第17話 何がなんだかわけがわからず。
勇者召喚巻き込まれるかたちで、こちらへ
回復属性のレベルはやっと
けれどとにかく、ぱっと見紛らわしくて困る。10進表示に直らないのか? チェックボックスが隠れてないか、それともラジオボタンがないか、あれこれ探してみたけど見つからないんだよね。設定画面へ行くコマンドとかありそうなんだけど、いずれ探してみようとは思ってる。まさか、専用の呪文があるとか、……なわけないよね。これっぽっちのために、意味がないように思えるから。
毎日十人近く治療を続けていると、途中までは調子よく上がった気がするレベルも、60が見えてきたところで、なかなか上がらない。上がる気がしないってやつ? 上がり判定で1ずつ上がるんじゃなく、内部的に見えない小数点があって、そこの部分の経験値が地味に上がってるぽい感じもあるんだよね。そうだとしたら、あれっすよ。忘れたころに上がるパターンだ。
ま、そんなこんなである程度、この国の実情がわかってきたんだ。神殿にいるとされる神官や巫女、回復属性持ちが複数いたとして、おそらく俺よりかなりレベルが低い。そのため、王族や貴族の治療で手一杯なんだろう。だから国民にまで手が回らない。
悪素毒は即死するわけじゃないから、ある意味放置されているような現状。だからといって、歳を重ねると目に見えるほど具合が悪くなる。症状が目に見えるし、亡くなった人がどれだけの状態かもわかっているだろうから、そのときが来たら運命と思うしかないんだろう。
これだけ長い間、国民の悪素毒被害を放置してきたと考えるなら、王家あたりでは予防がされているだけで、治療にまで至っていない可能性も高い。どちらにしても、換えの効かない国の上層部を優先するのは当たり前なんだろうけどさ。納得いかないのは、俺だけじゃないと思うんだ。
そうしてなんとか誤魔化して、光属性と聖属性を持つ勇者を召喚することで、根本的な悪素の発生をなんとかしようとしてるんだろうな。そういや麻夜ちゃんたち、元気にしてるかな?
こんなに近くにいても、何の情報も入って来やしない。城下の情報が手に取るように入ってくるこの冒険者ギルドですら、勇者として召喚された彼ら三人の噂話は全く入ってこないんだから。まぁ、『勇者召喚されたの知ってる?』って、聞けないから仕方ないんだけどさ。聞いた俺が『大丈夫?』と心配されるのも嫌だし。
例の魔道書にあったものは、全て覚えてしまった。だからもう、
先日から、朝起きてから寝るまでの間、回復属性のレベル上げは継続してるんだ。『
『フル・リカバー』自体、回復呪文の中では一番上位の強い魔法なんだけど、これが慣れるまでは大変だった。どこも悪くないときにかけると、目がギンギンになるわ、股間のあれがちょっと反応するわ。まるで『ズッコン帝王液』とかの強精剤を飲んだみたいな状態になるんだよ。あれはまいったわ……。
俺自身の魔素の自然回復を促してくれる、『
今の俺の身体、実にヤバい状態だよ。例えば、料理をしていて指を包丁で間違って切ったりするじゃない? それが10秒経つと瞬時に完治するんだ。タイミングによっては、机の角に小指ぶつけても、次の瞬間痛みが消えてる。まじで気持ち悪くて笑えてくるんだよ。
俺がやってる治療のことは、ジュリエーヌさんや、リリウラージェさんが、あらかじめ説明をしてくれるから、吹聴しないというお約束ができあがってるんだ。それでも俺は、それなりにこの城下で顔が知れ渡ってるわけだから、普通に散歩していても、声をかけてくれる人も、増えているんだよ。
その日の治療が終わって、ギルド本部の建物を出る。赤煉瓦のモザイク壁から徐々に離れて、湖ルートで帰宅前に散歩をしてる。息が白く凍ることはまだないけど、確かに肌寒くなった感はあるよね。
腰の高さの手すりに手をついて湖を眺めていた。俺は夜こうして、この湖を見るのが好きだったんだよね。俺の後ろにある数少ない街灯が、ちょこっとだけ水面に映る。あちら側は、真っ暗なんだよね。町がないからかな? 明日も治療があるから、帰ってご飯食べて、ゆっくり風呂のコース。たまには、『MMOで遊びたいな』みたいな無理目なことを思いつつ、こうして、肌寒く感じる秋の終わりを楽しんでたんだよ。
『おい。あいつじゃないか?』
ん? 誰か人探しかね? 遠くから、比較的若そうな男性の声。
『あぁ。手配首に間違いない』
誰のこと? 手配書ってことは、罪人でも逃げ出してるんかね? 案外ここも、物騒なんだな……。
「その首もらったぁっ!」
「え?」
俺の真後ろから大声が聞こえる。途端に、背中全体に焼けるような痛みが走った。
「――だっ、ちょっ」
振り向こうとした瞬間、俺の右肩から腹部にかけて、袈裟斬りのように槍の穂先らしきものが通り過ぎ、光る穂先らしいものが戻ってきたかと思うと、続けて腹部に激痛が走った。熱い、痛い、何が起きたかわからない。
目の前に飛び散る、俺の血と思われる赤黒い飛沫。味わったことのないあまりの激痛に、俺はバランスを崩して後へ倒れ込んだ。そのまま、湖の中へ転げるように落ちてしまったんだ。そしてそのまま、生まれて初めて味わう痛みで、気を失ってしまったらしい。
▼
胸が圧迫される。
「――ふぅっ」
柔らかい感触が、俺の口あたりに重なってるような。
「くそっ」
俺を殴ってる? いや、俺の胸あたりを殴ってるみたいだ。
「――ふぅっ、ふぅっ」
あれ? この綺麗な瞳。見覚えがあるような? もしかして俺、女の人と唇を合わせてないか? うは、くちびる、やわらけぇ、……ってなんだこの夢みたいなシチュエーション?
そう思っていたら、胸の奥から、気持ちの悪いなにかがこみ上げてくる。
「――ぐう゛ぉっ、がふっ、げふっ」
咳き込んだのと同時に、意識がはっきりしてきたんだよ。
「……手間とらせやがって。おい? しっかりしろっ」
顔を手のひらで強めに叩いてくる。その痛みで、はっきりしたんだと思う。
「……あ、俺」
「もう、大丈夫だな? ちょっと大人しくしてろよ?」
彼女は後を向くと、何やら呪文を唱える。見た目ほっそりしていたシルエットが、ふわっとしたものに変化する。
俺、体中ずぶ濡れっぽい感じ。でもさっき、『大人しくしてろ』って言われたし、そうしようと思ったんだ。よくわかんないけど、そうしなきゃいけない気がしたから。
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