第137話 バグった何かを持たされた俺たち。

「でしょ?」


 プライヴィア母さんが俺の話を肯定してくれた。


「そうだね。ギルドはエンズガルドの公爵である私が作ったんだ。だからこの国の後ろ盾がある。いざとなったら『どの国が相手でも喧嘩をする覚悟があるんだ』って、リズレイリアにも言ったことがあるんだよ」

「ほらやっぱり。だから俺は力をつけようと思ったんだ。いずれ麻夜ちゃんたちの身に何かがあったら、ロザリエールさんと一緒にね、助けに行こうって約束したんだよ」

「えぇ。そうでございますね」


 背中からロザリエールさんの声が聞こえて、『なんでそこにいるのよ?』って危うく突っ込みそうになった。


「俺はおそらくだけど、『誰かの介入によってバグった何かを持たされてた』んだと思うよ」

「麻夜もそうだけど、これってさ」

「ん?」

「ゲーマー気質がなければ、気づかなかったんジャマイカ?」

「言えてる」

「だよねぃ」


 あのときの俺と違って、麻夜ちゃんはレベル的には育ってはいないけど、ダンナ母さんの話からかけ離れた成長してるのは間違いないと思うから。


「その『誰か』が何をさせたいのかはわからないけど、俺は『この力』を利用して、俺にできることをやるだけ」

「兄さんはやりすぎなんだけどねー」

「あ、はい。反省してます」


 みんなの目が刺さる前に、謝っておきましたよ。ロザリエールさんにこんこんとお説教されたくないからね。


 おや? 麻夜ちゃんがプライヴィアさんがよくやるように、腕組みして何か考え事をしてる。俺もプライヴィアさんそっくりの仕草だって言われるってことはさ、麻夜ちゃんも似てるってことなんかね?


「あれ? これってちょっとおかしくない?」

「何が?」

「あのね、兄さん。ネリーザさんがさ、光属性と聖属性を持つ麻夜たちを探して召喚したって説明してくれたじゃない?」

「うん」


 確かにそう言ってた。俺も聞いてたから覚えてる。


「あぁなるほど、そういうことなんだね」

「さっすがプライヴィアおば様」


 麻夜ちゃんはまだ『母さん』って呼ばないんだね。


「どういうこと?」


 プライヴィアさんは麻夜ちゃんの言う何かに気づいてるみたい。けど俺には何のことかわかんないんだよな?


「これはマヤくんの考えと合致しているか定かではないんだけどね。私が思うにだよ?」

「はい」

「マヤくんはあちらの世界にいるときすでにね、聖属性を持っていたということにならないかな?」

「……え?」

「そうそう。そうなんですよー」

「そうでないと、マヤくんたちを探すことなどできなかった。そうは思わないかな?」

「あ、なるほど……」


 ちょっと待て。ということは何か? 地球で麻夜ちゃんたちは、魔法を持ってたってことか?


「あのね兄さん」

「ん?」

「『持っていた』と『使えた』は違うと思うのよねー」

「あ、あぁそっか。俺、考えちゃったよ。『なんで発動しなかったんだ?』ってさ」

「うんわかるわかる。MMOネトゲどっぷりだったから、それにそっくりだからね。魔法も」

「うんうん」

「もちろん、やったよね。『現実で間違って発動しないかなー?』って」

「やったなー。もちろん出るわけなかったけどさ」

「ですよねー」


 特撮のヒーローや魔法少女の必殺技を真似するのは良い子の常識だからね。じゃなければ、変身ベルトやアイテム、魔法のステッキなんかの玩具が売れるわけないもんな。


「ところでさ麻夜ちゃん」

「はいな」

「麻夜ちゃんはさ、魔法ってどうやって発動させた?」

「んっとね、一番最初にネリーザさんから薄い本をもらったのよー」

「薄い本? 同人誌的な?」


 まぁこの世界に二次創作系同人誌があるわけじゃない。文字通り薄手の本だったんだろう。


「同人誌とか草生えるってば。似てるっちゃ似てるけどねー。中には魔法陣が書いてあってね、それに指を這わせると頭に浮かんだのよ。初級の初級、『ウォーターピュリティ』って呪文がね」


 あぁ、俺が魔道書で『パルス脈動式補助呪文』を覚えたときと同じ理屈か。きっと聖属性持ちしか読めない魔道書だったんだろう。

 『パルス』と『リザレクト《蘇生呪文》』はいまも定期的に動いてかかり続けてる。『ディスペル解呪』してないし、別にするほど魔素の量が切迫することもないからね。


「なるほどなるほど」

「兄さんはどうだったの?」


 俺かー。俺は確か。


「あのMMOネトゲのさ、回復魔法の初期スペル覚えてる?」

「うん。とってなかったけど知ってるよ。『リカバーヒール』でそ?」

「うんうん。微妙に違ってたけどさ、回復属性魔法のスペルリストっぽいのが出ててさ、そこに『リカバー回復呪文』があったわけよ」

「ほっほー」

「俺はほら、31だったジャマイカ? だからグレーアウトされてなかったわけよ。ついでにあの『三転スーパーヒーロー着地』したとき足首を痛めてたみたいでさ」

「あのお尻丸出し着地ねん」

「あのねぇ。……それで唱えてみたら痛みが引いたわけだ」

「そりゃチートだわ。バレたらほらあれだ」

「うん。あの前国王やろうなら間違いなく奴隷扱いだろうね。さっさと逃げ出して正解だったと思う」

「だねぃ」

「んっと、聖属性魔法以外はどしたの?」


 そういや前に麻夜ちゃん、風とか水は自力で鍛錬してたって言ったもんな。


「じつはですねー」

「んむ」

「聖属性魔法使ってる内にね、魔素が増えて」

「んむ」

「グレーアウトされてた魔法が使えるようになったのよ」

「あー、俺のレベルが上がったときみたいにかー。俺は最初から200あったから」

「魔素の量?」

「うん」

「やっぱしチートジャマイカ」

「たぶんそかも」

「でもさ、『個人情報表示』の謎システムに疑問を持たなければさ、気づくことは」

「うん、なかったと思うよー」

「やれやれ、私はとんでもない子たちを迎えたわけだね」


 プライヴィアさんが呆れてる。


「そう?」

「そう?」


 俺たちはそうは思わなかったんだけどね。


 ▼


 右へ左へとゆらゆら揺られて、神殿へゆくよー。公爵家の馬車でもそれなりに揺れるから、食後はちょっときついかもね。スマホなんて見てたら酔うかもしれんわさ。


「兄さん」

「ん?」

「これさ」

「んむ」


 麻夜ちゃんと馬車に揺られて神殿への道中。麻夜ちゃんが俺に寄ってきて、耳元で囁くんだ。


『セントレナたんに乗せられていけばいんジャマイカ?』

『あ』

『やっぱし忘れてたんジャマイカ?』

『いやでも、そんなことしたらジェノさんの立場ががが?』

『あー。ノリノリでお供してるってことね?』

『そっそ。ものっそ真面目な人なのよ』


 俺と麻夜ちゃんは今日も元気にお供をしてくれるジェノさんの背中を、生暖かく見守ることにしたんだ。


『そのうち兄さんの顔もさ、ここの皆さんに知れ渡るでそ?』

『たぶんね』

『したら歩けるようになるんジャマイカ?』

『早くそうなってほしいってばさ』

「あ、ほらあれがそう?」

「そっそ。ギルドの建物そっくりでしょ?」

「んむー」


 視界に入ってくるレンガ色だけど、モザイク柄じゃない博物館みたいな建物。


「やっととうちゃ――あれれ?」


 馬車が正面玄関じゃなく裏手に回ったから、麻夜ちゃんは肩透かしをくらったみたいになってる。

 裏口の門が開いて、馬車が入ったっぽい。ほどなく馬車が止まって、客車のドアを開けてくれた。


「お疲れ様でございます」

「別に疲れて――」

「しーっ」

「はいっ」


 麻夜ちゃん舌をぺろっと出してる。わかるよ。うん。俺も疲れてないし。


 外側はレンガ色だけど、中は白を基調とした配色。神殿だけあって、おごそかな感じになってるんだよね。


「うーわ。まるで高級ホテルの――」

「しーっ」

「はいっ」


 わかる。わかるってば。ここの神官職さん、巫女職さんはホテルマンみたいな制服着てるんだからさ。


「ではご案内いたします」

「はい。お願いします」

「します」


 俺と麻夜ちゃんは、ジェノさんの後ろをついて行く。途中、巫女職さんたちがすれ違うんだけど、立ち止まって会釈をしてくれるんだよね。それがこそばゆいというかなんというか。

 するとほら、天井が高いところに出てきた。相変わらずでかいなー。


「うぉっ」

「これがそうだよ」

「えぇ。地母神、アイーラベリーナ様の像でございます」

「地母神って神様がいるの?」

「はい。私たちはそう信じております」


 前に俺も、こんなやりとりしたっけ。


『どう? 見覚えある?』

『んー、荒すぎてわかんねっす』

『やっぱりね』

『でも、アイラGMじーえむが着てた服装に似てるっちゃ似てる。こんなアバターもあったような気が……。髪型はちょっとちまうかな?』

『謎は深まるばかりだね』

『んむ。ただ名前がまんまだからさー』


 アイーラベリーナとアイラベリナ。あからさまに似てるらしい。俺はアイラGMとしか覚えてないんだよね。正式名がアイラベリナって知らんかったから。


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