第212話 仕事は仕事で頑張りましょ。

「ところでさ、麻夜ちゃん」

「なんでしょ?」

「ベルベさんって、何歳だと思う?」

「んー、何歳だろう?」

「ベルベリーグルはですね、先日五十二になりました」


 いきなりネタバレきたーっ。ベルベさんのお姉さん、ドルチュネータさんがあっさり答える。


「うわ、やっぱり年上だ」

「ということは」

「兄さん、女性にそれはばってんだよ」


 麻夜ちゃんは口元で人差し指を交差させてバッテンを作ってる。女性に年齢を尋ねるのは失礼だっていうんだね。それはそうだわ。うん。


「うん。俺もそう思った」

「また嘘ばっかしー」

「わたくしは五十八でございますよ?」


 こっちも実にあっさり答えるネータさん。


「やっぱり兄さんよりもお姉さんだった」

「麻夜ちゃん……」

「えへへへ」


「それでさ、麻夜ちゃん」

「うん。ちょっとは聞いたよ」

「なるほど。天人族がさ、結果的にマイラさんを死なせた原因なんだよ」

「うん。ぶっころしかないね」


 なんつ、ストレートな。でもその気持ちはわかる。


「いやまぁ、そうなんだけど。まだあのベルガイデがゲロってないのよ」

「べるさんと同じベルがつくなんて許せないなー」

「そこかい。とりあえずさ、あの野郎が俺をさらった張本人なのは間違いないんだ。その上でさ、これまでの誘拐沙汰があいつの、またはあいつのチームみたいな取り巻きの独断なのか、それとも国としてやらせたのか。そこなんだよ。そこで対応が変わってくるんだ」

「でもさ兄さん」

「うん?」

「どっちにしても、エンズガルドに喧嘩けんか売ったのと同じじゃないの? 公爵家長子の兄さん攫ったんだからさ」

「まぁ、そうとも言えるわな。それでもさ、とりま調査が必要。あっちの戦力もわからないんだ」

「だねい」

「それまではさ、こっちで悪素毒治療を昨日から始めてるから」

「おー、経験値がっぽがっぽ」

「んっとね、300人ちょっとは終わったんだけど」

「うわ、はやっ」

「この国はね、5000人くらいいるんだってさ」

「まじですかー」


 このあと、一度警備部に顔を出してベルガイデの状況を聞いた。なんでも一進一退。長期戦になりつつあるそうだ。


「麻夜ちゃんはまだ」

「麻夜もう十九だけど? 大人よお・と・な」

「あ、そっか。ならいいのか?」


 牢屋の状況。これはかなり悲惨だ。ちゃんと股間に布をかけてあるけど、とりあえず気絶してるベルガイデを一度治療しておいた。そしたらグローテシアム先生とジルビエッタさんがやる気になっちゃってさ。がっちり握手してるんだよ……。


「あー、なるほど」

「兄さんそれ、駄洒落?」

「いや、そう聞こえるかもだけど違うってば」

「麻夜はそっち系、興味ないんだよねー。麻昼ちゃんは好きらしいけど」

「まじですかー」

「まじ腐女子の素質ありありっすよ旦那」

「なーに言ってんだか?」


 その後俺はセントレナに再会。いや、にらんでる睨んでる。


『くぅっ』

「久しぶりだな。ごめんな、心配させちゃって」

『くぅぅ……』


 結果的に頭に顎乗せられたあと、頭かじられた。かなーり怒ってたみたい。


 麻夜ちゃんがガルフォレダくんを撫でまくってたから、警備伯さんがフェイルラウドさんに指示してくれてさ。今日の午後、走竜牧場に連れて行ってくれるとのこと。


 俺と麻夜ちゃんがいたら、午前中で昨日と同じくらいの人を治療できるからね。


「まじですか、それって天国じゃないですか。麻昼ちゃんなら『うれしょん』しちゃうかもレベルな」

「しないしない、わんこじゃないんだから」


 セントレナの背中に乗って神殿へ。圧雪の道を歩くのかと思ったら、軽く浮いてる。このあたりが走竜と飛竜の違いなのかもだね。


 周りの人たちがちょっと驚いてるよ。注目浴びちゃってるな。セントレナの色が珍しいから仕方ないんだけどね。


 俺たちは神殿泊のジャグルートさん私室へ向かおうと、神殿の裏口から入るところ。セントレナは厩舎があるんだってさ。そっちで一休みしてるって。


 さっきまでいたはずのドルチュネータさんの姿がもう見えない。麻夜ちゃんは『呼んだらすぐだよ』って言うけどさ。


「ネータさんいるの?」

『はい。ここに』


 声はするけど姿は見えない。ベルベさんの上位互換なんだな。おそらくは。


「『認識阻害の術』みたいなのがあるのかもだよねー」

「うん。俺もそう思った」

『はい。ございますよ』

「まじですかー」

「まじですかー」


 ジャグさんの私室前。ドアをノックしたら開けてくれた。笑顔で迎えてくれるジャグさんが、『おや?』という表情。


「師匠、もしやこのお嬢様があの『聖女様』なのですか?」

「ちょ、兄さん。何を言ってたの?」

「いやー、昨日ね。ジャグさんのお屋敷でお酒をご馳走になってね。そのときに色々話をしたんだよね」

「なんだかなぁ」

「それでこの国の公女殿下なんと、聖属性持ちだったって聞いたんだよ。お酒の前だけどね」

「やっぱりそうだったんだ」

「うん。予想通り。その上あの、『レベル上昇率と効果の違い』はおおよそあたってるっぽいね」

「なるほどねー」

「ついでに、この国の偉いさんは、プライヴィア母さんみたいにやせ我慢する性質たちだったってこと」

「まじですか」

「更に、公女殿下は俺と同じように誘拐、天人族の国で、幽閉されてる」

「えぇっ?」

「だから、マイラさんがあーなった原因がそれ」

「それでジャグさんの姪御さんもね……」

「師匠、その話は――」


 俺は包み隠さず話した。麻夜ちゃんに秘密にしていい話じゃないと思ったから。


「……うわ。まじ滅殺しかないわ」

「だね、うん」


 麻夜ちゃんは正義感が強いから、絶対に許せないはず。俺だってジャグさんの話聞いた

ときはもう、抑えきれない衝動が湧いてきたんだ。


「さて、仕事は仕事。麻夜ちゃん、困ってる人沢山くるからさ、切り替えていこうか?」

「うん。兄さん」

「それに午後から、ほら」

「そうだった。頑張らないとね-」

「どうかされたのですか?」

「いやね、午後から走竜の牧場に行く予定なんです」

「これは偶然ですね」

「といいますと?」

「牧場を管理する育竜伯いくりゅうはくは妻の兄なのです」

「まじですかー」

「まじですかー」


 楽しみにしている理由をジャグさんに話すと、一緒に行ってくれるとのこと。麻夜ちゃん大喜びだった。


 あらかじめジャグさんと俺と麻夜ちゃんとで打ち合わせを終えてた。比較的軽い症状や年齢の若い人は麻夜ちゃんが受け持つ。そうでない人や、年齢の高い人は俺とジャグさん。


 なんだかんだで昨日と同じ300人ほどの治療は、午前中に終えてしまったわけだ。


『経験値うまーでした』


 何気に空気読んで、俺に耳打ちする麻夜ちゃん。そうだよね、そういうところは隠すべきだろうから。


「あ、そうだ。麻夜ちゃん。その指さ」

「うん。少しずきっとするかな?」


 いつものように俺が治す予定の、悪素毒を吸い上げてしまった麻夜ちゃんの黒ずんだ指先。


「ちょっと検証してもいいかな?」

「なになに? 何か面白いことでもあるの?」


 麻夜ちゃんもこうなんだ。検証作業大好きなゲーマーさんだから。


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