第11話 思った以上に……。
「こんなことしてるとさ、いつか危なくなることもあるんだろうけど」
「はい?」
「こういうの見ちゃうと駄目なんだよ。昔は何もできなかったけどさ、今は俺にもできることがあるんだ。できるんだから、黙って見ていられないんだよ」
「……タツマさん。あなたもしかして」
「察しがいいね。俺の回復属性のレベル、低く表示されてるだけでさ、本当は低くないんだ」
「そ、それって?」
「今は気にしないでくれたら助かるよ。それじゃとりあえず、痛みだけでもを先に取ろうか。『
「はい。少しだけ痛みが和らいだ感じがあります」
「少しか-。それなら『
「……はい。かなり楽になっています。普段は、色味が気になるのと、指先に何か当たるだけで、少し痛みを感じるので、手袋をしていたんですね。毎朝、毎晩、お風呂に入ったり、お酒を飲んだりすると、涙が出るくらいに痛いんです。指先が多少冷えると痛みは治まりますが、お布団に入って温まると、それだけでも痛みが気になっていました。ですが、なんだか不思議な感じですね」
それって、かなり苦痛だったんじゃ? よく我慢できる。信じられないよ、俺は。
「よし。あ、ここ、あまり長い時間、使ってたら怪しまれない?」
「それは確かに……」
「ならさ、仕事終わってからでいいから、俺のいる宿に来てくれたらいいよ。大丈夫――」
「『取って食おうってわけじゃないんだ』、ですか?」
「あははは、察しがよくて、ほんと助かる」
「お酒の席で、強引に迫るときに使われる、常套文句ですよね。ですが、信じられると思います」
「秘密だけどさ、治療ができるのは、昨日知ったんだ。ジュリエーヌさんで二人目になるから。でも、君のが状態は酷い。とにかく、見ちゃいられないから絶対に来るように、いいね?」
「はい。ありがとう、ございます……」
涙流してる。本当に辛かったのはよくわかるよ。
「泣かないの。明日、いや、今夜から痛みはしばらくなくなるだろうから。けれどね、再発しないとは言い切れない。悪素自体がなくならないとね……」
「では、今夜、伺っても?」
「うん。明日仕事探すの手伝ってね。夜までに痛みが出るようなら、症状は教えてくれると助かる。でも大丈夫。この黒ずみは消えるから」
「はいっ」
今日は登録証になるカードを作っただけ。あとはおあずけだね。とにかく、思ったよりも悪素毒は深刻な状況になってるみたいだ。中にはジュリエーヌさんみたいに、手袋で隠しちゃってる人もいるくらいに。おそらくは、小さなときから蓄積されて、結構辛い目に遭ってるんだろうな……。
▼
夜になって、ドアをノックされる。薄く開けて、そーっと覗くと、セテアスさんがいた。凄く楽しそうな表情してるし……。
「ソウトメ様、今夜はお楽しみでしたね?」
「『今夜は』って、いつの話だよ? わかってるでしょうに?」
「あははは、冗談ですよ。お客様がお見えです。お綺麗な方ばかりで、うらやまですこと。この色男っ」
「あのねぇ。仕事だってば」
「もちろん、存じております」
「なんだかなぁ……」
「では、お通ししますので、くれぐれも――」
「はいはい。『いかがわしいことはお断りしているので、気をつけてください』ですよね。わかります」
「ご理解いただけて助かります。では、失礼しますね」
「なんだかなぁ……」
セテアスさんと入れ違いで、ジュリエーヌさんが入ってきた。さすがに私服だね。うん、私服のセンスもいいね。彼が言うとおり、美人さんなのは間違いないよ。
「あの、よろしいですか?」
「あー、受付のセテアスさんは、いつもあんな感じだから」
「いえ、あの方は、この宿の跡取りですよ」
「まじですか?」
「えぇ、嘘ではありません」
「なんとまぁ。……セテアスさんのことはいいや。さて、どうぞ入ってください」
「はい、失礼します」
後ろ手で鍵閉めてるし。癖なんだね、きっと。
「あ、いつもの癖で……」
「あははは。座ってください」
「はい。それでこれなんですが、本当に治るんですか?」
そりゃそうだ。今まで治ったなんて聞いたことないはず。噂も立たないだろうから。
「大丈夫ですよ。多少時間はかかりますけどね。俺の魔素が早く尽きるか、治るのが早いかくらいかな? 未確認だからなんとも言えないけどさ、多分俺、この国の回復属性持ちでは一番レベル高いかもしれないね」
「……本当ですか?」
「比べたことがないからわかんないけど。多分ね、この国のかなりの人が、悪素毒に悩まされてる。もし、神殿で無償で治療できたとしよう」
「はい」
「パンクするどころか、魔素が毎日枯渇する状態になると思うんだ。『治せるのになぜ治してくれない? 国の民を見捨てるのか?』って暴動が起きるからね。だから、治る保証がない上に、寄付の額も高いって敷居を上げてあるのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないけどね。もしかしたら、国王陛下を始めとして、王女殿下やお貴族様方の指先も、黒ずんでる可能性もある、……と思いたいけど、確認できないだろうからなんとも言えないんだよね。……とにかく、手袋外して手をみせてくれる?」
「はい、すぐに」
温かいね。うんうん。こんな美人さんの手を握れるんだ、あっちの世界じゃ、飲み屋さんとかで、お金払わなきゃできないからなー。
「ところで、痛みはどうかな?」
「はい。お陰様で、今のところ大丈夫です」
「それはよかった。さて、時間かかるかもだけど、大丈夫?」
「はい。私、その、まだ独身で、一人暮らしですから」
「あ、そういう意味じゃなくてね、心配されるかもって意味は同じなんだけど」
ジュリエーヌさんの両手のひらを上に向けて、俺が下から手を添える形にする。これなら、指先の黒ずみが確認できるから。
頭の中で『個人情報表示』を唱える。目の前に画面を出しておいて、魔素の残量を表示させながらの作業になるからね。枯渇したらどうにもならないし。倒れたりするのはバッテン。かっこ悪いのはいくないっ。
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