第205話 悪素毒回復とレベルアップ。
「ちょっと待った。それが魔素蜜って飲み物? すごく甘ったるい匂いがこっちにまで漂ってくるんだけど? それ飲んだらまた同じでは?」
ジャグさんが手に持った瓶。まるで蜂蜜かメープルシロップ。好きな人にはたまらないかもだけど、飲みまくったらまた太っちゃうでしょうに? 血糖上がってあちこちおかしくならなかったの、……あ、そか。ジャグさんって回復属性持ちだったわ。
「あ、そうですね。ですが……」
「んっと、『
ジャグさん本人にも、一瞬自分の身体が鈍く光ったのがわかったと思う。
「これがもしや?」
「うん。レベル4の魔素回復呪文だね」
「これがレベル4ですか……」
いかにも中二病っぽい仕草。身体の底から何かが湧き上がってくる、系のポーズをしてるし。
「警備部の方が到着しました。ジャグルート様、タツマ様のご準備はよろしいですか?」
職員さんが俺に声をかけてくる。俺とジャグさんが頷いた。
「はい。どうぞと伝えてください」
警備部の人が担架で運んできた人をベッドに寝かせる。神官さんがどこの人かを書き留める。そのあと俺とジャグさんが入れ替わる。
俺が『ディズ・リカバー』をかけて、続けてジャグさんが『ミドル・リカバー』。そのあと巫女さんに入れ替わって、足の指先に痛みがないことを確認してもらってから、物々交換の品を受け取った際に『秘密にする』ように言って聞かせてもらう。これが一連の流れになるわけね。
ジャグさんが何やら手のひらサイズの黒い石版みたいなものを持って見てる。どこかで見覚えがあるかと思ったら、冒険者ギルドで使っているあの石版型魔道具に似てるんだ。
「それってもしかして、魔素の残量がわかるとか?」
「はい。魔素の残量表示に特化した魔道具です。中級回復呪文を使ってもまもなく元に戻っていますね。魔素回復呪文は凄いと思います」
魔素残量を確認してたわけだ。これで減ったら魔素蜜がぶ飲みしてたわけね。そりゃ太るってばさ。
「ほー。そんなのがあるんだ。うちの人に見せたら喜ぶかも」
「そうなんですか?」
「うん。うちの家族に魔道具を作るのを仕事にしてる人がいるんですよ」
「ほー。それではあとで差し上げます。もう一枚持っていますので」
「いいんですか?」
「私もタツマ様、いえ、タツマ師匠から色々教わっていますので」
「師匠って、……様よりはいいけどさ。同じ回復属性持ちだし。んー、それならさ、師匠の言うことは、それが正しいことであるなら、弟子は絶対に断らない。いいですね?」
「何を今更です。地母神アイーラベリーナ様への信仰をやめなさいというものでない限り、師匠の命は絶対です」
効率の良いレベル上げの方法とか、俺や麻夜ちゃんには当たり前のことなんだけどな。こっちでは秘伝級の教えだったりするかもだわ。
「タツマ師匠、お願いします」
神官さんが聞き取り終わったみたい。
「はいはい。じゃ、続きいきますか」
「はい」
▼
正確には数えていないけど、100人ほど治療を終えたあたりだったかな?
「あ」
「どうしたんですか?」
「師匠、さ、さ、さ」
「さ?」
例の手のひら石版を覗き込んでるジャグさん。顔を持ち上げたと思うと、今にも泣きそうな表情になってるんだ。
「レベルが3になりました」
「おー、それはおめでとうございますですね」
「はい。ありがとうございます。私が知る限り、タツマ様を除いてですが」
「うん?」
「レベル3に届いたのは我が国では初めてでございまして」
「なんですと?」
「魔族領でも過去にいたという話を聞いたことはありますが、現在いるという噂も耳にしたことはありません」
「まじですかー」
長寿種族の魔族さんがこれなら、長寿じゃない人族じゃ3まで上がった人は皆無かもしれないわけだ。どうりで旧ダイオラーデンで、回復属性が使えないって言われて理由なのかもだわ。
「ところでジャグさん」
「はい、なんでしょうか?」
「レベル2に上がったのってどれくらい前です?」
「そうですね。……確か、90年程前かと」
「え? ちょ、今何歳なんですか?」
「はい。当年取って179歳になりました」
「まじですかー」
きました、魔族補正。どこからどうみても、30歳程度だってばさ。
まじめに治療していて上がりそうになってたってことでしょ? それで90年とかなら、人族だったら無理ゲーじゃないのさ?
「とにかく、残りの人たち治療しちゃいますか? 話はそれからってことにしましょ」
「はい」
▼
基本的に俺が『ディズ・リカバー』で治療したから、こうなるのはわかっていました、うん。日が暮れる前に300人超えてたってばさ。
皆さん、体力疲労回復の薬飲んで凌いでたんだよ。そんな薬があるってこのアールヘイヴって国は、薬学が進んでるってことなんだろうね。
この国全体で5000人くらいいるんだって。だからまだまだ明日もこれが続くみたい。それでも今日ほどの重症の人はもう少ないんじゃないかって話。明日からは腰を落ち着けてやっていけるかもだね。
俺とジャグさんが『飛粋』の旦那さんがつくる晩ご飯を食べていたときだったんだよ。
「――た、タツマ様お食事のところ申し訳ございません」
ジルビエッタとフェイルラウドさんが来たんだ。
「どうしたのですか? 落ち着きなさい」
さすがジャグさん、これでも伯爵閣下だし。
「どちら様ですか?」
「先輩、私もわかりません」
そりゃそうだ、服破けちゃったから神官さんと同じ支給の服着てるし。昨日までの姿じゃないんだから、わかるわけがないよね。
「あー、あのですね。この人はほら、神殿伯さんで」
「え?」
「え?」
「はい。そのジャグルートですよ」
「「えぇえええええっ?」」
俺が魔法で治した結果、こうなってしまった。元々彼は、魔素蜜を乱用して太っていたなどの説明をするとやっと納得してくれたわけだった。
「も、申し訳ございません」
「閣下だと思えませんでした。その、なかなかの美形だったんですね」
「褒めていただくなんて久しぶりです。私も手鏡を見せてもらうまで、自分の姿を忘れていましたからね」
「あ、伯爵閣下の変わりようですっかり忘れていました。先輩」
「あ、そうでした。タツマ様、ジャグルート閣下その、ですね」
何やらフェイルラウドさん、ジルビエッタさんの背中を押して前に出すんだ。
「さすがに私の口からは経緯の説明が難しいんです。ジルビエッタくん、お願いします」
「仕方のない先輩ですね。タツマ様」
「はい?」
ちょっとだけドヤ顔っぽいジルビエッタさん。
「昨日の方法を用いまして、ベルガイデを拷問し始めたのです」
「まじでやったの?」
「はい。美形で有名なあちら側の人が仕事を終えるまで待ちまして、夕方に説得したところ喜んで協力してくれるということになったのですね」
「師匠、彼女、ベルガイデと言いませんでしたか? あの『人攫いのベルガイデ』ですよね? どうやって捕らえたのですか?」
ジャグさんが驚いて詰め寄ってる。そりゃそうだ。
「あー、タツマ様がですね。あれをこれをこうして……」
フェイルラウドさんが当時の説明をジャグさんに。
「なるほど。師匠なら納得です」
「納得するんですか」
俺は思わずツッコミを入れてしまったわけだ。
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