第102話 水魔道具の開発実験。

ワッターヒルズここの水なら10分だね?」


 解毒をする漏斗ろうと状の魔道具のテストをしてる最中。ガラス製で直径50センチ、高さ20センチくらい。あの魔道具と同じくらいのサイズはあるんだ。これ、文飛鳥ふみひちょうに使う米粒サイズの魔石で、おおよそ1週間動くんだって。エコだねー。


「10分経ったよ。どう?」

「うん。『悪素』消えてるよ」

「よし。10分でいけるね。スイグレーフェンならもっと短くてもいいかも」

「あっち行ってテストしないと、あ」

「ん?」

「おじさんが水持ってきたらいいんじゃないの?」

「あ、そっか。次行ったら持ってくるね」


 こんな感じに浄水器型解毒魔道具の開発が進んでいたんだ。


 それから7日後、スイグレーフェンから戻ってきた俺とロザリエールさん。あっちで水を入れてきたタンクをインベントリから取り出す。


「いくよ、まずは1分」

「はいよー」


 ワッターヒルズと違って、あちらのほうが悪素の割合が低いはずという前提で、検証実験を始める。1分、2分、最大10分。そんな予定で続けていく。


「2分」

「まだあるねー」

「3分」

「あ、消えてるよー」

「なるほど。こっちの悪素含有量はあっちのおおよそ3倍強というところなんだな」


 こっちで10分、あっちの水で3分ならそれくらいの差がある。


「麻昼ちゃんがね、水属性魔法の練習で、毎日水作ってるって。水の聖女様って呼ばれてるって-」

「ほっほー。これは麻夜も負けていられませんねー」


 麻夜ちゃんは風属性魔法が得意。麻昼ちゃんは水が得意らしい。同じ双子でも違うものなんだな。


「朝也くんも頑張ってるみたいだよ。上位の冒険者さんについて回って、魔獣を倒してるってさ」

「へー。頑張ってるねー」


 こちらにいる魔獣と、あちらにいる魔獣では、大きさも強さも桁違い。以前ロザリエールさんが買い取りに持ってきた魔獣が、あれ、実は小さい方だって聞いたし。


 でも、こっちに比べて危険性は低いから、安心して送り出せる。何かあっても、俺が飛んでいけば、どうにでもなるからね。


 ▼


「コーベックにございます」

「ご主人様、麻夜さん」

「うん。できたのかな?」

「かもだね」


 部屋から出てきた俺と麻夜ちゃんは、1階に降りて居間へ。コーベックさんにお願いをしておおよそ1ヶ月。こっちではそういう概念がないから、30日なんだけどさ。


「お館様、麻夜様。完成いたしました」

「おー」

「おー」


 試作品よりもひとまわり小さくした浄水解毒魔道具。半分の大きさになったことで、魔道具の起動時間もこっちで5分、あっちで1分半ほど。一度に解毒できる水も10リットル強となってる。


 上に解毒する前の水を入れておいて、魔道具の中の水が半分以下になったら水が追加される仕組み。そうすることで、従来の半分くらいの時間で、再度解毒が完了する感じ。


「おじさん」

「うん」

「これってまんま、ウォーターサーバなんジャマイカ?」

「そうだね。俺が知ってるヤツを再現してもらったから。お湯と冷水は出ないけどね」


 ひとまわり小さくなったおかげで、魔石のコストも下がった。見える場所に魔石を設置することで、燃料切れもすぐにわかる親切設計。これをギルドが販売することで、新たな運営費となるわけだ。スイグレーフェンとワッターヒルズに供給が安定することとなれば、近いうちにプライヴィアさんの母国、エンズガルド王国へ持って行く予定になってる。


 すべては今日の、完成試験にかかってるってわけなんだよ。俺もロザリエールさんも、麻夜ちゃんも期待してたんだ。


 1リッターほど入る、ギルドの刻印が入ったガラスビン。これを魔道具の下にセット。


「これをセットして。このボタンをぽちっとな」

「おじさんそれ古いって」

「仕方ないでしょ? 古き良きアニメの有名な」

「なんだかなー」


 ビンに水が溜まったあと、魔道具内の水残量を自動で計測。減った分だけ水が補充される。その後に、魔道具が稼働。動いている間は、赤いLEDに似た発光体が光る仕様になってる。


 右側に魔石をセットすれば、ワッターヒルズ向けの長時間用。左側はスイグレーフェン向けの短時間用として稼働してくれる。


「おー」

「おー」

「麻夜ちゃん、どう?」

「うん。問題なっしんぐー」


 これを上水として、風呂に使うものは中水とカテゴライズ。一度煮沸させたものは、風呂などに使うのはそれほど害にならない。風呂の水をごくごく飲む人はいないだろうからね。


「このビンをね、ギルドで銅貨10枚にするんだよ」

「うん」

「水はビンと交換で、新しい水の入ったビンをもらえる。要は保証金みたいなものね。水はもちろんタダ」

「ほっほー」

「これでさ、身体に蓄積される悪素の量を極力減らすことができるんだ。あとは、定期的に治療をしてもらう。どうかな?」

「いいんじゃない?」

「十分かと思います」

「はい」


 いいでしょ? これなら問題はないはず。


「それじゃコーベックさん」

「はい」

「大量生産、お願いできる?」

「かしこまりました」


 インベントリに入れて、そのままギルドへ持って行く。俺たちの屋敷はさ、一番最後でいいんだよ。俺がなんとでもできるからね。


 ギルドへ到着。あらりゃ? クメイさんじゃなく、ニアヴァルマさんが開けてくれたよ。


「おはようございます、タツマ様」


 俺の名前、タツマ・ソウトメ・ゼダンゾークだから、ギルドではファーストネームで呼ばれるようになったんだ。


「おはよう。ニアヴァルマさん。あー、もう並んでたわけね」

「はい」


 ここはスイグレーフェンの2.5倍の人口だから、まだまだ治療が終わらないんだ。


「じゃ先に、総支配人室行ってるね」

「はい。準備を始めてますね」


 クメイさん見たら、苦笑しつつ会釈してくれた。俺は治療だけだから、大変だなーって思うよ。


「おはようございます」

「あぁ、タツマくん。おはよう」

「母さん、ついにできました」

「……母さんと呼んでくれるようになったんだねぇ」


 いや、泣かなくていいでしょ? 俺だって、照れがあるんだってばさ。とりあえず、インベントリから魔道具を出してと。


「これです。まだ試作品ですけど。ほぼ完璧に動きます」

「ほほぅ」

「悪素の解毒は、麻夜ちゃんが確認してくれました。これも問題はないです」

「それはそれは」


 あれこれ説明をして、ギルドでの運用方法などを提案していく。


「受付の裏手に数台設置して、順繰り順繰り回すんです。ビンを持参の場合は新しい水入りのビンと交換で」

「なるほどね。それで稼働時間は?」

「米粒魔石で7日とのことです」

「それは凄い」

「コーベックさん、頑張ってくれましたから」

「黒森人族の皆は、私たちの宝だね。あのとき受け入れていなければ、君と同じ宝を失うところだったよ」

「そんな大げさな」

「君は、君自身の価値を知らなすぎるんだよね」

「そういうもんですかね」


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