第201話 どうしてこうなった?

 朝ごはんに出された料理。見た目はリゾット。ぼてっと大きめな麦白い粒。これも麦なんだ。


「いただきます」

「あぁ、たしか。食べる前の感謝の言葉だったか?」

「そうですね。俺の生まれ育った地域の習わしみたいなものです」

「なるほどな。たいしたものではないが、食ってくれ」


 スプーンですくって食べてみる。うん。見た目はリゾットだけど、味はパスタかな?


「これもうまいですね」

「そうだろう。この国ではな、家庭料理みたいなものなんだ」

「そうなんですね。このだし汁もいいですね」

「そうだろう。鳥を骨まで丸ごと煮込んでる。これも珍しくはないんだぞ」


 昨日の天ぷらは驚いたけど、これはこれでいいよ。寒いから身体も温まる。


「ごちそうさまでした」

「それは昨夜も聞いたが」

「はい。作ってもらった料理に対する感謝の言葉ですね。もちろん、まずかったらいいません」

「そりゃそうだ。図に乗ったらだめだからな」


 うん。わかっていらっしゃる。


「昼はどうするんだ?」

「警備部さん次第ですね」

「わかった。夜は肉料理だ。根菜葉菜中心だが、メインは肉でも構わないか?」

「大丈夫です。楽しみにしてます」

「わかった」


 ぶっきらぼうだけど、客として大事にされてる感はあるからいいよね。


 朝食を終えて一度部屋に戻った俺。ベッドに寝転がってスマホの画面を確認。時間は午前8時過ぎ。ジルビエッタさんが迎えに来るって言ってたはずだよな。けどまだ時間早いと思うんだ。


 ぶーっ。あ、スマホの振動。画面に『メッセージがあります』の表示。


『おはようございますお兄様』

「『おはよう。だから、ぞわっとするからやめてって言ったでしょ?』、送信」


 ぶーっ。


『あははは。とにかく出発するです』

「『気をつけてね』、送信」


 ぶーっ。


『了解。ありがと、兄さん』


 すると、コンコンというノックの音が聞こえたんだ。なんというタイミング。


『タツマ様。警備隊の方がお見えになっています』


 ここの女主人さん。女将さんじゃないんだよな。リリャルデアさんの声だ。


「はいはい。入ってもらっていいですよ」

『いえその、一階におられるのですが』

「あ、そうですか。これから行くと伝えてください」

『かしこまりました』


 一階に降りるとそこにはジルビエッタさんが待ってた。宿屋『飛粋』を出ると外にはもう、走竜が待っていた。


『ぐぅ』


 おそらくガルフォレダさんではない。なぜなら、ジルビエッタさんと同じ服装した男性が乗っていたからなんだよ。

 おまけのその走竜は馬車、いやおそらく竜車なんだろうけど、それを引いてるんだよ。

 俺は客車に乗せてもらったんだ。あとからジルビエッタさんも乗ってくると、向かいに座ったんだよ。ちなみにやっぱりこれって『竜車』って名称なんだってさ。


「おはようございます。ゆっくりお休みになられましたか?」

『はい。ジルビエッタさんはどうでしたか?』


 俺が小声で話してるから少しだけ彼女は焦った表情になった。


「この竜車は警備伯の家のものですから、外に声が漏れません」

「あー、そうなんだ。それでどうだったの?」

「はい。……お風呂、堪能してしまいました。足先も腰も背中も痛くないんです。まるで強い痛み止めを飲んでいるみたいでした……」


 そういえばちょろっと聞いたっけ。指先には出ないけど、足先と背中と腰に痛みが出るって。


「その強い痛み止めって?」

「はい。もの凄く眠くなるのと、寝てしまうと二日ほど、人によってはさらに数日起きられなくなるほど強いものなので……」

「あー、滅多に使えないってことですね?」

「はい。痛みの強い人だけですね」


 竜車の中でジルビエッタさんに聞いたんだけど、この国は俺のような回復属性持ちがいて、国の役人として働いているから無償で治療してくれるそうだ。ただ、怪我の治療しかできないとのこと。悪素毒に至っては治療という概念がないらしい。


 ダンナ母さんが言うように、魔族でもレベルは高くならないいということか。なるほど俺がやってみせた『リザレクト』は魔王扱いされる意味がなんとなくわかるわ。


 その代わり、薬草学がそれなりに発達していて、さっき話に出た痛み止めも豊富にあるとのこと。ただそれは飲み薬であって、効いて欲しいところへダイレクトに作用するものではない。だから強いものは睡眠作用が併発してしまう。


 俺がいた世界も同じだったもんな。麻酔と痛み止め。どちらにしても副作用があるし、そのうち効かなくなっちまう。


「――なるほど。これはうん。相談の余地ありかも。あ、そういえば魔法のことは」

「も、もちろん誰にも話していません。おそらく先輩もそうだと思いたいです」

「あははは。それならいいんだけどね。ま、そのうち秘密にする必要はなくなると思うので」


 そんな話をしてるうちに竜車が停まった。外見たら結構ゆっくり走ってたから、揺れないように気を配ってくれたんだと思うんだ。その証拠にほら、ジルビエッタさんが先に降りてる。


「どうぞ、タツマ様」

「えー、『様』はちょっと、っていっても駄目なんですよね?」

「はい。我慢なさってください」

「りょうかぁい……」


 あんなの捕まえちゃったからかもしれないな。蘇生しなきゃよかったかもだわ……。


 竜車降りたらありゃま。赤い走竜くん乗ってる男性、直立不動で右手のひらを胸にあててる。あれって多分、敬礼だよわ。ジルビエッタさんは本部建物のドア開けてる。


 ベルガイデを捕縛した功績だけでこんなになるかね? これはあれだよ、ビップ対応だってばさ。何でこうなったんだろう?


「タツマ様お着きになりました」

「え? ちょ」


 彼女が開けたドアの隙間から見えたんだよ。整列してる、人たちがさ。二十人くらい並んでるか?


 ジルビエッタさんが列に並んで、さっきの男性も走ってきて並んで。あ、フェイルラウドさんが申し訳なさそうにしてる。何かあったんだなきっと?


「タツマ様。この度はありがとうございます」

『ありがとうございます』


 うわぁ。まじか。ネルガテイク警備伯さんの号令で一斉にこれだよ。


「フェイルラウドくん。タツマ様を別室に」

「はい」

「あとの者は各自持ち場へ戻りなさい。では、解散」

『はいっ』


 警備伯さんの言うとおり、フェイルラウドさんが俺を案内。


「魔法のことは、黙っていたんです。ただですね、つい、ぽろっと」

「え?」

「先輩は、黒い走竜の話をしたんです」

「あー、もしかしてセントレナのこと?」

「はい。警備伯が『黒い走竜を寄贈したのは――』」

「そう。エンズガルド王国しかありませんので」


 俺の背中に警備伯さんの声がするんだよ。


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