第211話 走竜たん、かわゆす。

『ぺこん』

「うあっ」


 俺はスマホメッセージの着信音で目を覚ました。バッテリー切れそう。あ、スマホ出しっぱで寝てたんだ。一度インベントリに入れてチャージしなおしてっと。


「えっとなになに」

『赤い走竜たん、かわゆす』

「え? もしかしてもう着いてるってこと?」

『ぺこん』

『ほれほれ』


 セントレナと赤い走竜が並んでいる写真が送られてきた。間違いないわ、もう到着してるよ。


 俺は慌てて飛び起きて、顔洗って歯を磨いた。するとドアがノックされてる。


「は、はいー」

『タツマ様』


 この宿、飛粋の女将さんではなく主人さん、リリャルデアさんの声だ。


「はいはいはい」


 ドアを開けたら苦笑した彼女の姿。


「あのですね。お迎えの方が食堂でお待ちです」

「わかりました。すぐに行くと伝えてください」

「かしこまりました」


 スマホの時間見たらまだ7時回ったところだよ? 誰が迎えにきたんだ? まさか、ベルガイデが重要なことを吐いたのか?


 それにしたって受付前じゃなく食堂? それなら神殿泊のジャグルートさんか? とにかく待たせたら駄目だろう。さっさといかねば。


 俺は食堂へ繋がるドアを開けたんだ。するとそこにいたのは……。


「おはようございます。お兄様」

「うあ、麻夜ちゃん……。いつのまに」


 リリャルデアさんの旦那さん、ここの料理人ゲナルエイドさんがつくる朝ごはん食べてる。今朝は昨日と同じ、根菜の煮付けとぽってり麦のリゾット。あれうまいんだよな。


「うまうまでございますよ。ささ、隣にどうぞ、お兄様」

「やめてってば、そのお兄様は」

「あははは。兄さん、ここのお料理美味しいねー。まるで日本料理みたい」

「お褒めに預かり嬉しいよ。タツマ様もどうぞ」

「はい。いただきます」


 俺も麻夜ちゃんの隣に座って朝ごはんをいただくことにした。


「麻夜もねー、ここに宿とってもらったのよ」


 ゲナルエイドさんの前だから、話し方がちょっと違うのか。


「そうなんだ。てか、いつ着いたのさ?」

「んっと、今朝方?」

「セントレナ、どんだけ頑張ったのよ」

「えっとね。こっちへ来る気流みたいなのを見つけたらしいのよね」

「気流ってあ、もしかしてアレか? 俺がこっちへ連れてこられたトリックの」


 本来ここまでの日数よりも早く、俺がさらわれて到着したあれね。


「かもですねー」

「ところでセントレナはどこに?」

「うん。ガルフォレダくんたちと話し込んでるみたい」

「なるほど」

「とにかくごはん食べたらさ、兄さんの部屋で新しいお付きさん紹介するね」

「あ、そうだっけ。ロザリエールさんの部隊の?」

「そっそ。兄さん直属になるのかな?」

「そっかー。俺にもベルベさんみたいな人がついてくれるのかー」


 実際、俺の周りってロザリエールさんを筆頭に、コーベックさん除いてみんな女性ばかりだからな。嬉しいといえば嬉しいかもだよ。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

「残さず食べてくれて嬉しいよ。夜も楽しみにしててくれな?」

「はい」

「はいっ」


 ということで、新しい付き人さのとご対面のために、俺の部屋にやってきたわけだ。


 ドアを開けてすぐ、傅いてる麻夜ちゃんの直属忍者さん。ベルベリーグルさんと隣にいる似た姿をした人。


「タツマ様。ご無事で何よりにございます」

「あーそっか。ごめんね、ベルベさんたちにも心配かけちゃったね」

「ちょっとちょっと兄さん。麻夜には?」

「うん。ごめんなさい。麻夜ちゃん」

「うん。仕方ないから許す」


 よく見ると隣にいる人、ベルベさんより小柄なのね。隠密にはそんな人がいいのかもだけど。


「タツマ様、こちらにいるのがタツマ様にお仕えすることになりました。はい、名乗ってください」


 『名乗ってください』って、どういうこと?


「はい。ドルチュネータと申します」

「え? ちょ、女の人?」


 声がまさしくそう。面影はベルベさんに似てる感はあるけど。


「はい。それがしの、実の姉にございます……」

「お姉さんですかいな?」

「はい。断れなくてつい……」

「まじですかー」

「あははは」


 麻夜ちゃんベッドの上で笑い転げてる。スパッツみたいなの穿いてるからいいようなものの、スカートでだめでしょ?


「ってことは、侍女さんなの?」

「いえ、幼き某が術を教わったこというか、叩き込まれたというか。それほどにその、某よりも上位の術者にございます……」

「まじですかー」


 いつもクールなベルベさんの言動があやふやになってるし。


「あのね兄さん」

「うん」

「どるねーさんね」


 どるねーさんって呼んでるのか?


「うん」

「ロザリエールさんの試験、一発クリアしたんだって。かなり強かったみたいよん」

「まじですかー」


 ロザリエールさんが許可を出すとか、ベルベさんに術教えたとか。どれだけチートなのか、このドルチュネータさん。


「それにね、侍女さんのふりもできるんだってさ」

「ふり、って。もしかして料理も仕込まれたとか?」

「できません。苦手でございます」

「え?」


 二つ返事で否定ですか。


「あははは。そう思うよね、でも、べるさん寄りなんだってさ」

「とにかくですね、姉がタツマ様に付き従うことにと、ロザリエール様より仰せつかりまして……」

「うん、わかったよ。よろしくね、ドルチュネータさん」

「はい。弟のように、気安くお呼びいただけたら」

「んー、ドルチさんじゃおかしいから、……ネータさん、でいいかな?」

「はい。嬉しく思います」


 ディエミーレナをレナさんと呼んでるのと同じなんだけどね。ベルベさんの従妹さんだからいいよね?


「そういえばベルベさん」

「はい。なんでございますか?」

「ベルベさんはさ、あの岩山、登れそう?」


 切り立っていて、ところどころオーバーハングしているから、ロッククライミングでも大変だと思う。それが雲海に隠れてどれだけの高さか見えないんだよ。


「……そうですね。最悪、タツマ様に蘇生していただけるなら」

「出来なくとも、そこは登りますと言いなさい。本当にこの子ったら……」

「いえ、姉上。どれだけの高さがあるか見当がつかないものですから」

「わたくしたちは、主君の命に従う。それを成し遂げるのは当たり前のことではなかったのかしら?」

「それはそうですが……」

「うん。とにかく無理はしなくていいよ。この国の実情をさ、調べてくれたらいいから」

「それならば、今日中にでも」

「いってらっしゃいな。麻夜様とタツマ様はわたくしがお守りしますからね」

「はい。ではいってまいります」


 あっという間に姿を消したベルベさん。あ、気がついたら麻夜ちゃん、ネータさんをくんかくんかしてる。動じないのはベルベさんのお姉さんだから?


「ありゃ、ネータさんいつのまに?」


 ベルベさんと話をしてる間に、忍者装束みたいな格好からレナさんみたいな侍女スタイルに着替えてるよ。


「はい。これがメイドのたしなみだと、ロザリエール先生から教わりました」

「まじですかー」


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