【ＷＥＢ版】勇者じゃなかった回復魔法使い ～暗殺者（アサシン）もドン引きの蘇生呪文活用法～

第２０８話 責め苦を与えようか？ それとも？

　よく見ると、天人族ということと『人攫いのベルガイデ』という二つ名を除けば、こいつは美青年ともいえる顔かたちをしている。あっちの国ではさぞいい思いをしてきたんだろうなと、ちょっとばかし腹が立ってくる。

　そんな風に思いながら、壁に背を持たれるように座らせるとさぁ準備はほぼ完了だ。あとはこれで終わり。

「『レヴ・リカバー』」

　びくんとベガルイデの身体が跳ねた。激痛で意識を取り戻したんだろう。

「よう。目が覚めたか？」

　おそらくこいつは、自分の身に何が起きたのかわかっていないようだね。俺の問いに頷いて反応してる。

「さて、改めて質問に答えてもらおうか？　お前が吐いた『この国の公女殿下を攫（さら）った』というのは本当のことか？」

　なかなか頷こうとしない。

「あれれ？　おっかしいな？　さっきはゲロったって聞いたんだけどな？」

「…………」

「そっかー。それなら、ゆるゆる垂れ流しになるまで掘られてみるか？　それともその羽みたいに股間にぶらさがるものを取り上げてやろうか？　ん？　俺ができることを知ってるだろう？」

「――ひっ！」

　ベガルイデはその場で丸くなるようにして悲鳴を上げた。トラウマだったんだろうなきっと。男性に襲われるってのは、うん。

「それともあれだ。おまえさんの自我が消失するまで、公都の人に殺されまくってみるか？　この国には恨みを抱いてる人が山のようにいるだろうからな？」

「うわっ……」

「そんなことまで……」

　ジルビエッタさんが想像しちゃったんだろうな。グローテシアムさんもドン引きしてるよ、きっと。それでもジャグさんだけは『さもありなん』という感じに頷いてるんだわ。

「そ」

「なんだ？　はっきり言えよ」

「其奴（そやつ）は、確かに我々の手にある。身の安全を、欲するならば、龍人族は天人族のため、農奴となり忠誠を誓え……」

　俺は斬りかかろうとしたジャグさんを止めた。『あとで好きなだけやらせてあげるから』と言い聞かせたんだ。

「で？　それはお前の言い分か？　それとも天人族としての言葉なのか？」

「わ、我々の彼の方のためである」

「ほほぅ。お前の国の、なんだな？　それはそれで言い分として聞いておいてやる」

　ジルビエッタさんに手招きして、俺は耳打ち。

『これ、おそらくマジですわ』

『やはりそうですか。先輩に伝えてきます……』

『すぐに戻ってきてください。残りも吐かせますから』

『はい』

　ジルビエッタさんは一度、フェイルラウドさんの所へ。俺とジャグさん、グローテシアムさんとベガルイデと対峙してると、彼女はややあって戻ってくる。

『警備伯さんは？』

『まだ戻っていません』

『そうですか。なら仕方ない。報告書書けますよね？』

『大丈夫です』

　俺はベガルイデに向き直った。

「さて、お前たちの言い分はわかった」

「いつ、私を解放してくれる？」

　自分が捕虜だと自覚してないのかな？　なんとも自分勝手なヤツだわ。

「それはそうだなー。全部話してくれたら考えることにしようか」

「全部、というと、どういうことだ？」

「全部だよ。公女殿下を始めとした、これまで攫われた人たちがどうなっているか？　それとお前の国の規模、基本戦力、その他諸々。この偉い女性士官様が質問してくれるそうだ」

「知らん」

「あっそ。じゃ、ちょっと眠ってもらうか。『レヴ・ミドル・リカバー』」

「――ぐっふっ」

　ころんと気絶。今のうちに準備。

「ジルビエッタさん。丈夫で長い棒、これくらいのありますか？」

「はい。鍛錬で使う木剣でよければ」

「それ、汚して捨てちゃってもいいやつ、もらえますか？」

「はい、大丈夫ですが……」

　一度またジルビエッタさんは上に行って、また戻ってきた。

「これ、どうするんですか？」

　ジルビエッタさんだけでなく、ジャグさんとグローテシアムさんも不思議そうに見てる。

「これをねこう、こいつを『Ｍ字開脚』という状態にして、……あ、『Ｍ』がわかんないか。とにかくこうして木剣で足を閉じられないようにこういう感じにぐるぐる布で縛って固定して、手首も一緒に足首のところで固定したらはい、できあがり」

「なんとも滑稽な格好ですね」

　ジャグさんが不思議そうに言うけど、ジルビエッタさんとグローテシアムさんを見ると、俺の言わんとすることを察してくれたみたいだ。

「なるほど、タツマ様はあれをしてもらおうと言うわけですね」

「そうですね。ちょっと待ってください。『レヴ・リカバー』」

　痛みで跳ねるようにして、ベガルイデは目を覚ましたんだ。すぐに自分が変な格好で転がされていることに気づいただろうね。

「では、グローテシアム先生、好きなように攻めちゃってください」

「おぉ、なるほど。これはそういうための格好なのですね」

「はい。ズボンなんてナイフで裂いてしまえば簡単でしょう？」

「待て、待ってくれ。何をしようというのだ？」

「何って『ナニ』をしてもらおうっていうんですけど？　なにだけに。うん。ゆるゆるのガバガバ、垂れ流し状態になるまで攻めてもらおうってやつですはい。きっと、新しい世界が開けますよ」

「これは素晴らしいですね。ぜひ新しい世界を見てみたいものです、……あ、報告書は作りますよ。もちろんです」

「嫌なら全部話せばいいんじゃないですか？　どっちにしても元の生活には戻れないんでしょうから」

　俺とジャグさんは一階へ戻ることにしたんだ。それにしてもジルビエッタさん、腐女子の素質持ってたのね……。

「あ」

「師匠、どうかされましたか？」

　階段の途中で思い出した。

「俺を攫ってきた理由、聞いてませんでした……」

「師匠……」

　戻ろうかどうするか悩むというところで下から『ぐあーっ』という声が聞こえてきた。

「うげ」

「これはもしや」

「断末魔かもですね……」

「恐ろしい……」

　事前なのか事後なのかはわからないけど、とにかくなむなむ。男の尊厳を取るか、それとも仲間を売ることを取るか。あいつの自由だからな。俺はもう知らない。

「タツマ様、下はどうなっているのですか？　何やら恐ろしい悲鳴が……」

　フェイルラウドさんが何かを悟って質問。俺もジャグさんもひとつ頷いてしまう。

「うん。あれはですね、新時代の拷問でしょうね、はい」

「ですよね」

「なんと、恐ろしい」

　彼も下に残っているのは、ベルガイデ、ジルビエッタさん、彼女が連れてきたあちら側の王子様グローテシアム先生だと知っているんだ。どんなことが行われているか、想像できてしまうから恐ろしい恐ろしい。

「あ、そうでした。警備伯殿がお戻りになられていますので、私室へお越しくださいとのことでした」