第132話 2人で検証作業。
俺と麻夜ちゃん、彼女付の猫人
「ここだと邪魔になるから、俺の部屋でもいいかな?」
「いいの?」
ニヤリと笑う麻夜ちゃん。何考えてるんだか?
「大丈夫だよ。セントレナもいるし」
「え? なんでなんで?」
「一昨日の夜にね、俺の部屋のテラスにいてさ、部屋の中をじっと見てるんだ。マジびっくりしたんだよ」
「うん。そりは驚くと思う」
「でしょ? 窓のついた扉開けるとさ、何食わぬ顔で入ってきて、俺の寝室前のリビングで寝ちゃうんだ」
「なんとま。犬っぽい」
「うん。見た目は真っ黒なニワトリなんだけどね。まるでラブラドールみたいな感じだよ。一昨日も今日もね、ロザリエールさんの悲鳴で目が覚めたんだ。『なんでいるの?』って」
「うぷぷぷぷ」
ざっとテーブルの上を片付けて、俺たちは俺の部屋に向かった。
「セントレナが原因なのに、なぜか俺が怒られるんだよね」
「うん。理不尽かもだけど、ある意味仕方ないのかも」
「そう?」
「そりが女心というものなのだよ、兄さん」
「んー、リア充経験ないからよくわからんわ……」
「だみだこりゃ」
俺の部屋は3階の一番奥。それなりの距離ではあるけど、ダイオラーデンからワッターヒルズまで歩いたあの7日間に比べたら運動にもならない距離だからね。
『――おはようございます』
「どこぞの寝起き番組かよ」
『くぅ?』
「うわっ、びっくりした」
俺の部屋、扉を開けた前でセントレナが待ってた。それも、開けた麻夜ちゃんの目と鼻の先。うんあるある。セントレナはこれやるんだよね。
「おはようございます、セントレナさん。ここにいらしたのですね?」
「ん? どういうこと?」
「はい。アレシヲンさんとセントレナさんの食事は私が担当していました」
「あ、そうだったんだ。そういやセントレナ」
『くぅ?』
「朝ご飯食べた?」
「はい。お肉を5枚ほどぺろっと」
「ほんと?」
『くぅ?』
う、わっ。セントレナ、斜め左上。いわゆる『明後日の方向』を向いて誤魔化そうとしてるよ。いつの間に厩舎に降りて、……あれ?
「セントレナさんや」
『くぅ?』
「もしや、ここの扉、外から開けて出入りしてないかい?」
『くぅ?』
また俺から目を反らす。確信犯だな? てか、器用だな。
セントレナはひとつめのリビングで
「まずはこっちのヤツから始めよっか?」
「ほいほい」
厨房で借りてきた皿の上へ麻夜ちゃんに出してもらったのは、エンズガルドで売り買いされてるごく普通の食肉。見た感じ豚か猪のもも肉かな? そこに並んでる野菜の類は、カブそっくりの根菜とほうれん草そっくりの葉菜。
「みーちゃんに用意してもらったのですよ兄様」
「あのねぇ。ぞわっとするから冗談でもやめてってば。ありがとう。レナさん」
「いえっ、どういたしまして」
「それで、どう?」
「えっとね。肉が1%」
「へ?」
「野菜は両方とも2%ってところ?」
「なんじゃそりゃ?」
「でしょ。水以上に蓄積してるんよ」
「あー、そういうことか。例の真っ黒なビンあったじゃない?」
「うんうん」
「あれはね、ロザリエールさんの育った集落から、少し離れた場所のね、木の根からとれたんだ」
「うん、わかる気がする。木だけに」
「ぶふっ」
やっべ、お茶吹いた。
「やった」
「あのねぇ」
何気に俺やロザリエールさんに劣らないレベルの駄洒落を使いこなす麻夜ちゃん。
「たーだ、体内への吸収率から考えるとさ、水のほうが危ないと思うんだよ」
「確かにね。不必要な毒素は一緒にトイレだもんねー」
「わかっていらっしゃる」
肉や野菜を食べたからといって、蓄積された悪素をそのまま取り入れて体内に蓄積されることは少ないと思うんだ。ただ、水はあり得るだけに、最初に魔道具を用意できてよかったと思ってる。
「土と砂は?」
「あらかじめビンに詰めてある物を、こちらに用意しました」
「料理番組かよ?」
「お・や・く・そ・く」
黒土とその上の部分かな? 乾燥してるか湿っているかの違い?
「どう?」
「こっちは花壇から。こっちは道のはしっこからね」
「なるほど」
「土はコンマ1パー。砂は0じゃないくらいかな?」
「結局、水分かー」
「そだねー」
俺は聖銀製の杖をインベントリから取り出す。綺麗に拭って、肉にぴとっとつけて。
「『
肉に対して、解毒を行ってみた。
「んっと、……おー。0になったよ。安全なお・に・く」
「これさ」
「どしたの、兄さん?」
「解毒できたかどうかって、麻夜ちゃんしかわかんないのが難点だよね」
「あー、それはたしかに」
「ちなみに俺じゃ、寄生虫は駆除できまてん」
「そりゃそうだねー」
「うん。ユッケやたたきは作れないってこと。マヨネーズで大失敗してるからさ」
「うんうん。兄さんのおかげで、エビマヨ味のソースが食べられるんだから、感謝感激雨あられですわよ」
「あ、あのソース。タツマ様が考案されたのですか?」
「俺たちが住んでたところにあったものを、再現しただけなんだよね」
「尊い犠牲だったと、ロザリエールさんから……」
「やめて。魔法忘れてて、トイレで唸ったあの黒歴史」
「結局さ、兄さん」
「ん?」
「土に含まれる水分にね、悪素があるわけでしょ?」
「そだね」
「それを吸収して、野菜が育つ。雑草や野菜なんかと食べて肉が育つ」
「育つのは獣だけどね」
「結局、麻夜たちが食べる前には、ある程度蓄積」
「そうだね。その上、悪素が強くなると、草木は育つけど身をつけなくなる?」
「うん。中庭に草木はあったけど、あれは悪素を取り除いた水を与えたかそうでないか?」
「ややこしいね。確かに」
「食物連鎖の頂点にいる存在すら、駆逐するほどの悪素ってさ」
「うん」
「兄さんよく、戦おうと思ったね?」
「そこはほら、俺もゲーマーだから。王城から出たあとさ、落ちたときに痛めた足首、あっさり治っちゃったんだよね。そのとき回復属性魔法がマジモンだと思ったわけよ」
「うんうん。麻夜も思った思った」
「けどもしさ、酒場のメサージャさんで検証作業失敗してたら、やらなかったと思うけどね」
「うーわっ、改造手術? 人体実験? 人体錬成? マッドサイエンティストですよ、お兄様ったら」
「だーかーら、お兄様はゾワるからやめてってば」
「わかりやした、親方っ」
「ともかくさ、悪素毒被害は俺からしたら、俺だけが攻略の糸口をつかんだかもしれないグランドクエストみたいなものじゃない? そう考えたら、麻夜ちゃんでもやってたんじゃないかな?」
「グランドクエストかぁ、ムリゲだったとしてもたぶん、やってるかも」
「それであのさ、……麻夜ちゃん」
「なんでしょ?」
「麻夜ちゃんはさ、この世界に神様か女神様はいると思う?」
「うん。間違いないっしょ?」
「あー、」
「だよね。『個人情報表示謎システム』あるじゃない?」
「うんうん」
「そういや。レナさんは」
「んー?」
「はい、なんでございますか?」
「俺たちがこの世界の人間じゃないって」
「はい、存じ上げております」
「話してあるよー」
「そっか。ならいいね。そのシステムをさ、構築した人――いや、神様か女神様がいるんだと思ってる」
「うんうん。いかにもだもんねー」
「神殿にさ」
「はいな?」
「ものすごくリアルというか、即売会で売ったら5分で完売レベルな造詣のね、女神像が祭られてるんだよ。地母神のアイーラベリーナ様だって教えてもらったんだよ。多分、女神様を信仰してるん――」
「へ?」
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