第152話 お見送りは家族全員。

「タツマくん」

「はい、母さん」

此度こたびは以前のような原因不明で、終わらせたくはないんだ。もちろん『君たちなら、私の気持ちをわかってくれる』よね?」


 あ、麻夜ちゃんを助けに出たあの日のプライヴィア母かあさんと同じ表情。いや、あのときより凄みがあるわ。エンズガルドこちらウェアエルズあちらの間にいろいろあるんだろうな。


「過度の期待はしないでくださいね。俺なりに何らかの情報は持ち帰るつもりですから」

「あぁ、期待してるよ」

「――うぎゅっ」


 久しぶりの虎ハッグ。死んじゃう死んじゃうまじで死んじゃう。タップタップとにかくタップ、気づいてくんないあ、やばい。……力が抜けていく。気が遠くなって――


「お姉様。タツマ様の口から泡が……」

「おっと、力が入り過ぎたかな? ごめんね、タツマくん」

「り、『リカバー回復呪文』、……いやまじで死ぬかと思いましたよ」

「君が死ぬだなんて、面白い冗談だね」

「死ぬんですよ、最初は本当に……」


 生き返るからって、その瞬間本当に死ぬんだってば。それも苦しい系は結構辛い。うーわ、生命力減ってるし。『リカバー』じゃ足りないわ。どれだけ破壊力あるのよこの、虎ハッグ。


「タツマちゃん」

「はい」


 あぁ、ダンナヴィナ母さん、めっちゃ申し訳なさそうにしてる。きっとこれ、何度か食らったことあるんだろうな……。


「ロザリエールちゃんにね、お弁当を持たせたから、あとで一緒に食べてちょうだいね」

「はい。ありがとうございます。ダンナ母さん」

「わ、わたくしもね、いっぱいいっぱいいーっぱいっ、お手伝いしたのですよ?」

「はい。マイラ陛下もありがとうございます」

「うふふふ、褒められちゃった」


 こんなに喜んでくれるのはこっちも嬉しくなるな。あれ? ロザリエールさんどこいった? あぁいつの間にか俺の後ろに回って、セントレナに晩ご飯食べさせてる。

 ロザリエールさん手ぶらだけど、……あぁ。彼女を見たら腰のポーチをぽんぽんしてる。なるほどあれだ。俺たちのインベントリみたいなものだっけ。


『くぅっ』

『ぐぅっ』


 セントレナもアレシヲンも、ごちそうさま状態。


「お母さん」

「なんだい?」


 麻夜ちゃんがプライヴィア母さんを見上げてる。


「アレシヲン、お借りしますね」

「もう少し砕けた言葉でも構わないんだよ?」

「うん。借りるね、お母さん」

「あぁ、この子たちは強い。何があろうときっと君たちを守ってくれるからね」


 母さんが強いって言うくらいだから、走竜ってかなーり強いんだろう。実際ダイオラーデンあのとき、踏みつけ無双してたもんなー。セントレナ。


「うん。ありがとう」

「でもね、アレシヲンはあげないからね」

「あ、やっぱり?」

「それはそうだよ。まだまだ私も世話になるつもりだからね」


 母さんはまだアレシヲンに乗ってあちこちのギルド支部へ顔を出すつもりなんだと思う。


「大丈夫。いずれ機会があるだろうからね。このままタツマ君がタツマ君のままならば」

「それってどういう意味ですか?」

「それこそいずれわかるだろうさ。期待してるよ」

「はい。今夜のことですよね?」


 俺の背中をバンバン叩いて、プライヴィア母さんはダンナ母さんのところへ戻っていくんだ。


「アレシヲン、麻夜さんとロザリエールお姉様をお願いね?」

 マイラ陛下がアレシヲンを撫でてお見送り。


『ぐぅ』


 セントレナがマイラ陛下に近寄って頬ずり。


「セントレナも、タツマ様をお願い」

『くぅっ』


 麻夜ちゃんが前に、ロザリエールさんが横座りで後ろに。準備ができたね。うん。

 俺もセントレナに乗ると、マイラ陛下はプライヴィア母さんの隣へ。ディエミーレナさんは一歩下がって手を振ってくれてる。


「別にあのときとは違うんだから。気楽にいこうか」

「えー、麻夜の活躍なしなのぉ?」

「だーかーら。それは現場合わせだって」

「しょぼーん」


 そういうのは口で言うなってばさ。


「じゃ、母さん。いってきます」

「心配はしていないが、油断はしないこと。いいね?」

「はい。わかっています」


 四人に見送られて、セントレナとアレシヲンに乗った俺たちは夜の空へ飛び上がっていく。


「そういやさ、麻夜ちゃん」

「どしたの?」


 俺はこっちの寒さにある程度慣れたから平気なんだけど、麻夜ちゃんは寒いだろうなとみたらあら? 平気そうにしてる。あ、そか。ロザリエールさんの魔法だ。


「このままギルドでいいんだっけ?」

「のはずだけど」

「タツマ様」

「ん?」


 ロザリエールさんが呼んでる。


「連絡が入った際ですね、湖の畔で待っているとのことでした」

「あー、そうなんだ。ありがとう、ロザリエールさん」

「いいえ。どういたしまして」


 なるほど。もう移動してるってわけだ。


「じゃ、あの場所だ」

「そだねん」


 前に俺たちが見に行った場所。あのドン深なところだ。

 ということで、ギルドの建物をあっという間に飛び越えて、やってきました湖のそば。ゆっくり降りていくと、あ、いた。


「タツマ様、こちらです」


 ギルドにいた職員のお兄さん。若そうに見えるけどきっと俺より以下略。現場事務所みたいな屋根付きの建物。案内されたところの入り口はでかい。アレシヲンとセントレナが余裕で入れるんだ。


「おぉ、あったかい」


 建物の中は魔導具で暖められてるっぽい。ぬくぬくした感じ。ギルドほどじゃないけど、寒くはないね。

 一番奥に作戦司令室みたいな広いテーブルがあって、その中央にジャムさんがいた。あ、もっと奥に彼の一番上のお姉さん、ジェノルイーラさんがいるし。ジャムさん、ちょっと居心地悪そうにしてるわ。


「タツマ様。そのですね……」

「うん大丈夫。皆まで言わなくてもわかってるよ」

「はい。ありがとうございます」


 辛いね。見張られてるようなものだから。別にジェノさんやることないでしょうに? なんでいるんだろう?


「タツマ様、ご足労ありがとうございます」

「あのさ、ジェノさん」

「はい。なんでございましょうか?」

「ロザリエールさん、こっち来てるんだから、あっちは大丈夫なの?」


 いつもはマイラ陛下のそばにいるロザリエールさん。こっち来てるってことは、マイラ陛下はひとりなんだよ? という意味。


「あ、も、……ジャムリーベル」

「はい」

「私はお屋敷に戻ります。しっかり役目を果たすのですよ?」

「わかっています。姉様」

「では、私は失礼いたします」


 一礼して走るように行っちゃったよ。元々マイラ陛下の専属だったみたいだけど、最近プライヴィア母さんの屋敷に来てるもんな。暇なんだろうね。俺たちに同行できなくなっちゃって。悪いとは思うけどさ……。


「ふぅ。助かりました」

「いえいえ、どういたしまして」

「大変だねー、ジャムさん」


 鼻をすんすん動かして、ほっとした表情のジャムさん。匂いでジェノさんが遠ざかってるのを確認したんだろうな。


「本当にその通りですよ……」


 ジェノさんに見張られたままだったら、ジャムさんずっと小さくなってなきゃ駄目だもんな。一番大きいのにね。


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