第202話 それならこうしませんか?
俺の向かいに警備伯のネルガテイクさん。少し離れてフェイルラウドさんとジルビエッタさん。
「昨夜、今日彼女が迎えに行くための打ち合わせをしていたところでつい、『黒い走竜はきっと美しいんだろうね』という話をしてしまって」
「そのときに、警備伯が来てしまったというわけなんです。先輩はこうでしたが、私は口を滑らせていませんよ?」
なるほどね。セントレナのことでバレたってわけだ。まぁ少なくとも魔法はバレてないっぽいからいいかな?
「申し訳ありませんね。二人に
警備伯さんの言い分はもっともだよ。それだけの証拠が残ってたら、怪しいと思われて仕方ないからね。
「あー、なるほどですね」
「はい。これだけでタツマ様は賓客待遇でお迎えするべきだと、そう判断させていただいた次第です」
「ある程度の事情は昨日と、先ほど竜車の中で聞きました。それでその『人攫いのベルガイデ』ってあの男、そんなに有名なんですか?」
「有名も何も、長きにわたって
「はい」
「どのようにしてあのベルガイデを捕らえたのですか?」
「あー、……俺もですね、あいつに眠らされて誘拐されたっぽいんですよ」
「なんと、そのようなことが」
「ピレット村の上空で目を覚まして、俺が暴れてもみ合いになって落下。それでたまたまという感じですね」
「……よくご無事でしたね」
「あ、その、運が良かったのかもです」
はいはい。ジルビエッタさんこっちみない。フェイルラウドさんも苦笑しないの。
「俺からも質問なんですが」
「はい、なんでしょう?」
「あのベルガイデが人を攫ったというなら、国同士の争い毎にならないんですか?」
「それが、証拠がないと、その一言で押し通されてしまっているのです。何分、あちらへ確認に行くことが叶わないものですから……」
フェイルラウドさんたちをちらりと見ると、なるほど魔法のことは伝わってないみたいだね。うん。セントレナのことは仕方ないとして、最低限の約束は守ってくれてるんだ。
「あぁ、そういうことですね。あの上は、走竜がジャンプできる高さではないと?」
「さようでございます」
「うちのセントレナなら余裕だと思うんですけどね」
『え?』
「ま、それはさておきです。警備伯さん」
「はい」
「あなたの受けた屈辱ですが、今のうちに晴らしておきませんか?」
「はい?」
おぉ、ジルビエッタさんの目が輝いてるように感じる。彼女を見て呆れてるフェイルラウドさんもいるけどね。
「フェイルラウドさん、ヤツのところに案内してもらえますか?」
「はいっ」
なんとも良い返事。困惑してる警備伯さんの腕を引っ張って立たせようとするジルビエッタさん。
「ご案内します」
「ありがとう」
俺はフェイルラウドさんについて階段を降りていく。なるほど、地下牢なわけね。後ろは『楽しみですねー』というジルビエッタさんと、『どういうことなんだい?』と相変わらず困惑中な警備伯さん。
通路に明かり。両側には小部屋に入るためのドアが左右に四つ。一番奥の右側、ドアを開けると2メートル離れた場所に鉄格子。
牢屋の中は奥にトイレらしき物体。布団はなし。けれどこの地下室自体、何かで暖められているらしく寒く感じない。なるほどこういう構造になってるわけだ。
「何をしに来た? 何も話さんぞ」
ベガルイデはこちらを恨めしそうに睨む。最初に見たときの服装じゃなく、実に地味な服装をさせられているね。
「昨日からこんな感じなんです。あのときの殊勝な態度はどこへいったんでしょうね?」
やれやれですよ、という仕草で呆れるジルビエッタさん。
「フェイルラウドさん」
「はい、どうぞ」
かちゃりと鍵を開けて鉄格子の入り口がフリーになる。俺はくぐるようにして牢屋に入っていく。
「こ、こっちへ来るなっ!」
ベガルイデはその場から立ち上がって壁を背にする。
「な、何をしようというんだね?」
俺はベガルイデに軽く触れて呪文を口ずさむ。
「『
「――ぐぶぉっ」
糸が切れたように崩れ落ちるベガルイデ。壁を背中に座り込むように気絶したっぽい。
「フェイルラウドさん。手本見せてあげて」
「いいのですか?」
「うん。知ってるでしょう? ばっさりやっちゃってください」
「はい……」
「フェイルラウドくん。何をいったい?」
フェイルラウドさんは腰から剣を抜く。そのまま振り下ろすと、ベガルイデの左腕を肩から切り落とした。落ちた腕の上に倒れ込むベルガイデ。
そのあまりの痛みに一度目を覚ましたがまた俺が『レヴ・ミドル・リカバー』で気絶させた。
「なななな、何をしているんだ、君たちは?」
「駄目ですよ。狙うならここでしょう?」
俺は自分の首をぽんぽんと叩いて見せる。
「いえ、その、さすがにまだ……」
「あぁ、そういうことですか。『
斬り落としたはずの肩が巻き戻るようにしてくっついていく。流れた血も同様に。服だけが肩から肘に落ちようとしているのは、確かに斬り落としたという事実が残っているわけね。
「……これはもしや?」
「そうです。俺は『そういう加護』を持っているわけです。ジルビエッタさんはどうしますか?」
「私は昨日お伝えしたとおり」
「あははは。あれは俺も白状しますって」
「何をしようとしたんだろうか?」
「さて、警備伯さん。好きなようにされて結構ですよ。先ほどお教えした通り、殺しても戻せます」
「なんという……。いえ、私はとりあえず十分です。一度上に戻りましょう」
俺たちは一階を通り過ぎて、二階にある警備伯さんの私室へ通された。無骨で少々固く締められた綿の入ったソファーに座った。遅れてジルビエッタさんがお茶を持ってきてくれる。
「なるほど、納得がいきました。彼奴が何もかも諦めたように抵抗をしないのは、こういうことだったわけですか」
「そうなりますね」
「ただ、相変わらず何も話そうとしませんけどね」
フェイルラウドさんも警備伯さんに続いて言う。口は固いかー。ダイオラーデンにいたあのハウなんとかってヤツと同じなのかもだな。
「あの男も貴族なんですかね?」
「おそらくはそうだと思われます。……ところでタツマ様」
「はい、なんですか?」
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