第49話 元気にしてた?
俺はねじったタオルをお貴族様閣下の口から外した。使用済みのタオルは、汚いからぽい。こいつの胸元へねじねじ。
「な、何をさせるつもりだ?」
「つもりだぁ?」
「何を私にさせようとする?」
「あー、簡単には直らないわけね。うん、じゃ、王様のところへ行こうか? あ、逆らっても無駄だよ。この大陸には、俺を殺せる人はおそらくいない。そう、プライヴィア閣下がお墨付きをくれたからね」
ハウリベルームこと、お貴族様閣下は、曲がりなりにも侯爵だったから、翌日には国王陛下に謁見ができるらしい。それまでは、この離れに滞在することにしたんだ。
一晩くらいは、食べ物もあるし、飲み物もあるし。もちろん、お貴族様閣下には釘を刺しておいたよ。
『もし、死んで逃れようとしたって、その場で蘇生するし、暴れようとしたら、とりあえず片方潰しておこうと思うんだ。大人しくしておいたほうがいいと思うけど、どうでしょ? 理解していただけましたか? 閣下』
そう言ったら大人しくなったよ。とりあえず、隣の小さな部屋に転がしておいた。
「それにしてもご主人様」
「どうしたの?」
「拷問に回復魔法を使うだなんて、思いもしませんでした……」
「そう? でも、五体満足だよ? 擦り傷ひとつも残しちゃいないし」
「それは結果論でございます。ですが、あれはさすがに、ドン引きでございました……」
ロザリエールさんから、ドン引いただきましたー。ありゃ、まじで呆れた表情してるし。迷いなくさくっと二人を瞬殺した、ロザリエールさんが言うとは思わなかったよ。
ちなみに、お貴族様閣下とケルミオットには眠ってもらってる。ロザリエールさんってさ、精霊魔法が使えるんだって。土と火、それと闇。水はそれなりで、風は苦手らしいよ。眠りの魔法が闇系統の精霊魔法らしくて。そりゃもう、ぐっすり寝てるよ。
それからゆっくり、お酒を飲みながら、明日の予定を話してた。俺もロザリエールさんも緊張してたからか、いつの間にか寝ちゃってたみたいんだ。
俺のほうが先に目を覚ましてたみたいでさ、それでもロザリエールさんが膝枕をして、俺を寝かせてくれたみたい。どっこいしょと入れ違いに彼女の頭を膝の上に乗せようとしたとき、目を覚ますんだもの。気まずい空気がちょっとだけ流れちゃったかもしれないんだよね。すぐに笑い合ったんだけどさ。
翌朝になっても、執事のケルミオットはこのまま転がしておいた。あとで、『通報すればいいかな?』って思ったんだ。めんどくさいし。お貴族様閣下は、荷物用の丈夫な袋を出して突っ込んで肩に担ぐことにしたんだ。まるでサンタクロースだね。めんどくさいし。
王城へ行って、まずは事務官のネリーザさんに連絡を取ってもらった。
「あら? タツマさんではありませんか?」
「久しぶり。元気にしてたよ。あのね――」
かくかくしかじか。色々説明が面倒になって、袋に詰めたお貴族様閣下を出して、説明をさせた。すると、30分もしないうちに、国王陛下に謁見となったわけですわ。
そのままお貴族様閣下は、連れていかれて別室へ。入れ替えに、待合室へ来たのがなんと、朝也くん、麻昼ちゃん、麻夜ちゃんの勇者様三人だったんだ。
「ほら、朝也くん、ソウトメのおじさんだよ」
「うん、おじさんだ」
「麻夜だよ。覚えてる? タツマおじさん、生きてた?」
『生きてた?』って麻夜ちゃん、何気に鋭い。うん、二度ほど死んだよ。凄いでしょ?
三人ともネリーザさんたち事務官よりも、お金のかかっていそうな、いかにも勇者様という服装をしてる。立派になっちゃって、よかったよ。酷い目に遭ってないだけ。俺は逢ってたけど。
『ご主人様、こちらの子たちは?』
俺の肩越しに、小声で質問してくるロザリエールさん。
『あぁ、この子たちが件の勇者様。俺と同じ世界から、こっちへ召喚されちゃったんだ』
『それはまた……』
『心配だったんだよ。もし、酷い目にあってたらと思うとさ』
『確かに、そうですね』
『見た感じ、それらしい首輪も、腕輪も、足枷もつけてないっぽいし、昨日みたいなこともあるからさ。奴隷みたいな扱い受けてやしないかって……』
麻夜ちゃんが立ち上がって、とことこ俺の近くへ来るんだ。それで、ちょこんと俺の隣に座るんだよ。
「あのね、聞いて聞いて」
「どうしたの?」
「朝也くんと麻昼ちゃんったらね。麻夜の見てないところで隠れてイチャコラするの」
「そりゃまた……」
「でしょ? そりゃ両思いなのは知ってるけど、露骨にされるのも、困っちゃうのよねー」
「あれ? 麻夜ちゃんも朝也くんのこと」
「あー、無理無理。朝也くんは弟みたいなものだし。それに麻夜ね、年下無理だもの」
「え?」
「麻夜とね、麻昼ちゃんは高三で18だけど、朝也くんはね、16になったばかりなのよね」
「まじですかー」
まさかの年下。それも2歳差ときたもんだ。そうだ。確認しなきゃまずいだろう?
「麻夜ちゃん」
「なんでしょ?」
「ちょっと手を見せてくれるかな?」
「ん? 手相? それともセクハラかな?」
それでも両手を差し出して首を傾げて見上げて、口角を両方持ち上げて『にぃっ』と微笑む。
「あのねぇ、……利き腕はどっち?」
「えっとね、左だよ」
向かって右か、人差し指の爪との間から、爪のかたちに沿って。あぁ、思った通りだ。悪い予想が当たってる……。こりゃ全員見ないと駄目だな。
「普段、どんなことしてる?」
「んっとね、麻夜はね、聖属性魔法がメインだけど、他の魔法も練習してるよ?」
「どんな方法かな?」
「え? ひ・み・つ」
「ほんと?」
「秘密にしなきゃなのよね」
「あぁ。そういう意味ね、そりゃ仕方ないわ」
軽口をたたき合いながら、俺は全部の指。爪と皮膚の間を目で確認していく。すると、あったんだ。1ミリまではない。コンマ5ミリくあるかないか。けれど俺には、これが悪素毒だって確信できるんだよ。
『これさ、この爪と皮膚の間』
『どしたの? 麻夜と内緒したいの?』
『ちょっと真面目な話』
『うん、ごめんなさい。なんとなくそんな気がした』
『この隙間の黒ずみって、元々あった?』
『んっとね、聖属性魔法、練習始めて一週間くらいかな? 洗っても取れなくなって、何だろう? って思ってたのよねー』
俺は麻夜ちゃんの両手の甲を、軽く支えるようにしてじっと見る。
『痛くはならない?』
『お風呂に入ったら、ピリピリってなるくらいかな?』
『そっか。ちょっとごめんよ。『
全部の指にあった悪素毒の黒ずみは消えたみたいだ。これで一安心。
『あれ? 巫女さんと違う魔法? ていうか、肩こりまで消えちゃったんだけど?』
肩こりまで効くのかいな?
『ひ・み・つ』
『おじさんがそれ言うと、ちょっと「あれ」かも』
『あー、はいはい。「きもい」って言いたいんでしょ?』
『あたり。あははは』
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