じております」
いやはやおっどろいた。
赤ちゃんの像はないけど、赤ちゃんを抱いてるような仕草をしてるんだ。抱き上げてる誰かを見て、微笑んでるような表情。もしかして、俺のUMPC持っていった女神様だったりしないよね? 考えすぎかもしれないけどさ。ただ間違いなく謎システムに関わってる誰か、としか思えないんだ。
ご本尊が祭られた場所を抜けて、また天井が低めな通路を進む。するとやっとある場所でジェノルイーラさんは足を止めたんだ。扉を軽くノック、すると。
「入りますよ」
またかい。いくら身内がいるからって、それはちょっとあれなんじゃないかい?
『どうぞ』
おや? 今度は返事があるなと思ったら扉が開けられた。女性の声だったね。あー、そっか。匂いだ。
巫女職さんと同じ、白を基調とした、それでも落ち着いた感じ。あ、ちょっとさっきの地母神像の服装そっくりな服を着てる。落ち着いた感じの女性に見えるんだけど。
「どうかされましたか? 姉様?」
「あなたはしっかりとお勤めを果たしているのですね? ジェフィリオーナ」
ジェフィリオーナさんと呼ばれたこの女性。ジャムさんとはまた違った雰囲気を持ってるね。
「えぇ、姉様は匂いでわかりますから。おや? そちらの人族男性はもしや、……お初にお目にかかります。私はこの神殿で神殿長を任されております、ザイルメーカ家の次女、ジェフィリオーナと申します。よろしければ、短くジェフィとお呼びください。以後、お見知りおきをお願いいたします」
「あ、はい。タツマと申します。よろしくです」
ジャムさんとはまた違った対応。
「なるほど、あなたがあの『ギルドの聖人様』なのですね」
「なぜそう思ったんです?」
「姉様より、女王陛下の体調が思わしくないと教えられていましたのと、プライヴィア閣下と女王陛下の匂いがしましたので、そう判断させていただきました。陛下をお救いくださいまして、ありがとうございました……」
そこまでわかるんだ。
「あーでも、なんでジャムさんは?」
「ジャムはですね、きっとお茶の香りにうつつを抜かしていたのかと思いますが」
それたぶん大当たり。
「いくら私たち獣人種でも、ひとつの匂いに集中していると、近寄ってくる匂いに鈍感になることもあるのですよ」
「そうなんですね」
「えぇ。特にジャムは……」
あー、駄目な子を見る目をしてる。
「あの、ジェフィさん。手をみせてもらえますか?」
「よろしいのです?」
「よろしいもなにも、それが俺の仕事ですから」
「すみません」
そっと差し出される両手の指には、ジャムさんより年上なはずだけど、進行が遅い黒ずみが見えるんだ。
「あれ? どういうこと?」
「あの、私は元々巫女だったものですから」
「巫女職、ではなく巫女さんだったんですか?」
「はい。幼少より毎日解毒を重ねてまいりました。もちろん、陛下も閣下にも、王家の皆様には可能な限り毎日解毒をかけさせていただいたのです。ですが……」
「レベルが上がらず、思った以上の成果を得られなかった、ですか? 『
「えぇ、長く研鑽してまいりましたが、思うように、……あれ? 何よ、これ?」
黒ずみが消えたの、気づいたんだね。そっか、この人は素がこんな感じなんだ。
「ジェフィ、その、……でてますよ」
「嘘? あ、その、申し訳ございませんっ。……ですがこれが、聖人様のお力なのですね」
「俺は回復属性魔法の使い手です。ただ、生まれつきか他の人より魔素の量が多いから、その分色々と。運もあるかもしれませんが、毎日ぶっ倒れるまで悪素毒の治療を重ねてきたので、それだけ早かったのかもしれないんです」
嘘は言ってない。俺だって、倒れそうになるまで頑張ったもんね。多少は異世界転移補正かかってるかもだけどさ。
「明日の午後からでいいんで、ここのどこかを借りて治療を始めたいんですけど」
「はい。ご用意させていただきます」
「それじゃ、忘れないうちに」
「はい?」
「あー……」
ジェノルイーラさんは気づいたみたいだね。ギルドでもそうだったし。
「ここにいる巫女さん、神官職さん、巫女職さん。全員に集まってもらえるように、お願いできますか?」
そのあとささっと治療を終えて、王城へ戻ることになったんだよね。
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