第74話 この世界初の航空写真。
早朝から馬車の出入りがあるのか。厩舎の出入り口は開放されてた。通路に入ると、あちらから馬車が出てくるところだった。なるほどね、あのように普通はこっちから出て行くものなんだ。
二人して端によけて、馬車をやり過ごす。そのまま進み、突き当たりの扉を開ける。
『くぅっ』
セントレナみたいな竜種も、嗅覚に優れているのか? 彼女は『あんたはやっぱりクメイさんかいな?』とツッコミ入れそうになるほど、よく似たことをするんだ。ほら、扉開けた瞬間、目の前にいるんだものね。
「はいはい、おはよう。ご飯は食べた?」
『くぅ』
『食べたけどあまり美味しくなかった』とでも言ってるような感じの力のない声。
「そうだな。あ、ロザリエールさん」
「はい?」
「これ、持ってて。それで真ん中から割るように縦に切ってくれる? 下は皮2~3枚分くらい残す感じで」
俺はパンをインベントリから取り出すと、ロザリエールさんに持たせる。彼女はスカートの裾を少し上げてナイフを取り出すと、さくっとパンを切ってくれた。しかしまぁ、どうやってナイフを忍ばせているんだか? もしかしたら彼女も、空間属性持ちだったりしてね。そんなわけないか。
「これでよろしいですか?」
「うん。そのままこう真ん中から開くようにしてくれる?」
「こう、ですか?」
「うん、これをこうして、縦に並べてっと」
俺は一昨日の串なし串焼きを、パンの間に挟むようにして置いた。
「よし、ロザリエールさん、それを大きな口開けて待ってる、セントレナにあげてくれる?」
「あらあら。はい、どうぞ。セントレナさん」
『くぅっ』
もしゃもしゃと咀嚼したあと、喉を鳴らして飲み込む。
「はい、次」
「はいっ」
俺はロザリエールさんと連携。あと4つ、全部で5つ。串焼き5本分の肉でホットドックのようなものを作って、セントレナに食べさせたんだ。
『……くぅ』
「満足した?」
『くぅっ』
「よし、そしたらちょっと乗せてくれるかな?」
『くぅ』
その場に伏せてくれて、先にロザリエールさんが横座りに乗って、次に俺が彼女を後ろから抱えるような感じに乗ると、セントレナはゆっくり立ち上がる。朝食の時間には、後ろに見える牧場への扉が開けられてるわけね。
例え何か外敵が来ても、セントレナならあっさりと追い払うなりするだろうからって、プライヴィアさんから聞いてる。だから俺は心配してないんだ。何せここは一応、ギルドの施設らしいからね。副業みたいなものらしいんだ。
だからプライヴィアさんしか使ってない、まるで指定席みたいな一番奥にある専用の厩舎に、大事なアレシヲンとセントレナを預けられる。ギルド直営じゃなければ、無理だと思うわけよ。
厩舎の裏側にある牧場は、湖に沿ってかなりの広さがあるんだ。そこをセントレナは軽い足取りで駆けていく。ロザリエールさんの髪の色にも似た翼を広げる。少し溜めをつくって、ひとつ跳ねる。そのあとふわりとした浮遊感。すぐに軽く羽ばたくと、あっという間に大空へ飛び立つことができている。
俺が見てる画面、『個人情報表示』の片隅には高度計は存在しない。麻夜ちゃんみたいな鑑定があったら、可能なんだろうけどね。欲しいわ、あのスキル。
『くぁ?』
「そうだね。もう少し上がってくれる?」
『くぁ』
2回3回と軽く羽ばたくだけで、少しまた高度が上がる。するとある瞬間、一気に高度が上がっていく。それはもう、何かに持ち上げられるような感覚。竜種のすごさを感じる場面って言えばいいかな?
だって今この場面で、周りに空飛んでる人は俺たち以外いないんだ。あとはプライヴィアさんがアレシヲンに乗ってないかぎり無理なことだからね。
「ロザリエールさん、どう? 参考になりそうかな?」
「はい。十分な高さだと思います。王城、その他の貴族家。城下町、湖と一望できますから」
「よし」
俺はインベントリからスマホを取り出した。バッテリーは100%。カメラを起動して、航空写真のようにカメラで切り取っていく。ウルトラハイエンドなスマホだけあって、解像度も半端ないはず?
どれくらいの画素数だっけ? 確かそう、カタログスペックにあったっけね。デジタル一眼レフカメラに迫るほどのスペックがあったはずなんだ。あれくらい立派なレンズは搭載してないけどね。
俺は指先でセントレナに方向を指示しつつ、撮影を続けた。ほぼ上空を一周するころには、ダイオラーデン全体の撮影は完了。バッテリーは95%。結構減ったね。
「こんな感じ。どうかな? こうするとね、細かいのが拡大されて表示されるから」
「おぉおおおお。これは凄い。あたいはこんなの見たことがないから、タツマのいた世界って凄いんだな……」
これもまた、ロザリエールさんの一面。自分が前の話し方をしてるなんれ、全く気づいていなさそう。
バッテリー残量が怖いから、スマホをインベントリへ。
「セントレナ。戻っていいよ」
『くぁっ』
ゆっくり旋回するように、高度を下げてくれる。まるで空を駆けているかのように、滑空するセントレナ。凄いね、とにかく、感動するね。うん。
厩舎に戻ったら下ろしてもらって、伏せてくれてるセントレナに『
「よし。そしたらまた明後日だね。夕方にはちょっと長距離を飛んでもらうからさ」
『くぅっ』
「セントレナさん。ありがとうございます」
『くぅ』
俺たちはセントレナと、再会の約束を交わして厩舎を出て行く。俺はこのままギルドへ。ロザリエールさんは、貴族たちが住む区画を詳しく調べてくれるんだって。
「じゃ、終わったらさ、大きめの紙を数枚、もらって帰るから。ギルドが終わったら直接厩舎に行ってるから、あっちで落ち合おうか」
「はい。かしこまりました。ではまた後ほど」
「うん。お願いね」
ロザリエールさんは俺に深々と一礼をすると、あっという間に姿を消した。あれ、どうやってんだろうね? まるで忍者だってばさ。
▼
新・記・録っ! 俺は拳を握ったまま、両腕を天井に着かんばかりに上げる。
「うぇぇ、しんどかったぁ」
ジュエリーヌさんの力の抜けそうな声。彼女やエトエリーゼさんの連携もうまくなった。だからなるべく、待ち時間が発生しなくなったんだ。
午前中に80人ほど、午後に120人ほど。これで200人突破だよ。大したもんだ。これならさ、2000人ほどいるこの城下の人たちが、10日くらいで治療を1周できちゃう。あとは、空いた時間を調査に使える。
治療の合間に俺自身へ『
「ソウトメ様、死にそうです」
「わ、私もです」
受付でぐったりしてる、ジュリエーヌさんとエトエリーゼさん。近寄って、カウンターの上に投げ出してる手に触れて『リカバー』をかけると、身体を起こして今日の残務処理へ動けるんだからやばいよね。まぁ、そうしないとギルド、閉められないから仕方ないんだろうけど。
「それじゃ、お先ですー」
「はい。お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたー」
俺はギルドの建物を出ると、セントレナの待つ厩舎へ。昨日寄らなかったから、寂しい思いをさせてなければいいけど。大人しくて良い子だからな。
助かった。厩舎はまだ出入り口が閉まってない。俺がいたら閉めることもないみたいだから、滑り込めて良かったかもだね。
奥の扉を開けると、やっぱりいた。
『くぅっ』
「はいはい。ごめんね、昼間は暇がなくてさ」
『くぅ』
「ご飯食べた?」
『くぅ』
夕方になる前に食べさせるって聞いたんだけど、あまり食べないんだってさ。こうして俺がご飯を食べさせるのも悪いんだろうけど。
「ちょっと待っててねー」
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