第133話 情報のすりあわせ。
「どした? 俺なんか変なこと言った?」
「いやさ兄さん」
「なんだい、妹さん」
「年末年始に年越しのカウントダウンイベントやってるじゃまいか?」
麻夜ちゃんが言ってるイベントは、俺たちが遊んでたMMOの運営主導で行われてた公式イベントのこと。年末、年越し前にログインして、カウントダウン。『あけおめ』のあとに、お年玉の1つとしてイベントを組んでくれてたんだよ。
「うん」
「そこに進行役で来てる、
運営会社の進行役で、中の人がいるゲームキャラクターがGM。ゲームマスターとも言うんだけどね。確か、5人だったか、6人だったか。それくらいいたんだっけ?
「……うん」
「その1人に、アイラベリナさんって、いなかった?」
「むえ?」
やべ、変な声でたよ。いたか? いたっけか?
そもそも、カウントダウンイベント自体、1000人近い参加者がいたよね。そのあとのレイドにも、そのままなだれ込むのが通例だった。全員が参加というより、半数はギャラリーなんだけどさ。参加賞ももらえたからね。
「運営がさ、よく通常攻撃が即死レベルの理不尽なレイドボス出してたじゃない?」
「あったねー」
右手を軽く振るっただけで、物理攻撃範囲とは思えない場所にいた
その理不尽さを楽しむのがゲーマーの悪い習性。いかにして死ににくい構成で挑むか? いかに見切って耐えきるか? 1時間以上もかけて、結局倒しちゃうんだから、凄いよね。
そんな年越しレイドイベントによく、俺と麻夜ちゃんはコンビを組んで挑んだんだ。俺は壁役兼回復役。麻夜ちゃんは俺を壁にしながら、高レベル魔法を連打するタイプだったな。
「兄さんもリザもらったことあるでしょ? そしたら名前出るでしょ? 『ほにゃらかさんから
「……うあ、そういやいたかも、アイラGM。『さぁ起き上がれ、キリキリ働け』って。よく見たような気がする」
「だよねー。いかにも女神様チックなおっとり声の
あれって声優さんじゃなく、運営スタッフが直でマイク通してるって有名だったからなー。
「いやでもさ、
「よく考えるですよ。兄さん」
「どんな?」
「ここがもし、ベータサーバー的な場所だったりしたら」
「んー、なさそうとはいえないけど、どうだろうね?」
「なんで?」
「だってさ、こんな状況下なのに、GMコールできないのよ? もちろん、現れたって話も聞かないし」
「あー、確かにねー。麻夜もあの『謎っぽいシステムメニュー』見たとき一番最初に、GMコールのボタン探したもん」
「俺はそこまで考えなかった」
「なんで?」
「だって俺、こっちに召喚された瞬間さ」
「うんうん」
「バスの中からこっちに連れてこられて少しの間、意識はっきりしてたから」
「ま、まじですかー」
「じゃなければ、三点着地したこと覚えてないし」
「全裸スーパーヒーロー着地ですね? わかります」
あれ、ちょっと待って。麻夜ちゃん、下向いて頬を真っ赤にしてるんだけど? あ、あ、やばい。俺、大事なところ、本当に見られてるとかないよね?
「いや、前半分は着てたはずだからっ。それにさ、麻夜ちゃんたちが無事だってわかったあとに、意識が飛んだんだよね」
「ご心配かけました。ありがとう、兄さん」
「いいえ、どういたしまして」
実際俺も、あのときネリーザさんの言葉を鵜呑みにしてたら、荷運びだけで生きていこうと思ってたくらいだもんな。回復属性が本当にたいしたものじゃないと思ってたら、あのときたまたま試していなかったら、今こうしていられなかったもんな。
冒険者ギルドを教えてもらって、それが一番有効だって、物語でも読んで知ってたから助かった。作家の先生方、本当にありがとう。俺、オタクでよかったよ、ほんとに。
「それでさ、麻夜ちゃん」
「なんでしょ?」
「この悪素がグランドクエストだとするよ?」
「うん」
「あのときネリーザさんがさ、あっちの世界に帰れないって断言したじゃない?」
「そだね」
「ということは、麻夜ちゃんたちを召喚したとして、あの王家じゃこのクエストをクリアできなかった可能性があったってことだと思うんだ」
「うん。それはあると思うなー」
「この国の外にある湖。その底に、悪素の発生源があるらしいって話」
「うん」
「これからあれこれ調べていって、もし」
「うん」
「このクエをクリアできたとする」
「うんうん」
「そのとき、アイラGMが姿を現したとしたら、あっちに帰る方法があるかもしれないわけじゃない? ないかもしれないけどさ」
「うん」
「麻夜ちゃんはどう? 俺はさ、あっちに帰る理由はないんだわ」
「なんで?」
「俺の両親はね、もういないわけよ? お墓は俺の父さんの幼なじみがお寺の住職でさ、俺があっちにいなくてもそれなり以上の扱いをしてくれてると思わけよ」
「なるほどー」
「麻夜ちゃんはどうなの?」
「んー、麻夜はあっちに未練はあるよ」
「やっぱり」
「だって
「あれ?」
「クリアボーナス選べるなら、そっちかな?」
「どゆこと?」
麻夜ちゃんは指先に火を灯してみせる。
「『漫画とアニメを見られるようにしてもらう』ってこと。だって
「あー、それは確かに。もし俺も、この魔法あっちに持って帰れたなら、無双できちゃうからね」
「そっそ」
「何もなかったで、戻るのは俺も嫌かな」
「でしょー? それにね。麻夜たちもね、高校生になるときにホームのママさんから聞いてるわけよ」
ホームってそっか。麻夜ちゃんたちが育ててもらったところか。
「ん?」
「麻夜と麻昼ちゃん、朝也くんもね、兄さんと同じなのよ」
「そっか、本当のご両親はもう亡くなってるってことなんだね?」
「うん。けどね、メッセで確認してるから大丈夫よ」
「どういうこと?」
「麻昼ちゃんは朝也くんがすべてだし、朝也くんも麻昼ちゃんがいるならこっちで頑張れるって言ってるってさ」
「そっか」
「二人にはね、新しいお母さんができるわけじゃない?」
「リズレイリアさんか」
「そっそ。厳しそうだけど、ものすごーく優しいんでしょ?」
「そだね。セテアスさんからはそう聞いてる。俺には優しい
「麻夜はほら、みーちゃんってお姉ちゃんみたいな人もできたわけだし」
レナさんに抱きついて顔を彼女の胸元に埋めてクンカクンカしてるし。女の子同士だから許される技なのか? ちょ、ちょっとだけ羨ましいぞ?
「あ、やっぱり俺たちより年上だったりするのかな?」
「あの、私はその、まだ33歳になったばかりですので……」
「まじですかー」
「あははは」
やっぱり俺より年上さんでした。
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