第50話 さて、どう出るかね?
俺をじっと見上げて麻夜ちゃんは言う。
「やっぱりハジかれるね」
「ん? 何が?」
『タツマおじさん。何気に麻夜たちより凄くない? 麻夜、「鑑定スキル」使ったのに全然駄目なの。まだレベル1だからかなぁ?』
求めてた鑑定スキルキターっ!
『まじか? そんなのあるんだ?』
『勇者には出やすいって聞いたよー。でもね、朝也くんには出なかった。麻昼ちゃんは持ってるけどね』
勇者限定ですかー、しょぼーん……。
「あの、いつまで麻夜ちゃんの手」
朝也くんに注意されちゃったよ。
「あぁごめんね、職業柄、どうしてもね」
「朝也くん、タツマおじさんに嫉妬? うわ、お子様ーっ」
口元に左手の指先添えて、にまっと笑う麻夜ちゃん。この子、天然じゃないんだな。今までの仕草、全部計算ずくなのか?
『俺ね、しばらくはさ、城下町にある冒険者ギルドの、ダイオラーデン支部にいると思うから、来たら説明するよ』
『うん。麻夜とタツマおじさんだけの秘密?』
『いや、そういうわけじゃないけど。一応、企業秘密が多いから』
『ふぅん? ま、そういうことにしといてあげる』
18歳とは思えない、いや、頭がいいんだろうね。麻夜ちゃんは。
『二人にもさ、手、見せてもらえるように伝えてくれる?』
『いいよ。麻夜たちのこと、心配してくれてるんだもんね?』
『あぁ、心配だった。そりゃそうだよ。同郷の数少ない……』
『はいはい。泣きそうな
俺の頭を軽く撫でて、微笑むようにして立ち上がり、麻昼ちゃんの隣に歩いて行く。
『ご主人様』
『うん。あり得ないことが起きてる。こんなに短い時間で、悪素毒の浸食が始まってるんだ』
『それは本当ですか?』
『多分、練習や鍛錬という名目で、飲み水や何かの浄化みたいなことをさせられてる可能性もあるね』
『なんともそれは……』
『大丈夫、一応、釘は刺しておくよ』
『釘? ですか?』
『あぁ、そういう言い回しは使わないのか。注意しておくってこと』
『そうでしたか、あとですね』
『ん?』
『いくら18歳の子供とはいえ、女性の手を触りすぎです』
『あー、……ごめんなさい。一応、治療なんだけどね』
『それなら仕方ないですけど……』
あ、珍しい。ロザリエールさんが拗ねてるみたいだ。
小走りに駆け寄り、俺の隣にまた座った麻夜ちゃん。
『タツマおじさん、すごいねっ。「悪素毒」消えてる』
『それって鑑定の?』
『そうだよ。巫女さんじゃ消えなかったのにねー』
まじか。どれだけ低いんだよ。その巫女さんとやらの回復属性レベルは。
『それで、二人は、あ、こっち来てくれた』
『うん。大丈夫。これからのこと、秘密にしなかったら麻夜ね、二度と口利かないって釘刺したから』
『ありがとう』
『いいえ、どういたしまして』
俺は麻昼ちゃん、朝也くんの順で指先の確認をした。朝也くんはまだ黒ずみはなかったけれど、麻昼ちゃんはあったよ。まるで、外れた自転車のチェーンを直して、手を洗っても爪の間に汚れが消えない。そんな感じだったね。
症状的には、暖めると少しピリッと響く程度。この城下町の人より全然だけど、いずれ痛みを伴う状態になるだろう。二人とも、『ディズ・リカバー』をかけておいた。朝也くんは黒ずみなかったけど、一応ね。不公平にならないように治療しておいたんだ。
「タツマさん、謁見の準備が整いました」
ネリーザさんが呼びに来た。うわ、一応、緊張するな。プライヴィアさんで慣れてるとはいえ、王様と会うのは初めてだし。
「俺、失礼にならない? こんな普段着で」
俺はいつもの格好。グレーの生地で、動きやすいスラックスもどきに、シャツ。その上にジャケットみたいなのを羽織ってるだけ。正装じゃないんだよな。
「大丈夫です。あたくしたちは招かれたわけではありません。それに、事情が事情ですし」
「だよね。少しくらいは目をつむってもらおうかな」
謁見の間。金かかってるなー。大理石みたいな床。白く光沢のある柱と壁、そして知らない天井。ダイオラーデン王国、国王、シレンジェール・ダイオラーデン陛下。御年42歳と若い国王だった。
勇者の3人も、片膝ついて頭を低くしてるけ。もちろん一礼はしたけど、俺は立ったまま。この国の礼儀に従うつもりも、一応ないから。それに彼らには謁見になってるだろうけど、俺にとってはただの確認作業。お貴族様閣下の失態に対して、どう舵を取るか。返答次第では、考えるつもりだし。
「あ、申し訳ないです。一応こう見えても、『冒険者ギルドと、エンズガルド王国の大使』として来てますから。謁見を求めたわけじゃなく、忠告させてもらいに来ただけです」
そう言って、委任状を見せる。王様にも、この場にいる誰にも、文字までは見ないだろうけど、形だけ見せておく感じかな。ざわっとするのはお約束だね。
うん。魔族の国の大使だから。ついでに冒険者ギルドはエンズガルド王国と繋がってるって宣言してるようなものなんだ。
「この度は我が国の侯爵、ハウリベルーム・グリオルが貴殿に対し、不始末を働いたようだ。この場においてその非礼を詫びたい」
王様的謝罪方法ってやつだね。玉座に座ったまま、首だけぺこりというやつ。偉そうだけど、偉いんだから仕方ないのかな?
「はい。謝罪は受け入れます。ですが、同じようなことが起きた際、次回は『争いごと』に発展する可能性もあります。お忘れのないように、お願いしたいところです」
「肝に銘じよう」
「それでですね、閣下の処分についてですが、どのようにしていただけますか? 少なくとも、俺を暗殺しようと企てていたわけです。これが国としての考えならば、こちらにも相応の出方をしなければならない。そう、エンズガルド王国公爵、プライヴィア・ゼダンゾーク閣下はおっしゃってましたが?」
うわ、国王陛下の表情が歪んじゃったよ。相当、プレッシャーを感じてるんだろうな。
「相応の処分を検討しよう」
「そのあたりは、お任せいたします。つきましては、結果を冒険者ギルドの支部まで通達していただけたなら、助かります」
国王陛下はひとつ頷いたね。顔がひきつってる感じはある。そりゃそうだ。ここより強い国が、『怒ったぞ』って言ってるんだから。
騎士さんに両側から捕縛されて、
これでいわゆる『お礼参り』は一応、終わったんだ。ロザリエールさんもすっきりした表情してたね。あぁ、彼女は待合室で待っててくれたよ。俺が殺されても殺しきれないって、捕縛されそうになったら、それなり以上に暴れられることも知ってるからね。実験はしてないけど一応、奥の手も持ってたし。使いたくないけど。
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