第131話 報告とあれこれ検証作業。

「母さん、これを見てもらえますか?」

「どれどれ?」


 エンズガルドへ戻ってきた翌日。朝食を食べたあと、そのまま残って昨日の報告をすることになった。俺はコーベックさんから預かった、新しい機能を追加したウォーターサーバ型の解毒魔道具を空間属性魔法の収納インベントリから取り出して説明を始める。


「ここの部分に10カ所鍵穴があってですね」

「うんうん」

「スイグレーフェンの悪素含有量を1と考えるとワッターヒルズが3倍なので2つずれた場所に移動させるんです。4倍、5倍、最大10倍の稼働時間まで設定できるというわけですね」

「ほほぅ」

「えっと、俺たちの世界ではこの10のうちいくつかを現す場合、割とかパーセントという表現をするんですが」

「あぁ、パーセント、100のうちどれくらいあるか。その割合のことだね?」

「それまで伝わってるですかー」

「ぷぷぷぷ」


 麻夜ちゃん笑ってる。さては知ってたな?


「んっと、それじゃパーセントで説明します。例えば、これ。スイグレーフェンの湖からとってきた水なんですけど。麻夜ちゃんいくつある?」


 俺はインベントリからビンを取り出してテーブルに置いた。麻夜ちゃんは目で見て『鑑定』のスキルを発動させてるんだろうな。


「んっと、コンマ4パーセントかな?」

「まじか。それっぽっちでそれでそこまで影響あるのかよ……」

「じゃ、これは?」


 次のビンは、光さえ吸い込みそうなほど、真っ黒な流動体が入った物。


「うぇ、100パーセント、だって……」


 あまり気味のいい物ではないから、すぐにビンをしまった。


「ありがとう。これは、ワッターヒルズ外に流れる川からとってきたものだけど」

「んー、1.1パーセント?」

「なるほど、おおよそ3倍ってのは当たってたんだ。じゃ、麻夜ちゃん」

「はい。これ……、中庭の水路あるでしょ? あそこの止水部分から先にあった水ね」

「うん」

「いくつある?」

「あのね、もう調べたのね。実は、2.3パーセントあるわけ……」

「まじか」

「本当なのかい?」

「はい」

「ワッターヒルズの倍以上か……」


 透明にしか見えないこの水でもそこまで。どうりで、マイラヴィナさんのあの症状。これじゃ元々1年持たなかったってことじゃないか?


「うちのマイラが申し訳ないね」

「いえ、誰も悪くはないんですよ。ちょっとそのビン貸してくれる?」

「いいよ」


 俺は麻夜ちゃんから、ここの湖の水を預かる。インベントリから取り出したのは、プライヴィアさんから預かった、聖銀製の杖。


「これをこれに触れるようにして、と。『デトキシ解毒』。いくつになった?」

「んっと、1パーセント弱?」

「本当なのかい?」

「えぇ。この杖があれば、これくらいの芸当はできるんですよ。『デトキシ』、っと。これで消えたかな?」

「うん。0だね」

「凄いね……」

「別にたいしたことはないんです。麻夜ちゃん、表層部分から取ってくれたんだよね?」

「うん」

「もう少し深いところから取ると、さらに濃いはずなんです。多分、湖の底にあるらしい、悪素の出所と予想されるところは100パーセントに近いはず。ですが、貯水池に流れこむ水ならスイグレーフェンのおおよそ6倍。この魔道具の6つめの位置で解毒は可能なんです」

「……そうなんだね」

「はい。今日このあと、麻夜ちゃんと一緒に水以外。肉や根菜、土。それぞれどれくらい汚染が進んでいるのかを調べていこうと思ってます」

「助かるよ。本当、……に」

「ここもワッターヒルズも、俺たちの母さんの国だし」

「うんうん。あっちは、麻昼ちゃんと朝也くんのお母さんになる人の国だし」

「そうだね。俺たちでは多分、悪素を根底から解決することはできないと思います」

「タツマくん、マヤちゃん」

「はい」

「はい」

「無理矢理私の息子に、娘にするようなことをして申し訳なく思ってるよ。それはけっして許されるようなことではないからね」

「いいんですよ。ね?」

「はい。麻夜たちもう、親がいませんから」

「そうだね。家族がいなかったから結構、寂しい生活をしてたもんなぁ」

「仕事、お酒、遊びの繰り返し?」

「言わないでおくれー。……まぁでも、あのときよりは、充実っていうか、やりきった1日を過ごせてる感じはあるかな?」

「まぁねー。魔法とか物語だけのことだと思ってたけど、麻夜は十分刺激的な日を過ごしてるよー。麻昼ちゃんと朝也くんはどうだかわからないけどね」

「結局、俺は悪素毒がなければ、ギルドに誘われてなければ、必死に回復属性魔法を上げることはなかった。そしたらきっともう、あのお貴族野郎にられて死んでたと思う……」


 ロザリエールさんを見ると、複雑な表情して俯いてる。きっと彼女にも、否定できないんだと思うんだ。あのとき俺が、ハウなんとかに命を狙われてたのは事実だから。


「リズレイリアさんから魔道書を貸してもらって、呪いのような魔法を覚えることもなかったんだ」

「呪い?」

「あぁ。ただひたすら設定した魔法を繰り返すだけの魔法。解除しなければ、死んでも繰り返されるのは確認してる。ほんと、呪いそのものだね」

「うわぁ……」

「うん。今も常時動いてる。10秒おきに『リザレクト蘇生呪文』がかけ続けられてるんだ」

「へ?」

「魔素量の増加のスキル上げにはなってるんだけどね」

「兄さん」

「ん?」

「魔素量いくつあるの? 今」

「しばらく気にしてなかったんだよね。えっと、……ちょっと待って」


 俺はスマホの電卓を起動。ぽちぽちと再計算。123Dを10進に変換っと。


「えっと、4749?」

「……え? 4749? 何それおばけ?」

「ダイオラーデンを出る前はさ、1000超えてなかったんだけどねー」

「いやいやいや、おかしいでしょ? ちまうでしょ? 麻夜、437よ?」

「へ?」

「麻夜でも麻昼ちゃんと朝也くんの倍以上あるってのに、軽く10倍とか、どうなってんの?」

「あー、ほら。さっき言った、『最高レベルの回復属性魔法をね、24時間繰り返しかけ続けてるから。微妙に魔素が減ってるから、呪文自体は常に成功してるんだろうなって」

「もしかして、あの噂って本当だったの?」

「噂?」

「うん。殺しても死なないお化けがいるってやつ。麻夜はてっきりそういう種族な人がいるもんだと……?」

「あー、たぶんそれ俺」

「まじですかー」


 麻夜ちゃんは、すがるような視線をロザリエールさんに移すんだけど、彼女は呆れるような表情をするだけ。


「言わなかったけどさ、俺、こうみえても何度か死んでるんだよ。そうそう昨日もね、セントレナが寒さにめちゃくちゃ強いらしいのを知ってさ、どこまで高度を稼げるか、ちょっと無理して挑戦してもらったんだ。そのときちょっとだけ予想の上をいっちゃって、俺上空で凍結ダメージ喰らい続けて死んだっぽいんだよね」


 うん。あれはしくじった。セントレナは大丈夫だったけど、氷点下で生命力が減り続けてまさか、累積ダメージで死ぬとは思わなかったんだよね。回復し続けるの忘れてたんだなー。けど多分、セントレナの上昇速度に追いつかなかったと思うんだけどさ。


「……おばけ、きたーっ!」

「えぇ、ドン引きにございます」

「あぁ、間違いないね。タツマくんはある意味化け物だとも」

「兄さん、生きてる? まさか、アンデッド化してないよね?」

「生きてるってば、……てか麻夜ちゃんも、ロザリエールさんも母さんも、何気にひどいわ……」


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