第138話 本格的に治療活動開始。
『おはようございます』
扉をそっと開けて、のぞき込むようにして中を確認する麻夜ちゃん。
「そんな、どこぞのアイドル寝起きじゃないんだから」
「お、知ってるのねん?」
「動画サイトで古いのを見てたからそれなりにねー」
「あれ、面白いよね。どう見てもやら――」
「おっとそれ以上は言ったら『誰か』が来てしまう」
「あははは」
あ、カップとソーサー持って、ぽかんとしてる神殿長さん。
「ジェフィリオーナ、あなたまで油断していたとは……」
「いや違うの、ほら、先日大変だったじゃない? だから今のうちに――」
ジャムさんそっくりなんだな、きっと。
「このジェフィリオーナは、私の妹でこちらの神殿長を任されています」
ジェノルイーラさんが説明してくれる。
「あ、麻夜です。よろしくお願いいたします」
びしっと、敬礼してるし。
「マヤさんと仰いますともしや?」
「あー、『マヤ・ソウトメ・ゼダンゾーク』です。って言えばよかったかな? 兄さん」
「なんで俺の名字が入ってるのよ?」
「だって兄さんの妹ジャマイカ?」
そういや麻夜ちゃんの名字、知らないんだよな。
「そりゃそうだけどさ。ま、いいか。ジェフィさん、彼女は妹でね、こっちにいるときは俺の手伝いで来てもらうことになったんだ。よろしくしてあげてね?」
「は、か」
「墓?」
「か、かしこまりましたっ!」
直立不動のあと、びしっと四十五度でお辞儀。どこの三つ星高級ホテルだってばさ?
あのあとまったり自己紹介をしなおして、段取りの打ち合わせをして。ここでの本格的な治療が始まったわけ。
前回は150人ほどだけど、症状の重い人は治療を終えているし、緊急性の高い人はいないみたい。それでも『我慢イクナイ』って麻夜ちゃんが突っ込むくらいに酷い人はいるよ? ほんと、我慢強い種族だよね。獣人さんってさ。
まったり100人ほど治療を終えて、ロザリエールさんに持たせてもらったお昼ご飯のサンドイッチをパクついてたとき。
「あのさ、兄さん」
「何かな?」
「症状の軽い人、麻夜に任せてみない?」
「あー、『聖化』って解毒の効果もあるんだっけか?」
「そっそ。ノックバックはあるんだけどね」
「どんな、……あ、そっか。悪素のノックバックか」
ノックバックというのは、攻撃を受けたりした際、その勢いを殺せずに後方へ吹き飛ぶ現象のことを言うんだ。いわゆる『MMO用語』だね。ここでは『悪素の入った水を綺麗にしたら、悪素を触ったから微量に吸収する』こと。
「なんでまた?」
「ん、レベル上げ?」
「あそっかー。空打ちより上がりやすいかもなあれね?」
「そっそ。でも、悪素をもらっちゃうから」
「んー、俺が見てるとき以外やらないって約束するなら、いいよ」
「やたっ」
俺はインベントリからマナ茶を取り出して麻夜ちゃんに渡す。
「ほい」
「ありがとん」
麻夜ちゃんはマナ茶を一気飲み。そのあと、『
「これで魔法打ち放題ってわけね?」
「多分ね、とりあえずやってごらんなさい」
「わっかりやした、親方」
「なんだかなぁ。じゃ、こうして手をみせてください」
「は、はいっ」
虎人族の若い男性。指先を揃えて手の甲を上にしてみせてもらう。
「ん、1センチってとこだね。これならいけるかな?」
「
「をい」
「ごめんなさい。ちょっとテンション上がっちゃって……」
「多分これくらいだとね、回復属性魔法の初期、『
「じゃ、お年は?」
「はいっ。54歳になりました」
「ほらね。俺より若く見えるのに年上だよ」
「ギガワロス」
「えっと、この子は俺の妹で、聖属性魔法の使い手です。安心して任せてください」
「あ、はい。お願いします」
麻夜ちゃんは男性の手をそっと下から持ち上げる。そりゃ黙ってたら美少女な麻夜ちゃんなんだ。虎人族の彼から見ても、可愛らしく映るんだろうね。
「どうです? 俺に似ないで可愛いでしょう?」
「は、はい。可愛らしいと思います」
「だーかーら。余計なこと言わないの兄さん」
「はい、ごめんなさいっ」
「……んっと『
ぽうっと淡く光る麻夜ちゃんと男性の両手。
『おっふ。経験値きたーっ』
小声で漏らす麻夜ちゃん。おそらく『個人情報表示』画面見ながら、ついでに鑑定してるんだろうな。ずるいね、経験値まで見えるんかい? チートジャマイカ……。
それでも、悪素の黒ずみは2ミリほど後退しただけ。一筋縄ではいかないってね。
「――『ホーリーライト』、『ホーリーライト』、『ホーリーライト』、もいっちょ『ホーリーライト』っと。これでどうかな? ……ん、悪素0%キターッ」
実際、5回の『聖光』でおおよそ1センチの悪素が解毒できたわけだ。
「最後にほら」
「うん。『
「はいっ、痛みはありません。ありがとうございます」
「よかったよかった」
ずらっと並ぶ虎人族と猫人族の皆さん。俺が予め症状を見にいって、俺の列と麻夜ちゃんの列に並び直してもらう。
「――『ホーリーライト』、『ホーリーライト』、もいっちょ」
麻夜ちゃん頑張ってるなー。俺も負けてられないね。
「『
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をしてくれて、巫女職のお姉さんがお帰りの案内。
「兄さん」
「ん?」
「魔素切れちった」
麻夜ちゃんったら、血の気引いた真っ青な顔して笑ってるんだもの。マジで魔素切れ起こしてるよ、これ。
「はいはい。『マナ・リカバー』」
「うぉ、きたきたきた。ありがっとん」
その場でマナ茶をごっきゅごっきゅ。助けたいって気持ちもあるし、麻夜ちゃんの言動は軽くてももの凄く真面目だ。けど実際は、スキル上げが楽しくて仕方ないんだろうな。
▼
「ふぅっ。今日はここまでにしよっか?」
200人超えた。普通に超えた。
『個人情報表示謎システム』の時間は夕方の5時前。俺は麻夜ちゃんのフォローもあったけど、思ったよりも混乱しなかったと思うよ。
何せ、麻夜ちゃんの魔法連打が凄かった。魔素切れをあっさり起こすほど連打するもんだから、最初のうちは大変だったみたいだけど。慣れてくると魔素の消費と回復相殺度合いがわかってきたみたいで、常に魔素切れを起こさない速度で連打するんだよ。
帰りの馬車で、めっちゃ喜んでた麻夜ちゃん。予想通りの答えが返ってきたんだ。
「兄さん兄さん。レベル1上がったのよん」
「まじですかー」
「うん。やっぱりあっちの水より上がりやすいねー」
「はい。指見せて」
「……あいすみませんっす」
指を揃えて俺の前へ。すると、やっぱりかー。5ミリほど黒ずみが出るんだよ。
俺ほどじゃないにしても、麻夜ちゃんは40人くらい治療したかな? 程度は違うだろうけど、軽く4~500回魔法を連打したんだ。そりゃこうなるだろうさ。
「『
「も、申しわけねっす」
「いあいあ。遊んでたわけじゃないんだから。でもさ」
「なんでましょ?」
「聖属性魔法って、自爆技だよね?」
「んー、そりは否定できませんねー。マイラヴィルナ陛下見ちゃうとね。兄さんがチートじゃなければ、麻夜も麻昼ちゃんもさ、そうなっちゃう可能性あったんだな、……って」
「助けにいくなんて、最初は考えなかったからさ。大事にされてるもんだと思ってたからさ。でもギルドで城下町の現状知って、リズレイリアさんに色々聞いてさ」
「いわゆる『駄目なパターンの勇者召喚』だったわけね」
「だってばさ……」
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