第223話 手の内を明かすのも作戦会議。
俺はインベントリから串焼きを取り出した。お皿もね。
「串焼き? おやつにしてはヘビーじゃない?」
晩ごはんでお代わりしてお腹いっぱいな状態。今日は飲まないけど、俺は晩酌するとき串焼き一本は出すからね。これくらいは余裕だよ。
「これはとにかく食べちゃって」
「あー、麻夜もひとくち」
「はい」
「はぐはぐあつあつ、これは美味しい」
「でしょ? スイグレーフェンの串焼き屋で買ったヤツだから」
「あー、あそこの熊みたいに大きいおじさんがやってるところ?」
「熊って、そうだよ。元から美味かったけどさ、最近は俺たちがワッターヒルズから持ち込んだ香辛料で更にガツンとうまくなったんだ」
「うん、前は淡泊だったもんね……」
そうなんだ。スイグレーフェンではロザリエールさんのおかげで、セテアスさんの宿から濃い味が広がっていった。だから多少マシになってるんだ。
「さておき。これをこう触って」
俺は皿の上に置いた串を指で触る。
「『
口の中で小さく呪文を口ずさんだ。すると串だけがさらさらと黒い細かな
「え? こ、これ。ラノベとか漫画にある『崩壊現象的なあれ』じゃないの?」
「そうともいうかな? もちろん、人にも作用するよ」
「何これ? こんな属性持ってなかったでしょ? 兄さん」
「『反転』って呪いがあるんだ。前に話さなかったっけ?」
「あ、聞いたような、聞かなかったような」
麻夜ちゃんはたまにこうなる。何かに集中してるときは聞いた話は右から左。あのときは確か、セントレナをわしゃわしゃしてたはず。
「今回俺ね、棺桶みたいなので運ばれてたんだ。目を覚まして、手枷足枷をされてたんだよ」
「うわ、それって最悪じゃないの? だから油断しちゃ駄目って、ロザリエールさんに言われてたんじゃないの?」
「うん。あれはほんと、ごめんなさいとしか言えないわ。それでさ」
「うん」
「金属製のヤツだったから、迷わずさっきの魔法で俺の片腕を消した」
「うげっ」
「ま、いつもやってた、ワッターヒルズの崖下落下鍛錬よりは痛くないから」
「へんたいどえむおばけがここにいる……」
「悪かったね。それでね、再生して次にもう片方。次は足って自由を奪い返して、最後にね、天井っぽい何かを壊したわけよ」
「うん」
「そしたら真っ逆さま。地面にたたき付けられて、結局蘇生したってわけ」
「なんだかなぁ……」
「そこがピレット村のど真ん中。人の上に落ちなくて良かったけどさ」
「うわぁ、迷惑かけまくり」
「それは悪いと思ったよ。そこにあのベガルイデが降りてきて、偉そうなこと口走るもんだから、イラッときて足掴んで消してやった」
「うわぁ……」
「血が止まらないからのたうち回ってるのを一端治してから、胸ぐら掴んだわけよ」
「なんとも、優しい拷問ショーの始まり始まりなわけね」
「村の人たちも見てたからね。だからグロいのはやめておいて、『
身体びくんびくんさせながら、波打つみたいに踊ってるみたいだったな。
「うわ、楽しそう。それでどうしたの?」
「そこにね、フェイルラウドさんが現れたってわけ」
「なるほどねー。それで今に至ると」
「うん」
「これが俺の手の内全部。基本近距離だけ。触れないと何もできません」
MMOの魔法は範囲があったけど、現実では接触のみ。そんなに甘くないんだなと思ったんだよね。
「えっとね。麻夜は聖属性レベル4。まだ5には上がりそうにないかな?」
「うん。上がったばかりだっけ?」
「そうでもないよ。経験値もらいまくってるから、四割弱ってところかな? レベル5への道は案外遠いです……」
「それでもこっちの人から見たら、神様レベルの上がり方みたいだって。なにせあのジャグさんが、2に上がったのって90年前。ほぼ毎日治療活動続けてたんだけど、3に上がったのは俺がさ、レベル上げの効率いい方法教えた、つい先日だもの」
「90年って……。あ、それでね」
「うん」
「風属性もレベル4」
「うぉおお、まじですかー」
「えっへん。頑張ったのですよ。兄さんのためにね。だから褒めろ」
「どうやって?」
「腕を広げるです」
「こう?」
すると麻夜ちゃんは抱きついてきた。うーわ、相変わらず柔らかいしいい匂いがする。
「頭撫でろ」
「うん。よくやった。頑張ったね」
「えへへへ」
強く抱きついてきてるからちょっとやりにくいけど、俺も軽く抱きしめて後頭部あたりをなでなで。こうしないとたまに文句言うんだよ、麻夜ちゃんは。
「すんすんすん、ふがふがふが、……うん。堪能した」
このにおいふぇちのへんたいさんがっ。
「ところでさ、レベル4の魔法って何なの?」
「あ、忘れてた」
麻夜ちゃんは後ろ頭をかきながら、俺の隣に座り直す。
「えっと。遠距離攻撃の『エア・キャノン』。レベル3の『エア・バレット』大口径版って感じ?」
「名前からして大砲だね。それにしても、『エア・バレット』なんてあったんだ。でも麻夜ちゃん、『エア・カッター』ばかり使ってなかった?」
「だってあれレベル2だし、範囲だから使いやすくて」
「なんともまぁ。それって殺傷能力は?」
「うん。魔素込める度合いによるけど、ラノベでいえばAランクかな?」
「うわ、もしかして」
「うん、獣に試したけどね。軽く撃っただけでも、土手っ腹に10センチくらいの風穴あいたですはい」
「まじですかー」
「射程距離的には100メートルは余裕かな? 兄さんがいたら魔素使い放題だから、撃ちまくりの固定砲台になるね」
「十分凄いわっ」
「えへへ。それとね、『エア・バースト』っていうのがあるんだけど」
「ほほぅ」
「こっちは範囲だけど、殺傷能力は低いのよ。ただ吹き飛ばすだけ」
「なるほどね」
「使い方によっては、よさげな魔法。ちなみに、空飛んでる鳥に使ったら」
「うん」
「遙か彼方に吹っ飛びました」
「あのねぇ……」
「大丈夫、あっちで飛んでたから」
「なるほど。風の塊をぶつけるみたいな?」
「んー、塊じゃなく暴風って感じ?」
「そっちか。それでもかなり使えるかもね」
「そだね、レベル4はそんな感じでございます」
びしっと敬礼する麻夜ちゃん。そのあと肩をすくませて『やれやれ』という仕草をするんだ。
「早いうちに風を極めちゃってるせいもあってね、めっちゃ火属性と水属性が上がりにくいのですよ。もしかしたら、こっちの世界はそういう相性が、あるのかもしれないんだよね。もちろん、属性的に正対する位置にある土属性は、まったく反応しませんでした」
「そうなんだ」
「火属性と水属性はレベル1が使えるから、いいんだけどね」
「それでも4属性。俺なんて回復属性だけだよ?」
「兄さんはチートだからいいのですはい」
「なんだかなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます