第141話 こういうときはギルドでしょ?
朝ご飯を食べて、神殿で治療を終えて、今日も頑張った200人。『
スマホ見ると『個人情報表示謎システム』の時間は午後4時。
「麻夜ちゃん、ギルド行ってみるけど、どうする?」
「いきまつ」
「んじゃいこっか」
「ジェノさん」
「はい、なんでしょうか?」
「帰りにギルドへ寄ってもらえますか?」
「はい、かしこまりました」
これでおっけ。神殿からギルドまではそれほどかからない。途中の馬車で。
「それでさ、麻夜ちゃんの聖属性魔法レベル、どうなったの?」
「ぐへへ。あがったのよん。兄さんの回復属性スキル上げ、本当だったんだねー」
麻夜ちゃんの聖属性魔法レベルも順調に上がって今は3へ。
「これをずっと続けたらカンストくらいするよわ。ま、とにかくおめでとう。それでそれで?」
「『
神殿からずっと、俺に見えないように両手を袖から出してないんだ。まるで隠してるかのようにね。
新しい魔法を使えるようになったらしい。両腕を真上に突き上げて、麻夜ちゃん的大喜び。ありゃりゃ、真っ黒じゃないか。まるで黒い手袋をしてるみたいに……。
「いやいや、その真っ黒な手を見たらわかるってば……。上がったのは嬉しいかもしれないけどさとりあえず指、いや、両手見せて」
「しょぼーん」
うぁ、手首どころか肘まで真っ黒。一日でこれかい。ホーリーライト系は諸刃の剣だわ……。魔素が人より桁外れに多いだけ、こんなになっちゃうんだろう。駄目でしょ、まったくもう。
「心配かけてごめんなさい……」
「いいよ。俺が許可したんだから。それにしても、ステには出てないけどなんらかの加護があるのかもだね。上がるのがめっちゃ早いし」
「だねぃ。麻夜も正直驚いてる。……ただね、レベル3から4の必要経験値がエグいのよ」
「まじか。まぁ、俺のときもそういう感じあったなー」
麻夜ちゃんの両手を見ながらふと思ったんだ。
「これさ、自分自身を解毒しても結局意味がないんだよね?」
「そうなんだよねー。聖属性魔法の聖化とかはさ、悪素毒を患者と接触した部分、麻夜ちゃんたちの場合は指先かな? そこから一度触媒として悪素毒を取り込んで、術者周囲にある毒認定されたものを彼女たちの身体の外側に展開される聖属性魔法で解毒してるのかな? って予想なんだけどさ、実にヤバい魔法だって改めて思うわ」
「麻夜も魔法の展開構築の仕組みはわかんないけど、ヤバいものだって認識はしてるのよ」
「うん」
「『ミドル・ホーリーリカバー』も『ミドル・ホーリーライト』もだけど、これ絶対自己犠牲魔法だと思っちゃったわけね」
「なるほどなぁ……」
「あそうだちょっと、『
確かその魔法、前に麻夜ちゃんが
「どしたの?」
「秘密のお話ー。あのね、レベル6にある最上位のディセーブルされた魔法リストにあるものがね」
「ちょっと待って、レベル6が最上位? あれ?」
「どしたの、お兄様?」
「ぞわっとするからやめて。いやさ、俺の最上位レベルの認識って60なんだよ? いや、おそらくまだ上があるとは思うんだけど、60から上がらなくてね……」
「え? 何それ?」
「んー、ダンナ母さんの話しぶりからだと、おそらくこっちの人も麻夜ちゃんと同じ認識っぽいんだよね。ってことは俺の表示は端数が小数点なのかな? よくわからないけど、俺のレベルの60がきっと、麻夜ちゃんたちの6に相当するんだろうね」
「んー、どうなんだろう? 麻夜も正直わかんないかも。あ、そうそう。あのね、レベル6にね『
「え? それもしかして」
「あるかもなのよねん。外側にいるかもなGMさんとのやりとり? いわゆるひとつの『GMコール』みたいなあれかもしれないわけ」
「まじか? よし、協力するからジャンジャンレベル上げしてくださいまし」
「あいあい。悪素毒、よろしくね?」
手を顔の前で合わせて『おねがい』とにっこりする麻夜ちゃん。
「しょ、しょうがないなー」
可愛いと思ってなんて、ないんだからね?
「でもやっぱり、聖属性魔法って巫女さん系のあれだったのね」
「んむ」
「でもそれ麻夜ちゃん、勇者じゃなく聖女様ジャマイカ?」
「んふふふ、……『黄昏の巫女姫』とか名乗ったらかっこいいよねー」
「中二病丸出しだねぇ」
「あはははは、……あ」
「ん?」
「あのさあのさ」
「どしたの?」
「例のさ、龍人族の巫女さんなんだけど」
「うん」
「麻夜や陛下と同じで聖属性魔法使いでさ、麻夜と同じレベル3かもしれなくない?」
「あー、なるほど」
「使ってないからまだ確証はないけど、『ミドル・ホーリーリカバー』も『ミドル・ホーリーライト』が怪しいのよね。中級聖癒と中級聖光なわけよ?」
「そか。どれだけ強力な浄化ができるか――あー」
「そっそ。浄化の魔法じゃなく、これが浄化なんじゃって思ったわけ」
レベルの低いマイラ陛下があんなになっちゃうくらい危険な魔法だから、魔素の量や瞬間的な放出量の違いなんかも、なるほど確かに怪しいわ。
「とにかく、明日試してみよう」
「わっかりやした親方っ」
外を見ると赤いレンガのモザイク柄をした建物が見えてくる。
「エア・ウォール解除っと」
あ、外のガタガタ音が聞こえてくる。本当にシャットアウトしてんのね。
「そろそろ到着いたします」
俺たちの付き人みたいなことをしてくれている、ジェノルイーラことジェノさんがこっち振り向いて教えてくれた。
「ギルド到着ってさ」
「あいあい」
敷地内に入って、馬車止まって、ドアが開いて、裏口からイン。細い通路を通って、支配人室のドアをノックするジェノさん。
「入りますよ」
「あ」
「あ」
同時に開けられたドアの向こうに、小さくなって座ってお茶飲んでる、大きなジャムさんがいたんだよね。
「うわ、でっか。もふもふなおっきいぬいぐるみさんだ」
「あははは。でしょ?」
「うん。でも
ジェフィリオーナことジェフィさんも、お茶飲んでたからね。こういうところはうん。
「うんうんそっくりだわ」
こっちを見て恨めしそうな表情で、ここの支配人ジャムリーベルことジャムさんが言うのよ。
「姉さん、またですかっ!」
悪びれもせずジェノさんが言うこと言うこと。
「ジャムといい、ジェフィといい。あなたたちは緊張感がなさすぎます。こうしていつタツマ様がいらっしゃると――」
「あー、はいはい。ごめんなさいね。俺、ジャムさんに話あるからさ?」
「その、も、申し訳ございません」
俺はジャムさんだけに見えるように、親指を立ててみせた。するとジャムさんも気づいてくれたみたいで、ちょこんと頷いてくれたんだよ。大変なはわかってるって。きっついもんね、このジェノお姉さんって……。
「ちょっと時間かかるかもしれないからさ、先に戻ってもらって――」
「いえ、終わるまで待たせていただきます」
「あ、はい。お願いします……」
ドアの向こう側に待ってるんだってさ、ジェノさん。
「ぷぷぷ」
「いつもこうなんですよ。困っちゃいますよね」
「いいの?」
「大丈夫です。防音効果は万全ですから。姉様には聞こえません」
魔道具みたいになってるんだってさ。さすがギルドの支配人室だね。
「ところで本日はどのようなご用件です?」
うーわ。麻夜ちゃんが背中から登って頭をモフってるのに、動じないで質問してくるジャムさん。
「大丈夫なの?」
「事情は伺っていますし、マヤ様ですし。別にこれくらいであれば、気になりませんから」
「大きいのは身体だけじゃないんだ」
「もふー。もふーっ」
「そういうことです。こうして前はよく、子供をあやしていたこともあるんですよ。あははは」
麻夜ちゃんを肩車状態にしながら、ささっと動くジャムさん。テーブルの上に広げてくれるのはこのあたりの地図だった。うわ、でっけぇ。
このエドナ湖ってさ。エンズガルドが4個以上も入りそうな大きさがあるよ。いわゆる『○○ドーム何個分』ってやつ。あっちがうっすらとしか見えないわけだ。
「あっちがウェアエルズだっけ?」
「そうですね」
「
「半分以上農地ですから」
「あー、そういうことなんだ」
「それでさ、こっちの人はあのオオマスを食べるわけでしょ?」
「そうですね。あれはほら、脂がのっていて美味しいですから」
「うんうん。あれはうまかった。ごはんがあればもっといいんだけどね」
「そなのよー。麻夜もお米、恋しいわー」
ここエンズガルドにも、スイグレーフェンにも、例の龍人族の国でも作ってないんだよ。
「コメ、ですか……。海を越えた遙か遠くにあると耳にしたことはあるんですが……」
「まじですかー」
「まじですかー」
あるんだ。希望を持てるって嬉しいかもだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます